第13話 構成相談


「それでどんな編成にするんですか?」


「敵は水で溶けるようなので両方とも射撃スタイルでいくでござる」

「FPSスタイルですね。だったら〈ウォーターバレット〉に〈マガジン〉のサブを加えて弾幕を張りますか? それとも〈チャージショット〉のサブで狙撃スナイプしますか?」


 とは単体では効果を発揮できないが、単体で効果を発揮するを強化、特性の追加を行う〈魔技〉だ。たった三つのポケットを余分に使うだけあって戦闘力の強化や戦術に幅がでる。


 しかし急にイキイキとしだした愛音の早口に倉之助は首をひねった。


「先程から気になっていたんでござるが……もしかして愛音殿はゲームが得意でござるか?」

「どちらかといえば得意ですね。! 引きこもりなんでこの手のゲームはいっぱいしてましたしFPSもいけます!」


 これはゲームではない。


 倉之助はそう言いかけたが、やめた。

 サバイバル環境下で最も恐ろしいのはストレスだ。肉体的にも精神的にもストレスがかかれば問題が出てくる。倉之助がパーカーをプレゼントしたのは肉体的なストレスを軽減するためでもある。


 ゲーム感覚で軽率な行動をされては困るが震えて動けなくなるよりはマシだろう。

 そう思った倉之助はフムと唸ると言った。


「それは頼もしい。アドバイスがあったら言ってくだされ」

「わかりました!」

「それで装備でござるが――おいどんは水鉄砲にするつもりでござる」

「……水鉄砲?」


 はしゃいでいた愛音はピタリと止まると今度は愛音が首をひねった。


「そうでござる。プールに大量の水があるんだから悪い選択肢ではなかろう?」

「……コーチ。流石にそれはどうでしょう?」

「というと?」

「水鉄砲は安い上に安売りセールもしてますからお得ですけどですよ? 水が弱点じゃないモンスターが現れたら無力です。その点、〈ウォーターバレット〉なら最低でもダメージを与えられます」

「ふむ、一理ある」

「ならなんで魔法にしないんですか?」

「まず前提としてダンジョンマスターは敵ではないでござる」


 上目遣いで問う愛音に倉之助は〈ショップ〉を見直しながら答える。


「そして〈プレイヤー〉がモンスターを倒せばダンジョンマスターが儲かるシステムで〈ゲーム〉は始まったばかり。しかもこのダンジョンは閉鎖されているので出入り不能。この条件でマスタリングするとなれば最弱モンスターか致命的な弱点、あるいはギミックを搭載するのが常道でござる」


「そう……ですね。そうしないと〈プレイヤー〉は敵が倒せなくて逃げ回るか、倒せても時間がかかってマスターの実入りは少なくなります。……ということはボスも水が弱点なんでしょうか?」


「その可能性が高いでござる。〈ショップ〉で購入できる武器は〈水の剣〉や〈水の刀〉のような水系ばかりで魔法も水系だけはセールで半額になっているでござる。一方で他の属性は売ってないか高めに設定されている。こんな状況で『水が効かないボス』が出たら残存ポイントによってはクリア不能になるでござる」


「ボスの攻撃を捌きながら弱点探しから始めないといけないですからね。しかも水以外の属性は割高なので可能性は十分にあります」


「そうでござるな。そして『クリア不可能になったら最悪』と言っておった。ならばストレートに『このダンジョンのモンスターはボスも含めて水に弱い』と考えるのが妥当でござろう。トリックキル扱いなのも地味に嬉しいところ」


「なるほど……そう考えると水鉄砲も良さそうですねぇ。むしろ水が多いこのステージなら最適解かも。でも……魔法も使ってみたいんですよねぇ……」

 苦悩する愛音に倉之助は笑いかけた。


「愛音殿まで水鉄砲にする必要はないでござるよ。最初言っていたように魔法構成でもいいでござる」

「――いいんですか?」


「今のはあくまでおいどんの予想。愛音殿の言う通り水が効かないモンスターが出る可能性も十分ある。それにおいどんが思いつかないようなコンボや相乗効果シナジーを発見できれば戦闘もグッと楽になるので色々試してくだされ。仮に精神力を使いすぎて倒れてもおいどんが避難させるでござるよ。あ、その場合は体に触れるのでそれだけは許してくだされ」

「コーチなら構いませんよ」


 あっけらかんと答える愛音に、倉之助は内心ホッとする。


「それならよかった。拒否されたらパーカーを掴んで猫のように移動させなければならなかったでござるよ」

「そんなことしたら大事なパーカーが伸びちゃいますよ! どこ触ってもいいですからそれだけはやめてください!」

「……とんでもないこと言ってんなぁ」


 倉之助がボヤくとピロピロピロ、とコール音が響いた。


 ウィンドウが現れて『笹沼京太郎』と表示されている。

 おそらく〈ショップ〉で売っていた〈交信の巻物〉だろう。

〈ゲーム〉開始後に出会った人物に最大一分の会話が可能な魔法の巻物スクロールなのだが一本500ポイントとお高めなのに使い捨ての商品だったはずだ。

 倉之助は『通話する』と『拒否する』のボタンがあるので『通話する』を押してみる。


『大魔神、聞こえるか?』

「京太郎殿でござるか?」

『ああ。純白ちゃんと無事に合流できた』

「了解。時間がかかったでござるがなにかトラブルが?」

『いや、知り合いと会ったから色々教えてもらってたんだ。今から装備を整えて戻るからもう少しかかるんで連絡したんだ』

「それはどうも。ということは帰りは何人か増える感じでござるか?」

『いや、戻るのは俺と純白ちゃんの二人だけだ。詳しくは帰ってから話す』

「了解。無事の帰還を祈っている」


 そこでウィンドウには『通話終了』と表示される。

 倉之助ははぁ、と深い溜め息をつくと頭を撫でる。


「とりあえず二人は無事に合流できたようでござるな。もうちょいしたら無事に合流できるでござろう」

「よかった! でも、なんでそんな難しい顔をしているんですか?」


 倉之助が眉をひそめていることに気づくと愛音は首を傾げる。

 それに気づいた倉之助はパッと表情を笑顔に切り替える。


「なんでもないでござる。あっちも装備を整えるようなんでこっちも装備を整えておくでござるよ」

「はい!」


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