第33話 東雲ミオと霧坂詩乃

◆『東雲ミオ』



 放課後。ホームルームが終わってすぐに穂波の肩を叩く。


「穂波、じゃあ私ちょっと出かけてくるね」

「ああ。昨日言ってた女子会か」

「……たぶん?」

「たぶんってなんだよ」


 穂波が訝しげに言ってきたけど、私のイメージだと女子会って言えるような可愛い雰囲気にはならないような気がした。

 先輩は得体が知れないし、私の方も別に仲良くしようとは思ってないし。


(敵、ですからね)


 霧坂先輩という人は、正直何を考えてるかわからない。

 たぶん前に会った感じでは味方ではないんだろう。


(桃瀬さんも来るんだよね)


 ちらりと見れば、桃瀬さんも慌ただしく荷物を片付けている。

 周りの女の子は『どっか行くの?』なんて声を掛けていた。

 それには曖昧に誤魔化している。


(女子会とか、普段からやってそうだなぁ)


 やっぱり桃瀬さんは苦手だと感じる。

 私が持ってなかったものを全部持っていそうで。

 友達もいて、学校に通えて、穂波と一緒に出掛けられるくらい仲が良い。


 でも――今は私もこうして学校に登校できるようになった。


(これからは、代わりに私が穂波の傍にいる)


 今日もずっと穂波といた。

 傍にいれば引き留めることもできる。

 そうして見ていたら、桃瀬さんの周りの子が鋭い視線をこっちに向けているのに気づいた。


「……っ」


 慌てて目線を逸らしてしまう。

 なんで本人じゃなくて、友達がそんな目を向けてくるんだろう。


(……桃瀬さんが穂波のこと相談してたりしたのかな)


 そうだとすれば、邪魔者のように見られるのも仕方ない。

 なにせ私は突然二人の間に割って入った女なのだ。

 しかもずっと穂波の傍にいて、桃瀬さんから離れた方へ誘導しようともしているわけだし。


(でも……やめるわけには)


 逃げるように「行こ」と穂波を引っ張って二人で教室から出た。


「……穂波、気を付けて帰ってよね。寂しかったらお迎え行ってあげるから」

「寂しがるのはお前の方じゃないのか」


 そんな話をしながら学校を出る。

 正門の前で別れて、先輩から指示のあったお店に向かった。



 ◆



「やあ。ミオ君」


 店員さんに案内された四人掛けの席で、霧坂先輩が一人でコーヒーを啜っていた。

 桃瀬さんはまだいない。私の方が先に出ていたから当然だ。


「すまないね。先にコーヒーだけ頼ませてもらった」

「別にいいですよ」


 席に付く。白やピンクが目立つ明るい内装のお店だ。

 周りの席には私たちと近い年代の制服姿の女子がたくさんいる。


「おすすめはイチゴのタルトだよ」


 特に断る理由も無いのでそれとコーヒーを頼む。

 桃瀬さんは来てから頼めばいいだろう。

 先輩もイチゴのタルトを追加で頼んだ。


「ミオ君、学校での調子はどう?」


 届くのを待つ間、出し抜けに先輩が言う。


「父親みたいな事を言いますね」

「話題はなんでもいいんだよ。君の事を知りたいから、とりあえず触りやすくて引っかかりのありそうなカンペを出してみただけ」


 あまりパーソナルな話をこの人にしようとは思わないけど。


「特に問題ないですよ」

「そう? 七花ちゃんとはあんまり喋ってないみたいだけど」


 なんでそれを知ってるんだと思うけど、友達になったと言ってたから相談を受けたのかもしれない。


「クラスで喋らない人がいるくらい普通では?」

「そうだけど、七花ちゃんは元々穂波くんと仲が良かったでしょ? なら穂波くんの傍にいるミオ君とも喋るのが自然じゃない?」 


 言われて、自分が来る前のクラスを想像する。

 私が来る前の教室では穂波と桃瀬さんは一緒にいたのだろう。

 そこに私が割って入ったから、桃瀬さんが弾き出された形になっている。


(でも、それは承知の上だ)


 桃瀬さんと穂波が傍にいると、不安になる。穂波がとられてしまいそうで。

 だから結局、割って入るのをやめることはできない。

 先輩が不思議そうに呟く。


「君と七花ちゃんはけっこう相性いいと思うんだけどなぁ」

「……え?」

「ちゃんと喋ってみればいいのに」


 ぽかんとしてしまう。


(……私と桃瀬さんが仲良くなれる?)


 いやいや。


「……絶対にないですね」

「ふふ。そうかなぁ。今度喋ってみてよ。楽しそうだから私も呼んでね」

「何を……」


 言ってるんですか、と言う前に店員がやってきた。


 呼ぶもなにも、桃瀬さんはどうせ今から来るはずなのに。


 テーブルに美味しそうなイチゴのタルトが並んで、二人でフォークを手に取る。


「じゃあタルトでも食べながら二人で喋ろうか」


 先輩がタルトの上に乗ったイチゴをつついて呟く。

 でもその言葉には違和感があった。

 さっきから、何か噛み合ってない。


「……二人?」


 先輩が少しだけ首を傾ける。


「うん。二人しかいないでしょ?」

「……桃瀬さんは?」


 私の問いには、白々しい微笑みで返された。


「来るなんて言ったっけ?」


 ハメられた、と思った。


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