両片想いの秘密
のん
プロローグ 黄色い薔薇
多分俺たちは、ずっと両想いだった。それなのにずっと結ばれなかったのは、たった一つの理不尽な障害のせいだ。事実を知りながら拒めなかった俺は一生背負っていくつもりだ。当時のできごとを、思い出す___。
「…
耳を赤く染めて、戸惑い気味に尋ねられる。いつもヘラヘラと陽気なくせして、俺のことになると余裕がなくなるその姿。自分を物凄く求めているようで、愛おしかった。通い慣れた通学路。あと数週間経ったら、きっとこの道は綺麗な桜で埋め尽くされるだろう。
『こんな日くらいは』と思い、俺は車道側を歩いてくれる彼の手を握った。滅多にしないこの行動に、彼は目を丸くした。
しばらくして彼は自分の手で、口元を隠した。隙間からは中々おさまらないのであろう、上げられっぱなしの口角がチラつく。
学年が上がるごとに派手さを増すこの部屋にも、どれだけ足を踏み入れたことだろうか。お気に入りだからと勧められたことのあるバンドのCDや、よほどその表紙が気に入ったのかファッション雑誌も並べられている。そして、彼の机には俺が何気なく撮ってやった、彼の写真が飾られている。立てかけられている写真立ては、どこでも買えるような安い代物ではないようだ。
ギシッとベッドの軋む音が鳴り、彼が座っていた俺に距離を詰める。押し倒されると目に映るのは、天井と限界が近そうな彼の表情だ。俺は彼の首に手を回した。
それを合図と言わんばかりに、俺たちは唇を重ねた。どんどん深くなっていく重なりと、荒くなっていく息遣い。どれほどこうしていたのかは、分からない。頃合いを見て彼の唇が離れた。
彼は自分のネクタイを緩め、シャツを脱ぎ始める。俺はその様子をただ眺めていた。すると彼のクローゼット近くに、散々見慣れたブレザーが視界に入る。左の胸元には今日だけと、黄色い薔薇のコサージュが刺さっている。
「樹、何考えてるの。」
そう言われ、再び彼に顔を戻した。不安そうにこちらを見る彼に俺は何でもないと答え、静かに笑いながら、自ら唇を押し付けた。そうして、俺たちは体を重ねたのだった。
目が覚めた時には朝方だった。春になったとはいえ、まだまだ早朝は冷え込む。隣で眠る奴の顔をただ静かに眺めた。
散乱している服や下着の中から、自分の制服を探し出し身を包む。忘れ物がないかじっくりと確認し、眠り続ける彼の顔に今度は優しく触れた。毛先が跳ねたフワフワとしたクリーム色の髪を撫でる。そして顔に近づき、輪郭をなぞるように触れる。
時間を確認するとそろそろ時間のようだった。最後に彼の口へ自分の口を持っていった。ただ重ねる行為だった。
俺は自分の胸元に刺さっている黄色いコサージュを手に取った。その黄色い花を眠り続ける彼の横に置いて、俺は静かに彼の家を出た。この愛が、薄らぐことを願って___。
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