東国の勇者の場合37

 扉が閉まり、一瞬の沈黙が流れた。さきに口を開いたのはモーリス卿だった。

「では、単刀直入に聞こう。君は、私に付くつもり私に付く気はないか。」

「確かに、単刀直入ですね。あなたの方に付くってだけじゃあ、あまりにも漠然としすぎてます。誰なんです?」

「誰、というのは、どういう意味かね?」

「あなたと争うもしくは、争う予定のある人物、という意味ですよ。」

 モーリス卿の眉が少し動く。

「申し訳ない、確かに君のいう通りだ。私は別に誰かと争ったり戦争を起こしたいという訳でもないんだよ。」

 おどけたように笑顔を作り始めた。嘘くささが十分に出てくる。

「ただ・・・」

「ただ、何です。」

「ただ、単に戦力は多い方がいい。それだけだよ。」

「戦力?それは、何の戦力ですか。よければ教えていただきたいのですが。」

「いや、大した意味はないよ。恐らく君の居た世界では戦力という言葉が大きな意味を持つのかもしれないが、こちらでは『仲間や味方、利害の一致したもの』そんな程度に捉えてもらえると助かる。」

「なーんだ、そうなんですね。申し訳ないです。話の口振を見るにこの国で国王陛下へクーデターを仕掛けるもだと思ってましたよ。」

 初めて、顔が少し歪んだ。しかし、一瞬で元に戻る。

「いやはや、そんな大それたこと出来はしないよ。君も考えすぎだ。」

「そうですよね、本当にすいません。」

「ハハハハハッ、気にしなくていいよ。私の聞き方も悪かったしね。」

「そう言っていただけるとありがたいです。」

 嘘のような笑い方に、自分も社交辞令を言った。

「ただ、その態度はやめた方がいい。」

「その、態度ですか、、、」

「ああ、人を疑って試すような態度だ。貴族の中にはプライドの高い者が多くいる。そんな相手にそのような態度では、何をされるか分かったものではないからな。」

 なるほど、それは一理ある。しかし、急になんだろうか。その優しさは気持ち悪さが増す。

「お気遣い、ありがとうございます。以後気をつけます。」

 とりあえず、感謝はしておこう。後から何を言われるかわからない。

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