「俺、告白されたんだ」と依存度高めの引きこもり天才幼馴染に伝えた翌日、催眠アプリを突き付けられた
じゅうぜん
第1話 お隣の引きこもり天才幼馴染
うちの家の隣には天才少女が住んでいる。
彼女の逸話は数知れず。
三歳くらいでパソコンを触って、気づいたら簡単なアプリを作ってたとか。
小学生の頃に思いつきで発明した物が大学教授を驚かせたとか。
気まぐれに書いた論文が海外で取り上げられてテレビに出たとか。
それで海外の有名大学から勧誘を受けたけど「遠いから」と断ったとか。
その他色々。嘘か本当かわからないものまで。
周りはみんな大きな期待を向けていたものだ。
この子は将来どんな凄い人物になるんだろう?
画期的なシステムを開発するのか、大発見をする研究者になるのか、はたまた会社を創業して世界的に有名になるのか。
きっと何になっても、素晴らしい業績を残す人になる。
そう信じて疑わなかった。
そんなお茶の間を賑わせていた天才少女は今――。
「あ、
部屋に引きこもって、ジャージ姿で毎日ネットに明け暮れていた。
◇
散らかった部屋。
脱ぎ散らかした服。謎の難しい言葉が掛かれてる分厚い本。
キーボードやモニター。何に使うのかわからないモアイ像。本当になんだこれは?
物でごった返した部屋の奥の椅子に元天才少女――
「あ、穂波だぁー。レスバで疲れたから肩揉んでぇー?」
ミオが天才としてもてはやされていたのはもはや過去の話。
高校生になった今、元天才の幼馴染は暗い汚部屋に引きこもっている。
「肩くらい自分で勝手に揉んでろ!」
「頑張って徹夜でレスバしたのに?」
「どの方向で頑張ってんだよ……」
「仕方ないじゃーん。こんな天才美少女が相手してあげてるのに向こうが諦めなくてさー」
澄ました顔で他人に責任を押し付けるミオ。
たしかに自分で美少女というだけあって、容姿はめちゃくちゃ整っている。
座ると床に着くくらい長くて綺麗な銀髪。瞳は透き通るアメジストのような紫。色白でほっそりとしたスタイル。
北欧の方の血が流れているためか、見た目には完全に海外の人形のようだ。
過去にテレビに取り上げられたのも、その容姿が一役買っていると思う。
でもこの散らかった部屋でジャージ姿でいる分には、ただレスバ相手にイキってる引きこもりJKにすぎない。
「向こうからは天才も美少女もわからんだろ。というか相手しないで早く寝ろよ」
「穂波がぎゅーして添い寝してくれたらすぐ寝る」
「赤ちゃんか?」
俺――
六歳くらいの時、東雲家が隣に引っ越してきた。
そこで親にミオと引き合わされてからずっと一緒だ。
ミオが引きこもる前も後もこうして変わらず付き合っている。
いわゆる腐れ縁である。
「穂波が添い寝してくれるなら赤ちゃんでもいいけど?」
「……いやそもそもお前、生活能力だけ見たらほぼ赤ちゃんだけどな」
「ひど!」
ミオは生活能力が皆無だ。
食事とか風呂とか、平気で抜く。
一人にしておくとガンガン不健康になってくので、週に何回は必ず様子を見て飯を作って食べさせたり、風呂に入らせたりしている。ほぼわんこの世話に近い。
そのわんこが急に不満げに頬を膨らませ、ジャージのジッパーをお腹まで下ろして胸をずいっと張ってきた。
「じゃあ聞きますけど! 穂波は赤ちゃんにこんなBIGな胸があると思うわけ!?」
「……BIG?」
胸を張ると、サイズの合ってない部屋着に多少の盛り上がりができている。
無いわけじゃないけど、BIGかと言われるとなんとも……。
「……なにその微妙な顔。別に十分あるでしょ? 触って確かめてみる? 穂波なら別に構いませんけど?」
挑発的に口の端を釣りあげて形の良い胸を掴んでるミオ。
けどもちろん、こんなからかい紛いの演技も日常茶飯事である。
「いや。赤ちゃんを触ってもなんとも思わないから」
「おいこら! やっぱ人の体を赤ちゃん言うな!」
直前の演技はどこへ行ったのか。
通じないとわかるや、すぐにぷんぷんと怒ってくる。
ミオはたしかに美少女だけど、見ていてドキドキする事はない。
ジャージ姿でぐうたらしてるミオは色気みたいな物とは皆無だし、容姿だってずっと見てるから見慣れてきた。
幼馴染というのはたぶん、そういう物なのだ。
……それにしたって生活の面倒くらいは自分で見れるようになってほしいけど。
「お前……俺がいなかったら生活どうすんだよ」
不意に思ったことが口をついて出る。
その瞬間――ぴたっと時間が止まった。
「穂波が――いなかったら?」
なぜかミオが凍り付いたように硬直している。
「な――なんで……っ? なんで……そんなこと言うの?」
「え」
「わ、わわ、私、何かしたかなぁ……? 穂波に嫌われちゃった……?」
「あの」
「ご、ごめっ、ごめんね? 悪いところあったら直すから……っ! そんなこと言わないで? 何処にも行かないよね……? 独りにしないで……っ!」
「いやいや待て落ち着け!」
いきなり震えだして、目の焦点が合わなくなってきたミオを慌てて揺する。
「例えばの話だよ! どこにも行かないって!」
「た……例えば……?」
肩を揺すってると、真っ黒だった瞳に色が戻ってきた。
「た――例えば、か。そっか、なんだぁ。いきなりだからびっくりしちゃった……」
「いや……びっくりしすぎだろ」
「ほ、穂波がそんなこと言うからじゃん!」
誤魔化すように肩をぺしぺし叩いてきた。
若干ぎこちないけど、普段の雰囲気に戻ってるようだ。
(……こいつ。たまに変になる時あるんだよなぁ)
昔から時折ミオはこういう風になることがある。
だいたいは何か誤解をしてるだけなので、それを解いたらすぐ直るけど。
「……じゃあ、そろそろ学校行くから。飯は冷蔵庫にあるの温めて食えよ。前みたいに忘れて倒れないようにな」
「はーい。問題ないよ。赤ちゃんじゃないからね!」
そんな腐れ縁のようにだらだら続いてる、お隣に住む天才幼馴染との関係性。
俺達の関係がおかしくなるのは、この日――俺が告白されてからのことだった。
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お読みいただきありがとうございます。
カクヨムコン向けに新作ラブコメを始めました。
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