架け橋
今日はプール清掃の担当だったが、私はとても気が重かった。朝から雨がちらついていていたため、プール清掃も中止にならないかな、と思っていた。ところが、直前まで降っていた雨は小雨になってしまい、清掃は決行になった。
プール清掃の時間がやってきた。雨はまだほんの少しだけ降っていて、霧の中を歩いているようだった。体操服に着替えた担当の子たちが、用具入れの中からブラシを持って出てくる。私もそれにならい、用具入れの中きらブラシを取り出すと、プールの汚れた水を押し出していく。
私は斜め前を歩く少女を見る。坂本可奈。気が重い原因だ。彼女もプール清掃の担当だったから、気が重かったのだ。
もともと、私と可奈はとても仲が良かった。一番の親友と言っても良かった。なのに、可奈は最近転校してきた白瀬さんにかかりきりで、私とは遊んでくれなくなった。休み時間も、移動教室も、いつも白瀬さんと一緒だった。そして、ついに言ってしまった。「私と白瀬さん、どっちが大事なの」と。でも、可奈が悪いのだ。私たちは一番の親友同士だったのに、私の信頼と友情を裏切るから。それ以来、私と可奈は気まずいままだ。うまく言葉を交わせずにいる。
本当は、わかっている。可奈は優しいだけだということも、私が白瀬さんに嫉妬しているだけだということも。でも、可奈が悪いと思わなかったら、それって私が悪いってことじゃないか。私は、自分の良くないところを認められなかった。自分を責めてしまうから。その重みに耐えられないから。
また、可奈と仲良くしたい。少なくとも、気まずくないようにしたい。そのためには、やっぱり私から声をかけるべきだった。ブラシを持つ手に力が入る。
勇気を出して、可奈の元に駆け寄る。二つ結びにした髪が揺れる。なんて声をかけよう。まず、謝るのがいいだろうか。なんて謝ればいいだろうか。考えが止まらないのと同じように、濡れた床で勢いづいた足も止まらなかった。可奈の元に辿り着く直前でずるりと転け、その拍子に足を挫いてしまう。
「だ、大丈夫!?」
駆け寄ってくる可奈の顔を見上げる。焦って見開いた目の中に、ぽかんとした私の顔が映っている。雨はいつのまにか上がっていて、あたりは明るくなっていた。可奈の頭の後ろには虹が浮かんでいて、虹色の天使の輪みたいだった。
「う、うん」
可奈が差し出してくれた手を、ゆっくりと取る。足はじくじくと痛み、体操服はプールの水を吸ってどろどろだった。
なんとか立ち上がった足元には水たまりができている。その水たまりにも、虹が映っていた。
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