第9話・後編 - 静電の血
現実
リンとサヤが激突。
鎌が唸り、紫の残光を残して空を裂く。
サヤの双刃が火花を散らす。
リンは体をひねり、鎌を背後に回し――回転斬り!
腕が飛ぶ。だがすぐに再生。
「……再生能力、ね。」リンが舌打ちする。
隣にイツキが現れた。鼻血を流しながら笑う。
「じゃあ、もう一人は俺がやる。」
拳を握る。「オーバードライブ――」
皮膚の下が青白く光り、静電が走る。
「……フラッシュ。」
爆音。
瞬きの間に、イツキの拳がトオルの胸を貫いた。
幽体が三本の木を突き破り、粉砕される。
「まだ足りねぇな……スピードが。」イツキが息を荒げ、笑う。
再び幻の中へ
呪われた腕の刃を振るい、クロガミの念動障壁と激突。
衝撃波が紫の稲妻となって世界を揺らす。
クロガミは悠然と浮かび、手をかざす。
「まだ“救い”を信じて戦うのか、レンジ。哀れだな。生まれながらに捨てられた者よ。」
血を吐き、笑う。
「喋ってろよ。喉を裂くまでの暇つぶしにはちょうどいい。」
突進。刃が光る。
指先が動いた瞬間、体が宙で止まった。見えない力に締め上げられる。
地面が砕け、叩きつけられる。
再び引き上げられ、また叩きつけられる。
何度も。
体が痙攣し、血を吐きながら笑った。
「はは……親父よりはマシだな。」
クロガミの目が陰る。「侮辱で命は救えん。」
手を振る。俺は紫の壁に叩きつけられ、世界がバグのように歪む。
街が溶け――
足元は黒い水、空は赤く燃える。
闇から無数の手が這い出す。足を掴む。
腕が――ない。
断面から血が流れ落ちる。
息が詰まる。
手が俺を引きずり込む。
囁きが始まった。
「出してくれ……」
「……出してくれ……」
歯を食いしばる。
「お前は……誰だ……」
囁きが笑い声に変わる。
赤空に鎖の音が響く。
現実/リンの最終一撃
リンとサヤ。息を切らしながらも刃を交える。
鎌を背後に回し、低く呟く。「幽断――スペクター・セヴァランス。」
瞬間、突進。
一閃――光の弧が走り、サヤの首が飛んだ。
沈黙。
胴が崩れ、霧に溶ける。
リンの肩が上下する。
髪を掴み、首を持ち上げて呟く。
「約束した……この首たちを。」
雪が再び降り、血と灰を覆う。
イツキが息を荒げながら笑う。
「中に入る。」
「死ぬなよ。レンジとモモを助けてこい。」
「その首には触るなよ。」
微笑み、歪んだ空間へ飛び込む。
赤空/終幕
息が荒い。空気が重く、悲鳴が響く。
鎖が宙を漂う。クロガミが向かいに立つ。
地面を紫の静電が走り、影を形作る。
裸足が静かに降り立つ。
桜と霊の香り。
リン。
髪が風に流れ、鎌を構え、血風に着物が舞う。
胸が高鳴る。――また幻か。
刃を構える。
「またお前か……幻だろ。」
突進。
斬撃が空を裂く。リンが目を見開き、鎌で受け止める。火花が散る。
「レンジ! やめて――!」
「お前はリンじゃない!」
斬撃、斬撃、斬撃――狂気の速さ。
衝撃波が赤霧を弾く。彼女は必死に防ぎ、髪が乱れ、肩口の布が裂ける。
最後の一撃。鎌と刃が交差し、止まる。
鼻先が触れるほどの距離。
「私よ!」リンが震えながら叫ぶ。
刃が頬をかすめ、髪の束が舞う。
リンの手が俺の服を掴んだ。
「見て! 私を見て!」
動きが止まる。刃が胸に届く寸前。
瞳――柔らかな紫の光。確かに、あのリン。
「私よ、バカ、戻って!」
一瞬が永遠に感じられた。
「……リン?」血を吐きながら呟く。
「そうよ。やっと気づいた?」
静電が震える。
上空でクロガミが笑う。「感動的だな。」
手を掲げ、世界が再び裂ける。
リンが先に走る。鎌が光を断つ。
クロガミが念動で受け止め、空に紫の波紋が広がる。
腕の刃が再び燃える。
走る。――斬!斬!斬!
三閃。クロガミが息を呑む。
「やるじゃないか。」掌を上げ、俺を吹き飛ばす。鎖に叩きつけられる。
血が滴る。再び囁き。
「出してくれ……」
「……出してくれ……」
目を閉じる。
足元が脈打つ。
呼吸が静まる。
リンがこちらを見る。目が見開かれる。
腕の刃が白く――氷へ。
肌が蒼白になり、静脈が黒青に染まる。
唇が歪み、狂気の笑み。
首と頬に闇の文様が浮かび上がる。
「……レンジ?」リンが囁く。
目を開ける。狂気の蒼。
笑う。狂ったように。
「レンジ? 誰だそれは?」
声が低く歪む。
「俺は――オオカミヤ・マダラだ。」
クロガミの瞳が揺れた。
リンが息を呑む。
俺は笑い、低く身をかがめる。氷と闇の刃が形を成す。
――ドンッ。
視界から消える。
クロガミの胸から、血が噴き出した。
[エピソード9 終]
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