東国の勇者の場合39

部屋の中にリニアさんやアーデンさんが戻ってきて、会合は終了を迎えた。

「リニア、今回はこのような場を設けてくれて本当にありがとう、感謝するよ。」

「いえ、とんでもないことです。」

そう言ってリニアさんは笑顔で礼をし、モーリス卿の差し出された手を無視しながら部屋を出た。自分もそれに続くがリニアさんが珍しく心を少し乱しているかのように見えた。

 外へ出て少し歩き、使用人が近くから離れたところでリニアさんが口を開いた。

「ケンマ様先ほど、モーリス卿とはどのようなお話をされたのでしょうか?」

「ああ、さっき…」

確かに、気にはなるか。出ていくときにやけに心配そうな顔をしていたからなぁ。しかし流石と言ったところだろう、かなり落ち着いた口調である。

「まぁ、詳しくは聞かないで欲しいんですけど、モーリス卿にちょっと喧嘩売ってみました。」

「はぁ!?一っっっっっっっっっっっ体なにをやっているんですかっ!!」

やべぇ、想像以上に怒ってる。聞いたことのない言葉遣いに、見たこともない激高。途轍もない量の怒りがあふれ出しているが、まだそれもかなり抑え込んでいるように窺える。

「でっ、でも結構優しかったですよ。リニアさんの言っていた通りで、何事にも穏やかに対応してくれたので。」

あわてて、なだめる様なことを言ってみたが、怒りは収まったように見えない。むしろ燃料を投下してしまったかのように見える。

「そういう問題ではございません!!」

リニアさんの大声が響き渡った。

その瞬間にちょっと離れて周りを移動する使用人の面々がこちらを奇怪な目で見ていることに気づく。それはリニアさんも同じの様で、少し顔を赤らめたのち声のボリュームが落ち着いてゆく。

「勇者と言えど、あなたはこの国にとっては理由なく突如現れたよそ者なのです。普通ならば罪人となって、平民以下の存在として扱われます。もっと言わせてもらいますと、我々と同じ人として扱われるかどうかすら怪しいのです。」

「えっ、本当ですか」

「ええ、本当の事です。」

かなり衝撃的な事実が聞こえてきた。でも考えてみれば言っていることは正しい。何らかの魔法の力によって急に現れたどこの国の人間なのかわからない人物。

 さらに人類は魔族と戦争中で、人類の中でも寝首を搔こうとしている。魔族、人類双方に気を張っている状態である。

 この国のスパイの情報も徹底的に秘匿されていた。魔法により迷い込んだと言い張ってるスパイだったとしてもしょうがない立場、それが自分の立場なのだ。

「先日もケンマ様に対して刃を向けた者もいたのを憶えているでしょう。」

確かに、国王陛下に謁見に行ったときに軍人の一人に首を切られそうになったな。要はその時の行動も自分に対する不信感があるということなのだろう。

「この国にいるケンマ様の召喚時の様子を見ていないものは全て、何らかの形でケンマ様に敵意を持っている可能性があると思って行動してください。」

それだけ、注意されるということはしっかりと言葉に注意しなければならないということだろう。そんな立場の人間が公爵に喧嘩を売った構図。自分なりには相手の傲慢さを推し量ろうとした人物が自分の傲慢さに足元をすくわれようとしていたのだ。つまり、ミイラ取りがミイラになる寸前まで来ていた。そりゃあ、怒られるわなぁ。

 気を付けよう。

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