8通目 忠実なる下僕へ

 中ランクの大学を卒業後、中程度の企業に就職し、毎日同じ様に仕事して帰るだけの生活


 そんな私が別の顔を見せられる場所がある


 あるマンションの一室


 厚いカーテンで光が遮断されている薄暗い室内、物々しい一人掛けのソファにボンテージのスーツを纏って座る


 目の前の床には1人の男が跪いていた


 この部屋の中では明らかに主従関係が存在し、私はこの男の主人である


 その男に向けて気まぐれでペンを執った


 そう… これは気まぐれだ


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


刮目して見よ、愚かな犬よ


汝に手紙などしたためる事自体が我が慈悲によるものと感謝するがいい


我の与えし命に従い実行していること評価してやろう


汝の存在は私の命令を遂行するためだけにある


そこに一切の迷いも持たず疑問を抱いてはならない


絶対的な忠誠こそが汝が我の傍らに侍ることを許される唯一の理由である


汝は何の価値もない獣に過ぎない


だが、その獣が私という絶対の存在を求め、ひれ伏し、我が命じるままに蠢く姿は時に私の退屈を紛らわせる


その愚直なまでに一途な瞳が私を見上げる時、私は己の絶対を再確認するのだ


故に次の褒美として汝に新たな試練を与えよう


来たる満月の夜、我が前へ参上せよ


ただしその手には汝が最も尊ぶものを携えてくること


我が前に跪き汝の存在意義を声高らかに我に示せ


我が命令に一寸の躊躇も許さぬ


汝の全てを我が前に捧げよ


そうすれば我が慈悲の欠片をおこぼれとして与えてやらなくもない


我にひれ伏せ


◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆


 数日後の満月の夜


 足を組みソファに深く座る女王の前には男の姿があった


 手には一通の手紙と思われる物が握り締められていた


 それを差し出し、只々深く額を床に擦り付ける様に頭を下げるだけの男


 女王は手紙を手に取り、中を確認し微笑んだ

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