第3話 刃(やいば)
このお話のヒロインの桂さん(ケイコ)のイラストです。
https://kakuyomu.jp/users/kurosirokaede/news/822139836727867837
今回もチノパン視点です
◇◇◇◇◇◇
その日の夜も“オレ”はムリさんと『幸吉』で晩飯を食っていた。
しょうが焼き定食を食べて一息ついたオレにムリさんが声を掛ける。
「お前、今、タバコあるか? 」
「オレ、タバコはやんないスよ。ほら、健康にも良くないでしょ? 」
「ムリさん! タバコ切らしたのか? ほれ! 一本やるよ! 」
と、コウさんがタバコの箱から一本振り出してムリさんに向けた。
もらったタバコに火を点けながらムリさんはオレにいきなり聞いて来た。
「……おまえ、
「な、なんスか??!! いきなり!! 」
“私”は内心、冷や汗が滝のようになった。
そんな“オレ”をムリさんは“デカ”の目で探る。
「お前、時々ヘンなんだよな……オトコのくせにタバコ吸わなかったり…… だいたいここは東京だぜ! 工場からのばい煙や自動車の排ガスなんかの大気汚染で、すっかり侵されている。 オレ達はな、そんな空気吸ってるんだ。タバコを吸おうが吸わなかろうが変わんねえよ」
「まあ確かに……なんだかどこもかしこも真っ黒にはなりますねえ~ 銭湯! ありがたいっスよ」
……おかげで
「そう言えばお前、風呂上りにいっつもビン牛乳飲んでるなあ」
「ええ、なんか寝てるとですね 体のあちこちの骨が軋む気がするんです。『成長痛』みたく。カルシウム不足かなと……」
「オイオイ! それ以上でっかくなるのかあ?! ジャイアントチノパンになるぜ」
「はは……それはないと思うんですけど……」
そうは言ったが、私、確実に“骨太”になってる。きっと今じゃ……あのチノパンは入らない!!
とにかくお腹は空きまくるし、エンゲル係数は上がるばかりだ!! けれどこの世界、サプリなんかなさそうだし……
「なんだいチノパン! そんなにカルシウムが欲しけりゃ これ食いな! 」
そう言いながらコウさんは袋一杯の“煮干し”を取り出した。
「背骨、曲がっちゃいるが汚染のせいじゃないぞ」
「コウさん! 勘弁してくださいよ」
とオレは頭を下げながら煮干しを受け取った。
この際、煮干しでもなんでも食べるしかない!!
そんな事をやっているとガラガラと引き戸が開いて、鳥さんが入って来た。
「やっぱり居た! 」
「おう! プリンス! いらっしゃい! 仕事終わったか? ビールか? 」
「いや、コウさん。これから張り込みで、ムリさん達、呼びに来たんです」
「そうかい、ムリさん! チノパン! 仕事だとよ! 食った後で良かったな」
鳥さんは一礼してムリさんの横に腰掛けた。
「実は、オレの当たっている“オンナの線”で……クラブ真理子のホステスで『ケイコ』と言うオンナが上がってきたんです。今日は同伴出勤らしくまだ店には来ていませんが、これから張り込みです」
「クラブでか? 」
「ええ、オレとムリさんが中で……チノパンは外」
「オレ、外ですか?! 」
私、クラブなんて面白そうだし!! 経費で行けるなんてラッキー!! と思っていたのに!!
「その恰好! クラブってガラかよ」
とムリさんを始め皆に笑われた。
「まあ、しょうがねえやな! 張り込み中、これでも
と、コウさんから煮干しの袋を手渡されて……
私は少なからずムクれた。
◇◇◇◇◇◇
「あの女だ」
鳥さんが指さした先にはどこかの商店主っぽい男と同伴する女の姿があった。
「じゃあ、オレは店に戻るが……もし出てきた“女”にちょっかい掛けてくる奴らがいても手は出さず泳がせて尾行しろ」
一人路地裏に残されたオレだが……夏の夜は蒸れてドブ臭く、蚊には
我ながら辛抱強いと思う。
夜も更けてようやくネオンが落ち、幾人かの後、“あの女”が勝手口から出て来ると、気配のしなかった向こうの通りから黒塗りの車がスーッと近付いて来て数人のチンピラが飛び出し、女を取り囲んだ。
女は叫ぶ間もなく口を塞がれ、車に押し込まれようと……
その
まず、女を捉まえていた二人を蹴飛ばし、なぎ倒して……女をオレの背中に回し、向けられたヤッパの切っ先を煮干しの袋でかわし、そいつの腹を思いっきり蹴り上げ、そのままその男を踏み付け、何か銃のような物を引っ張り出そうとしている男の腕を掴み逆方へひねり上げた。
鈍い音と共に男は拳銃を取り落としてのたうち回り、オレが拳銃を拾い上げている隙に、そいつは他の奴らに引きずられて車に乗り込み逃げ去った。
「逃げやがった! 」
後ろを振り返るとこれほどの目に遭っても女は騒がず意外なほど冷静だった。
「……助けていただきありがとうございます。でも袖口から血が……」
言われて左腕を見ると切っ先をかわした時に切られたのか、シャツの裾が裂けて血に染まっていた。
「ヤバッ!! 一帳羅なのに! 」
ボヤくオレの腕をバックから出したハンカチで抑えながら
「どうか、手当をさせてください。血も今洗えばまだ落ちるかも」
と、女はオレを家に誘った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます