第7話 『鈴木恵子』
今回もチノパン視点です。
◇◇◇◇◇◇
タニさんが各社の朝刊を持ち込んで皆で回し読みした。
どの朝刊も十川組と龍神会の銃撃戦がトップ記事だが、明らかに事実とは異なっている。
「これじゃあ! まるっきりでっち上げじゃないですか?! 」と鳥さん。
「ウチが捜査から外されるわけだ」とチョーさん。
そこへボスが入って来た。やはり各社の朝刊を携えている。
ボスが席に着くや否やオレとムリさんは突っ込んでゆく。
「ボス!! 」
「これは一体!! 」
「ああ、オレも自宅から捜査本部に電話したが不格好な居留守を使われたよ」
「それだけ尋常じゃないって事ですか? 」とチョーさん。
ボスは頷いてタニさんに話を振る。
「多分、タニさんも気が付いたんだろうな……各社の朝刊を揃えたって事は」
「ええ、気になりましてね。各社の記事を読み比べました」
オレは堪らず会話に割り込む。
「どの記事も銃撃戦の末、十川組長を始め死傷者が出たと書かれていますよね!! でも嘘っぱちだ!! 十川組長は射殺じゃなく毒殺された!! 」
「チノパン。『十川組長が射殺された』ってどこに書いてある? どの社の記事だ? 」
タニさんから指摘されてオレ達は改めて記事を読み直してみる。
「どの記事にも『十川組長が射殺された』とは書いていないですね」と鳥さん。
「しかし前後の流れから『十川組長が射殺された』と書かれているのは明らかです! 」とムリさん。
「そこだよ! ムリさん! 各社とも十川組長の死因については一切書いていないが……いかにも射殺されたと思わせるよう『ミスリード』を仕掛けている」
このタニさんの言葉にボスは頷く。
「その通り! 各社とも書き方は違えど、同じ『ミスリード』を仕掛けている。こんな事を新聞社各社に指示できる“者”っていったい誰だ?! 」
タニさんは顔をしかめる。
「ここまでの事は……“今太閤”でも難しいでしょうなあ……加えてボスが昨日見た“ガイジ”の鮫島警視の動き……これらが示唆するものは……」
「オレもタニさんと同じ推察をした」
オレは“昭和の世界”には疎い。正直今の会話の内容もよく分からない。ボスやタニさんはいったい何を推察したのだろう?!
「ボス! オレにはどういう事だか……」
と身を乗り出すと後ろからタニさんに肩を叩かれた。
「お前さんは知らなくてもいい事だ」
「そうだな! 下手に知らない方がいい」
「しかしボス! 我々はこれから……」
「ムリ! やる事は山ほどある! 十川組と龍神会の抗争は行くところまで行くだろう……我々は市民の安全を全力で確保しなきゃならん!! そしてチノパン! 」
「ハイ! 」とオレは進み出た。
「お前にもやることがある。タニさんと組んで“ケイコ”の行方を追うんだ! 」
◇◇◇◇◇◇
記事の捏造の件や現場から行方不明になった桂さんの事も物凄く気掛かりではあったが……オレは桂さんと“生き別れた”という妹さんの調べをしている。
父方に引き取られた妹さんの名は『鈴木恵子』
桂さんは自分の源氏名を……“
妹さんの高校時代の友人がネガを貸してくれて、彼女の顔写真を写真店で数枚
こうして得た捜査情報や経過を赤い屋根にベージュ色の扉の電話ボックスからボスに報告する。市外局番なので10円玉が飲み込まれる速度も速い。ほぼ物心ついた頃からケイタイ・スマホに慣れ親しんで来た私も……ようやく、これらのアナログに我慢ができるようになった。
「ええ、今、顔写真を受け取ってきたところです」
『よし、その写真を持ってタニさんと合流してくれ。 ちょうど今、城西大へ向かっている』
◇◇◇◇◇◇
『城西大学前』の改札口でタニさんと落ち合い、二人で聞き込みに回る。
見せる写真は『桂さん』と『恵子』だ。
「これ、ケイちゃんだよね」
「……うん。“あの”ケイちゃんだ」
「『ケイちゃん』って! 鈴木恵子さんに間違いないですか? 」
「はい……前の……“陣内教授と心中した”ケイちゃんに間違いないです」
「……あれには驚いたよな! 『あのケイちゃんが』って!! 」
「第一、ケイちゃんはタカオとデキてたんじゃなかったっけ? 」
「あんな顔して……オンナは怖いよなあ~」
オレとタニさんは顔を見合わせた。
タニさんがカチリ! ボールペンをノックする。
「その、『タカオ』君とは? 」
「ああ、オレらと同じM2で……そう言えばケイちゃんが亡くなってから余り姿を見せないなあ……」
二つの線が繋がった!!
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