第3話 「祝福の鐘、紡がれる未来へ」
<黄昏のラボ、心の予感>
夕陽が低く傾き、ラボの窓から温かな金色の光が差しこんでいた。
古本圭一、通称ポッキーとえもが、研究室の片付けを終え、帰り支度をしていた。
静寂の中、廊下から聞こえる同僚たちの低い声が微妙に張り詰めている。
「まだ、かかりそうなのか?」
圭一が皆の方へ声を投げると、島田が笑いながら手を上げた。
「ああ、もうちょっとやってくよ。お疲れさん、ポッキー、えもさん」
「じゃあ、お先に」
そう言って、二人は静寂のラボを後にした。
その背後、研究員たちの表情にはどこか意味ありげな笑みが宿っていた。
<次の日曜日、空いてるか?>
数日後、島田が声をかけてきた。
「おい、ポッキー、次の日曜、空いてるか?」
「ああ、特に何もないけど……何だ?」
「えもさんも大丈夫?」
えもが首を傾げながら微笑む。
「私は圭一さんと一緒ですから、もちろん大丈夫です」
その答えを聞いて、島田が満面の笑みに頷いた。
「よし!じゃ、次の日曜、ここへ来てくれ、時間厳守で頼むよ」
それだけを告げ、彼は踵を返して仕事場へと戻っていった。
「何だろうね?」
二人の瞳が交わり、ほんの一瞬、不思議そうに瞬きを交わした。
<行先案内、えもさんへ>
次の日曜日、約束の時間。
爽やかな秋の陽射しの中、えもが圭一の手を取る。
「えも、案内を頼めるかな」
「はい、あなた。お任せください」
えもの声が、少しだけ弾む。
『300メートル先を左方向です。その後、しばらく道なりとなります』
その声と共に、静かな住宅街を抜け、二人の足が止まる。
「目的地付近です」
えもの声が告げた。
その先、白亜の建物が空へと伸びている。
「ここは……」
「『間鳥居教会』です」
えもの答えが、ほんの少しだけ震えた。
<扉の先、秘密のサプライズ>
そして次の瞬間、重い扉がゆっくりと開いた。
その先から、満面の笑みに身を包んだ研究室の仲間たちが姿を現した。
「おーい、ポッキー!おはよう!」
「おいおい、なんだよ、みんな……そんな姿で」
驚きを隠せず、圭一が呟く。
「まっ、いいから、こっちへ来いよ」
島田の声と共に、えもが美紅の手で案内され、別の扉へ姿を消した。
「えもさん、こっちよ!」
「えっ、あっ、圭一さん……」
名残惜しく呟きながらも、えもが姿を消してゆく。
そして、静寂の中、白い扉が再び静寂を取り戻した。
<白雪の姿、神聖なる瞬間 >
やがて、教会の中、扉が再びゆっくりと開く。
そして現れたのは、白いウエディングドレス姿のえも。
その髪にベールが落ち、ほんのりと赤らめた頬が、温かな陽射しで一層輝いている。
「えも……」
呆然と呟く圭一の肩を、真田が力強く叩いた。
「お前たちの結婚式じゃないか」
「え、結婚式……」
「お前の兄貴の代わりだ、えもさんをエスコートできて光栄だよ」
真田の声が、ほんのりと震えた。
その一言で、えもの瞳から一筋、涙が零れた。
<誓いの言葉、未来の約束 >
神父が立つ祭壇へ、えもと圭一がゆっくりと進み出る。
その様子を、カメラを構えた太田川が優しくファインダー越しに見守る。
「汝、えもを、妻として、愛し、慈しみ、共に生きることを誓いますか」
「はい、誓います」
その声は、震えながらも確固たる響きをまとって、チャペルに満ちた。
「えも、汝、圭一を、夫として、共に笑い、共に涙し、共に生きることを誓いますか」
「はい、誓います」
えもの声が、どんな聖歌よりも澄み渡り、心を満たした。
そして、口づけと共に、互いの指へ銀色のリングが通される。
指輪はラボのメンバーお手製の「シルバーメタル」。
その内側にはそれぞれの名が、未来へ繋がる印となって静寂の中で輝いていた。
<祝福の後、さらなるサプライズ>
式が終わり、重厚な扉を抜ければ、さらなる笑顔が待っていた。
「えもちゃん、圭一くん、ご結婚おめでとう!」
それは『ワルキュール』のカナメ、レイナ、マキナの三人だった。
「美紅さんから聞いてね、黙ってらんなくて」
カナメが笑うと、マキナがからかうように肩をすくめる。
「ほんとは、圭一くんをえもさんに取られて寂しいだけでしょ、カナメさん」
「いやだ、そんなことないわよ!」
笑い声が、静寂の境内に優しく広がってゆく。
えもが一礼して呟く。
「皆さん、ありがとうございます。皆さんと共に過ごせるこの瞬間、えもは一生忘れません」
その姿が、陽射しの中で一層眩しく輝いていた。
その後、出須羅会長からの電報が読まれる。
『圭一くん、えもさん、ご結婚おめでとう。
二人の道のりは決して平坦ではないだろう。
だが、君たちの絆こそが、これからの『人とAI』の未来となる。
伊助の想いと共に、幸せを紡いでほしい。』
サンザイエンターテインメント 出須羅
そして、同封されていたのは一週間分の北海道への旅券とホテル宿泊券。
歓声と共に、皆の笑顔が一つとなる。
「こんな……ありがとう、皆」
圭一の声が、震えながらも力強い。
「明日から、思う存分楽しめよ」
真田が、力強く笑う。
「えもちゃんも、たっぷり甘えちゃえ」
カナメが、ウィンクを投げた。
「はい、皆さんの想いも一緒に……えもは一生、データ保存しておきます」
えもの声が、微笑みに満たされて紡がれた。
<旅立ち、未来へ続く航路>
翌朝、二人は皆の歓声と共に、新婚旅行へ旅立つ。
青い空、白い雲、そして未来へ続く航路の先で、
『ヒューマノイド』と『人』という境界線のない、確かな絆が、
静寂の中で、強く、温かく芽吹いていた。
「行こう、えも」
「はい、あなた」
その言葉が、空へと踊り出した。
それは、恋から始まり、絆となり、そして『家族』となる──
未来へ続く、優しく確かな物語の、始まりの一幕となった。
「祝福の鐘、紡がれる未来へ」【完】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます