第2話 整備士の憂鬱

 本国ブランソニアより、はるか離れた辺境の植民地都市ノーランド。


 そこで転移者である武豊川 八郎太は整備主任をしていた。 


「ハチ主任!! タケトヨガワ ハチロウタ主任!!」


 駆け寄る者が大声で八郎太を探していた。


「ここだ。カタコトで呼ばなくてもちゃんと聞こえてるよ」


「さっきから携帯に連絡してるんですけど気が付きませんでした?」


「あ、本当だ。すまんすまん」


「転移してきた人は携帯端末の扱いがどうしても慣れないんですよね。なんでですか? 部分的義体化とかしないんですか?」


「俺に聞くなよ。俺だってわからん。激しい音でも出てくれりゃ気がつくんだがな。それに義体化は怖いんだ。身体切ったり、機械を身体に埋め込むの嫌いなんだよ」


「うっわ……。そういうの、こっちじゃ差別になりますからね。他所で言わないでくださいよ。とにかく確認しといてください。緊急の補給要請です」


 腕に装備している携帯型情報端末を見るとメッセージリンクで通達がされていた。


 そこには前線から引き上げてくる部隊の補給と整備の要請が来ていた。


「忙しいたらねぇな。整備整備補給補給補給。寝ても覚めてもお仕事お仕事。とんだブラック環境だぜ」


 八郎太は前の世界よりはマシかと思った。


 八郎太は端末が装備されている腕をだらりとおろし、自分が整備チェックをしていた装甲車両に寄りかかった。


 煙草でも吸うか……




 俺は転移者だ。


 若干の記憶喪失があったらしく未だに正確な記憶がない。


 以前の世界、西暦20XX年辺りの頃から来たと思う。目覚めてから約1年、目まぐるしい日々だった。


 俺はオーバーテクノロジーがある世界で何らかの施設から目が冷めたのだ。


 元の世界で見たこともないような機械から起き、ホログラフィックによる立体映像で簡単な状況説明があったからだ。


 あきらかに見たこともない技術であった。感心してしばらく、空間に浮かぶ映像をまじまじと眺めていた。


 しばらく時間が経つと施設から出るように促さた。


 外に出てみるとすぐにハンターとやらに保護され、巨大な壁のある都市まで連れて行かれた。そのあとは流れるように住民登録をして社会順応化教育を受けさせられた。


 そして、AIにより適性検査を受けさせられて整備士の仕事についた。


 仕事は以前の車両整備のスキルと、この世界のAIでなんとかなってロボット兵器の整備をこなしている。


 しばらく暮らしているうちに、恋人を得て婚約した。結婚資金を貯めようと良い稼ぎができると言うハンターギルドの口車に乗った


 赴任地に移動中に、この世界では稀に発生する酷い電磁波嵐に巻き込まれ、修理のために進路が変更された。


 俺は辺境に連れて行かれた。


 そして赴任先の変更を知った。何故かと言うとギルドの強制力が強く断れなかったからだ。


 すぐ後で赴任先が壊滅したと聞かされた時には自分の強運に感謝した。そして理由を言わずにいきなり変更を伝えてきたギルドに不信感を持った。理由ぐらい言えばよいのに。


 そんなんで、たまにデジタル郵便で届く恋人からの映像レターだけを心の支えとして、結婚資金と帰るための費用を得るために、この辺境植民地都市ノーランドで四苦八苦仕事をしている。


 己のスキル適性がうまくハマって頑張る理由もできて、腕利き整備士として出世街道を走っていた……走っていた、はずなんだよなぁ、ここに来るまでは。


「おい、整備主任。俺の機体はどうなっている? 照準がまた狂っていたぞ」


「オートエイム切ってませんか? こないだログに出ていましたけど。あぁ、当然、チェック済ですよね。なら、近接戦闘時に電撃を食らったりとかでもしましたか? そういうのだと問題起こるみたいです。今日の出撃時になんかありませんでしたか? 一応ログ見てみますよ」


「用事を思いだした。急ぎでなくてよいのだ。また来る」


 クレームをつけようとしていった男は踵を返し去って行った。


 車の整備士トラブルでよくある運転者に知識がなく、自分のミスを整備士の責任と思い込んで怒鳴り込んでくる輩が……そんな面倒な客のことを思い出しながらポンコツの相手を最近はよくしている。輩の取り扱いも慣れたものだ。


 などと余裕をこいでいたら俺の部下になる整備士が困った顔で近づいてきた。


 こいつは、この世界に来たばかりで慣れない仕事でミスを連発して部署をたらい回しされていた。なので可哀想に思って部下として迎えて面倒を見ていているのだが……なんやかんやトラブルがよく起こる。


 AIの補助があるというのに慣れない転移者は多いらしい。


 そんな新参者が車両に長距離無線機をっ取り付けて前線に持って行こうとしてる。この時期は意味ないぞ。電磁波嵐がよく起こるから持ってくなら短距離無線機持ってけ。と、俺はミスを未然に防ぐサポートをした。


 悪い子じゃないんだが色々とどんくさい。俺が手間暇かけて色々とサポートしているのだ。やる気があるので大事に育てている。


 才能の片鱗はあると思うのだが。


 その新人が困っていた。


「なんか昔の戦士みたいな人たちが機械も銃も要らない。己の目と鼻と耳、五感で戦うからいらないと。兎に角、白兵戦用の武器がほしいって、銃より剣をよこせとか言ってきます。なんですかあれ? 」


 新しい世界では空気中を漂うナノマシンにより、電波障害やら熱光学迷彩やらジャミング効果やらで機械に障害が発生し、人類から空が失われ、宇宙脱出も不可能となった。


 人類には強固なシェルターを備えた防壁都市で暮らしている。


 資源を求めて都市から送られるライフライン資源で暮らす。


 それぞれに固有な地球上の様々なバイオーム環境が成立っているフォースフィールドに囲まれた特殊な地域、資源採掘拠点など、人類は目覚めた環境や旅立ち拠点を作って、しぶとく生きている。


 だが、一番ワケがわからなかったのは様々な時代から多種多様な人間が、おまけに様々な歴史線とやらから転移して来ているとのことであった。


 そこに近代技術やオーバーテクノロジーが乗っかり西洋風騎士、バイキング風の戦士、和風の武者、各国のユニーク戦士達がパワードスーツによって戦場を闊歩している。


 確かに技術も文化も多くて混乱する。


 そんな戦闘職の連中の相手を適当にこなして新参者の部下を慰める。


「敵のテックが厄介で対抗装備も多すぎる。オーバーテクノロジーがありすぎて、俺もぅ全然わかりません。AIもちゃんと答えてくれないし。もぅウチに帰りたい 」


 今度は新参の兵士だ。半べそで泣いていた。あのような奴は大抵は転移して来たばかりだ。


 気持ちはわかるが兵士として契約しちまったんだ、契約期間まで頑張って生き残れ。


 だいたい、都市の防衛機関が悪い。下手な作戦で戦線膠着させやがって、物資と命の浪費だ。即戦力が欲しいからって、ろくに教えも訓練もせずに適当に戦場に出しやがる。頭おかしいのか? ここの司令官は。


 苛ついていると、また妙な兵士がウロウロしていた。


 今度は何だ?対戦車ライフルを大量に抱えていた。


「どうした? 敵はなんだ? 機械系だ? 対戦車ランチャー多めに持ってけ。装甲目標が来たら歩兵じゃ蹂躙されっぞ」


「倉庫にこれしかなかったんですぅ」


「3番格納庫の奥にある部屋にランチャーがある。3番の整備主任に俺の名前を出して貰ってこい」


 礼を言ってその兵士は走り去った。


 そう、困ったことに、当たり前のように、脅威が存在する。


 この世界には人類を脅かすものがいくつかある。ゾーンと呼ばれるアノマリー災害が多発する地域。人類を敵とみなして執拗に攻撃してくる機械、ナマモノ,甲羅を持ったバケモノ、総称して敵性体とよんでいる。そいつらがゾーンなんかから来る


 野生の歩行船や軍艦も脅威と言えば脅威なんだが、奴らは基本的に手を出したり航路を邪魔しなければ敵認定はされない。


 手を出さなきゃ一応は安全。まったく野生ってなんなんだよ。


 これらの歩行船を運用したり解析して建造したりして、なんとか人類社会を支えている。


 慣れてしまえばなんてことはなかった。とんでもない世界だとは思ったが地上を闊歩する歩く船をみていたら、ある程度の理不尽や不思議は自然と受け入れることができるようになっていた。輸送なんかではとてつもなく便利だし。ありがたいのだ。


 脅威の、敵の話に戻ろう。


 この戦域では自動機械群が相手だ。樹脂製の皮膚を持つ非装甲の機械兵、それに装甲目標として戦車に自走砲、多脚戦車が出てくる。

 こいつら、敵性体の襲撃で都市に危険が迫っている。


 だから都市の住民、総力を上げて防御陣地を準備して前哨基地を作り敵に備えている。なので、俺たちもやたら忙しくしている。


 まったく、大変なところに来ちまった。


 大変といえば援軍だ。


 最近はたまに来る敵の定期攻撃を撃退したりで、なんとか戦線を維持していた。


 ところが数日前に敵の大群が迫った。油断して不意を突かれ戦線が危うくなった。


 だが、ワイルドハントだかの名前な部隊が援軍として突如として現れた。それは敵後方から少数精鋭で奇襲をかけて鮮やかに敵戦線を突破した。


 敵部隊は大混乱、そこに我々の防衛隊が追撃をかけて敵を多く屠り大戦果を上げた。


 上層部は、しばらく大規模な戦いはなかろうと、一安心していた。


 だが、俺達整備班は違う。損耗した部隊が基地に引き上げてきて、てんやわんやの大騒ぎとなった。


 援軍の分までウチの部署で請け負って整備している。とにかく大変だった。


 それでも援軍で危機が遠のき、整備士達の士気は爆上がり、そうして仕事を片っ端から片付けていった。


 それなのに、援軍の連中が試作武器とかヘンテコ兵器を頼むとか言って持ち込んできた。


 お陰様で栄養剤をカバ飲みして何とかしてこなしている。


 持ち込まれたヘンテコな兵器のうちの一つ、パイルバンカーを触りながら驚いた。


 この世界でも建設用のやつしかパイルバンカーなんてのを見たことがなかったからだ。ロマン兵器を実際に使うやつがいるものだと呆れながらも驚いた。


 驚くならロボの性能とかで驚きたい。


 俺もこの世界で慣れたものだな、とかなんとかと、何回目かわからないボヤきをしながら、整備をひたすら続けている。


 整備員を色々と駆り出されて見事なワンオペ状態が発生している。一見ブラックに見えるがAIやら整備ロボやらがあってそれほど苦労はしていない。


 さりとて、リソースは常に足りないもので、なんとかやりくりしている。まぁ、前の世界に比べたら本当にかなり楽だ。


 煙草を吸おうと思ったが余計な思考に邪魔されて、作業服の沢山のポケットのどこかにしまった煙草とライターが見つからずに探していた。


 一服でもしないとやってられないのと言うに、俺のささやかな、とてもささやかなお楽しみタイムが始まらない。困ったものだ。


 お楽しみと言えば。そうロボットだ。4Mくらいのロボット。ヴァリアブルフレーム。ここじゃVFと呼ばれている。


 ハンガーに壁脇にある駐機ラックに固定された鈍色の装甲に刻まれた傷をなでながら、ヴァリアヴるフレームをニンマリとして眺める。


 男の子のロマンの塊、運用にちょうどよいパワードスーツが進化した感じの4mほどの人型ロボ。


 微細な発電を可能とするフレームで、これが自己進化ヴァリアブルする。なんかいい感じに武器とか取り付けたり、部品をつける時にフレームの形が変化する。ナノマシンの塊が変形を可能にしていると、科学者達が言っているが正直わけがわからない。


 だが運用は可能だ。都市の自動工廠である程度のリソースや資源が必要な感じで生産されえる。


 無尽蔵に作れるのならば楽しいことになっていたのだが、ちょっと高級な車ぐらいの感覚で取り扱われている。


 便利で安全管理が行えるなら使ってしまえの精神らしい。


 そうでもしないと、この世界は危険なのだ。


 ナノマシン障害による電波撹乱にジャミングで誘導兵器やレーダがほぼ無効化される環境のこの世界。


 なので塹壕や要塞内などの狭い空間でよく近距離戦闘が発生する。


 最近の戦闘艦橋は補給不足もあるが弾切れになりやすい戦闘が発生しやすい。白兵戦が可能となると継続戦闘能力がかなり増加する。つまり生存性が高くなるのだ。


 そこで活躍するわけだ。ヴァリアブルフレームが。初期の頃はパワードスーツ主体の運用だったらしいがいまやVFが主力だ。


 フレームがやたら丈夫なので近接で打撃をやりあってもよほどでなければ壊れない。マニュピレーターなんて爆速で壊れようものって印象があったがVFでは壊れない。疲労はするがな。


 同じ箇所に執拗に銃撃や負荷を食らうか戦車砲をぶち込まれでもしないと損傷しない。まったく、よくわからん素材でできている。


 わからないことばかりのVFではあるが運用はわかりやすい。ナノマシン液の修復槽、俺達は風呂なんて言っているがそこに漬け込んでおけば大抵の損傷は修理される。オーバーテクノロジー万歳である。


 それに人型ゆえに土木工作を含む作戦やお仕事でVFは大活躍する。


 サイボーグ化が必要となるが、意思操作型の恩恵か、人の動きを、そのままな感じで動かせる。だから土木や建設なんかの工事が特に捗る。

 操縦の雰囲気は大変よろしい。VR空間でそれなりに快適な操縦が可能となる。整備も楽で大変結構である。

 ロボと自身の身体を一体化させても良し、ロボの頭やお腹に小人が乗った感じで操縦しても良い。


 好きなように感覚調整して操縦が可能となる。


 だが、残念点がある。コックピットが激狭なのだ。背中ある箱に人を突っ込む。


 狭いところで問題が起こらないかと言うとサイボーグ化していれば特に問題はないらしい。


 サイボーグ化したパイロットが乗るから、長時間乗ってもエコノミー症候群やら同じ姿勢でも体内化学合成プラントが必要な薬や成分を流す。なので問題ない運用が可能となる。


 俺はサイボーグ化していないので、乗って戦えないのが実に残念である。なんかサイボーグ手術って怖いからな。自分の体が機械化されるのってなんか拒否観がある。


 俺に馴染みのある操縦桿やら足ペダルやら端末による操作もあることはあるが、コックピットを普通の人間用に載せ替えないと動かせない。それがカッコ悪い。背中にでかい箱のコックピットが取り付けられるからだ。デザインがロボのシルエットが激しく崩れる。美しくないのだ。機能美がどこかに行ってしまうのだ。そこが残念なところである。


 まぁ、それはあまり重要ではない。ロボを棺桶だなんて言う奴もいるが、俺は整備者としてこのロボを愛でるのだ。


 このロボの特に愛すべき点は整備者に優しいことだ。

 なんて大抵はナノマシン槽に漬けておけば大抵のトラブルは修正修復される。装備のアタッチメントや調整も楽だ。肩武器の装着や腕に取り付けるタイプの装備なんか設定しておいたらフレームが変形したり装着部を用意してくれる。骨っぽいフレームのくせにチョコットの変形で対応してくれるのはナノマシンのおかげらしい。それでいてシステム周りは自動調整される。火器管制システムとか照準システムみたいのは最終調整が必要だまぁ、原理は理解していないがAIの補助があって、なんとか運用できている。


 そして個人的に一番気に入っているのが……VR空間での操縦、つまり操縦関係やモニターなんかのコックピット関連の整備がほぼ必要ないのだ。人との接続も優先をプチッとケーブルをつなぐだけ。


 オーバーテクノロジー様々だ。


 ちらかる思考を一旦落ち着けよう。そうだ、一服しようとしていたのだ俺は。


 ようやく煙草とライターを見つけると一服を開始する。


 深く吸い込みオレンジ色を灯し赤い火種が輝きを増す。ゆっくりと吐き出しては紫煙をくゆらせる。


 煙を吸い込むたびに雑念が少しづつ薄れてゆく気がする。


 慣れてきた? 慣れてきちまったのか、この世界に。


 そんな事を考えながら現実逃避をしていたら前線から引き上げてきたであろう部隊が格納庫に帰ってきた。


 携帯灰皿の縁で火を消し、煙草を灰皿の中に押し込んだ。。


 まぁ、そうですよねーこんな時に限ってこーなりますよねーっと。半分も吸っていないってのに。仕方ない、仕事に戻るか。


 そして、俺達を守ってくれた英雄たちを迎えようか。


 帰還した連中を見てみると埃と汗の匂いをまといノロノロと兵士たちが車両に乗って披露と安堵が混じった表情を浮かべ談笑していた。タンクトランスポーターに載せられているVFや戦車を見るに損傷があまりない様子であった。


 あまりひどい戦いではなかったようだ。


 帰還した者たちの機体やバイタルデータからAIによって瞬時に生成された情報を携帯端末で確認する。その帰還レポートを見て八郎太は呟いた。


「どちらに関しても整備手間が省けてありがたい。生き残りが多いってことはいいことだ。ただでさえ人手が足りなくて忙しいからな」


 レポートには怪我人が少なく、また死人も殆ど出ていないと判断できる数値が表示されていた。


「機体も人も無事が一番だ」

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