第38話 真の六皇会議
1月10日
真東京都内の政府病院6Fの特別室。
「いやあ、よく無事で。さすがですね。その体」
「宗像さん・・・相変わらずですね」
病院のベッドの脇で宗像は、リンゴを剝いていた。
うさぎさんカットにする器用さを持つ。
「春斗、食べますか」
「はい」
いつもいつも自分が倒れると、そばにはリンゴがある。
元気を出すのに重要なのは、リンゴであると四郎は思っているようなのだ。
幼い頃もこれさえあれば機嫌が良いから、ずっと続く儀式である。
春斗が一口食べると、珍しく四郎から話し出す。
「アキの力ですかね。その丈夫さも」
能力強化の影響があり、春斗の耐久値も大きいのかもしれない。
春斗の無事に安堵している四郎はもう一個うさぎさんリンゴを作っている。
「自分、危なかったですか?」
「いえ。疲弊だけで済んでましたね。ただかなりの疲労でありましてね。今回春斗は、一週間寝てます」
「そんなに!?」
「はい」
「じゃあ。これに連絡があるかも・・・」
返事を返さないとと、春斗は携帯端末を取り出した。
ちなみに個人用のものである。
「大丈夫ですよ。あの子たちには自分が直接連絡しましたので」
「そうでしたか。ありがとうございます」
香凛とアルトが心配すると思ったので、四郎が先に連絡を入れておいた。
口での連絡でなければ、政府に調査員バレが分かられてしまうので、学校用の端末を使用させない処置でもあった。
「春斗。申し訳ありませんが、この事。上に報告するしかありませんでした。そこは本当に申し訳ない。ダンジョンで楽しめると思ったんですがね。とんだトラブルに遭いましたね」
「自分は大丈夫ですよ。でも、この事とは。やはりあのエグゾードの件ですか」
「はい。そうです。それで、どうせ向こうは締め付けを強化すると思います」
「自分の締め付けですか?」
「ええ。あなたの警戒を上げるでしょうから、ここは自分。一つ策を作りましてね。五味と今議案を作っています。上にも軽く報告したので、実現したら一緒にやりますか」
うさぎさんリンゴが出来たと、四郎は喜んで春斗に見せた。
重要そうな話だが、行動は暢気である。
「なにをですか?」
それを平気で見逃せるのが春斗である。
真面目なトーンのままに会話が出来る。
「ダンジョン調査隊を作ろうという話です」
「調査隊?」
「はい。各ダンジョン、構造もモンスターも、色々な違いがあります。そこを安全圏にするためにダンジョンの情報を一挙に集めて、精査して、ギルドにも還元していく形を作るんですよ」
「宗像さん。それって、CLの元々の仕事ではありませんか?」
「いいえ。違います。あれでは、ダンジョンに関してだと漠然とした管理となっています。あそこは人の管理をしかしてません」
CLが持つ情報で、完璧に正確であるものは、ハンター情報だけである。
それ以外は、それほど正確性がない。
ダンジョンについてだと、さすがに曖昧とまでは言わないが、正解率で言えば半々となるだろう。
「ですから、自分が考えたのはダンジョン調査隊です。この調査隊が調べたものを精査していく。新たな組織をCLの中に入れ込みます。RDを作ろうと思います」
「RD?」
「ダンジョン記録課(RD)ですね」
「なるほど。DRじゃなくて?」
「はい。言いにくいです」
単純な理由なんだ。
春斗は戸惑っても話を続ける。
「・・・それを自分もですか」
「はい。五味の力を借りて、自分と春斗で最初やります。その他も事務方の人間を入れますが、実働部隊はこの三名で始めようかと」
「なるほど。それってダンジョンに入ってもいいと?」
「もちろんです。今よりも自由に入れるでしょう。自分の考え通りに上手くいけばですが・・・」
「わかりました。やります」
「うん。やりましょう」
RDの発足理由は、怪物との遭遇から始まっている。
エグゾードの未知なる攻撃を目の当たりにして、もっとモンスターの事を。もっとダンジョンの事を深く知らねばならないと、二人が思った事から始まったのだ。
そしてもう一つの理由は、春斗の保護だ。
四郎は、自分がもっと近くで守らねばと、また春斗の力が狙われるのは間違いないと思ったからこそ、五味と協力して、あえて政府の中に入れ込んだのである。
「ええ。それではこの作戦が上手くいくことを祈ってくださいね。こっちの戦いは任せてください」
よっこいしょと立ち上がった四郎は、気合いの入った顔をして部屋を後にした。
◇
1月15日
円卓の会議室。
六つの席は1時、3時、5時、7時、9時、11時の方向にある。
それぞれの席にはそれぞれのトップが座っている。
1時に座のるは、体の調子が悪そうな男。
「揃うのはいつ以来でしたかね。ゴホン・・・」
一井和人。一井家当主だ。
続くのは3時の冷静な男性。
「そうだな。前回の五味の就任か」
二方次郎。二方家の当主である。
5時の方向に座る女性は、7時を見る。
「今回も同じ内容でしょう。ねえ修司さん」
三羽明子。三羽家の当主だ。
7時の老紳士は頷く。
「うむ。我が孫の件だ」
四葉修司。四葉家の当主である。
9時に座る男性は、別な発言だ。
「ああ。それともう一つ。俺の弟の提案もあるからよ。時間が掛かるぞ」
五味頼朝。五味家の当主だ。
11時の男性も別件だった。
「お前の弟? オレが事前に聞いていた話とは違うのか?」
六花旋。六花家の当主だ。
六つの家の当主が集まる会議。
それが真の六皇会議である。
◇
先鋒は三羽からだ。
「議題は例のからですか? 今回の議長はどなたでしょうか?」
次鋒となるのは議長の一井だ。
「今回は私の持ち回りだ。本家にお達しが来ていた」
「わかりました。下がります。どうぞ」
「・・・」
一井が黙って頷いた。
「今回の議題。最初は四葉麗華の件だ。これは、私が話し続けるよりも。四葉殿がおっしゃった方が宜しいので、どうぞお話しください」
会議の主役を四葉に渡す。
「うむ。簡潔に説明する。儂が引退するので、麗華を当主に決めた。この話も、上に通してある。だから会議での決が欲しい。一井。決を頼む」
もう一度話を議長に戻した。
「わかりました。それでは皆さん、四葉麗華の四葉家当主就任。反対となる者がいれば、手を挙げて欲しい・・・」
一井が、この場の全員の顔を見る。
手は挙がらず。
「わかりました・・・挙手無しのために、満場一致で決定となります。四葉麗華が当主で宜しいです。皆からの承諾が今なされました。修司殿。どうですか。お気持ちは」
ここから四葉の当主が麗華となる。
だから修司呼びに変わった。
「うむ。まったく有難い話だ。これにてゆっくりできるわい」
厳格な修司が軽く微笑んだ。
肩の荷が降りた様子だ。
「一井。四葉は来ているのか?」
二方が聞いた。現在の当主が変わったので、麗華を四葉と呼んでいる。
「来ています。こちらにどうぞ。四葉」
「はい」
麗華がこちらにやって来た。
7時の方角の修司の後ろに立つ。
「四葉、挨拶をしますか?」
「よろしいのですか?」
「ええ。どうぞ」
「はい・・・それでは・・・」
席に座る修司の隣に、麗華は立った。
「各家のご当主の皆様。四葉家の当主となった。四葉麗華でございます。以後お見知りおきを」
頭を下げる。
「若輩者故。皆様には迷惑をおかけするかもしれません。なので、そこはまだまだだと諫めてくれると嬉しい限りです。皆様と同じ。永皇六家に恥じぬ当主となるために、粉骨砕身で頑張っていきますので、よろしくお願いします」
優雅な挨拶が終わると、五家の当主が軽く拍手した。
立派な跡継ぎの誕生に笑顔が綻ぶのは修司だけである。
他は黙って頷いていた。
「それでは、四葉も引き続きこちらにいてもらってもよろしいかな。席はないのだが・・・」
一井が申し訳なさそうに言うと。
「はい。こちらに立たせてもらいます」
麗華は、顔色一つ変えずに返答した。
「すまない」
「いいえ」
四葉は修司の後ろに戻る。
「続いての議題だが、本題よりも先に五味。例の案を出して欲しい」
「ああ。わかった。それじゃあ、少し歩くが構わんでくれ。まずはこれを読んで欲しいからな」
五味が用紙をそれぞれの席に向かって配り歩く。
「これは、弟が発案しているようにみせて、これはどうせ連名にある宗像四郎の案だろう。でも五味の案として説明しよう」
五味の話に反応したのが二方。
不満を声には出さないが、ピクッと眉が動く。
聞いてないぞ四郎。
と言いたいけども、ここは会議なので言えない。
苦労人の次郎は、弟にたくさん悩まされてきた。
「行き届いたな。それじゃ、この案がRD案というもので。ダンジョン記録課を設立して欲しいのだそうだ。ダンジョン情報を一手に引き受けて、資料を作り上げる課だそうだぞ。CLの下部組織にしたいそうだ」
全体が資料を読む。
時間をかける間に軽い説明が続く。
「皆の意見よりもまず先に俺からだ。俺は、これを面白いと思った。外交を担当している五味家も、諸国を見ているから大体事情が分かる。これと似たようなシステムを取る国があるのさ・・・・あのインド帝国だ!」
アジアを支配した超大国インド。
東は元中華。西は元イラン。
横に長く支配域を強めたインドは、列強の一つだ。
領土だけで言えば、最強国家と呼んでもいい。
「あそこもこれと似たような組織があって、自国のダンジョンの情報をまとめているのだそうだ。この間、うちの外交官がそのような情報を引っ張ったと話を聞いたわ」
五味家は外交。
昔から各国と話し合いを重ねているので、情報を聞き出すのが上手い。
各国に付き合いの長い人物もいるので、秘密情報を多く持っている。
「俺は良しとする。発案があの変人でもな。どうだ二方。弟の案は」
「・・・・ん」
一言で返した。
次郎らしい返事である。
「なんだ。立派な案だぞ。自慢しなくてもいいのか?」
「お前は、自分の弟を手放しに他の家の者に自慢できるか。五味!」
「・・・・・・・・・・・」
お喋りな五味でも返答に困る質問返しだ。
ニヤニヤ笑っていたのに、質問を返されたら苦笑いに変わる。
「そういうことだ。五味」
「わかった。すまん」
俺とお前は似ているだろ。兄として・・・。
二人はこの後に続く言葉を互いに理解した。
「宗像四郎さんのですね。なるほど」
三羽が頷く。
「何かあるのか。三羽?」
五味が聞いた。
「いえ。この熱量。文章におけるダンジョン部分への情熱・・・あの人らしいですね」
説明なのに、熱を感じる。
さすがはあの変人だと三羽は四郎の顔を思い出していた。
真顔で机に向かって、こちらの文を書いているだろうに、中身が情熱的だ。
「まあそうだろな。ダンジョンに関して、この国で奴以上の情熱を持つ人間は、いないはずだ。馬鹿だろあいつは」
五味の意見の後に。
「すまない。先に謝っておく。迷惑をかけるぞ」
二方が先手を打った。
弟の事となると迷惑をかける要素ばかりだからだ。
「ふっ。大変だな。二方」
「六花もだろう。律は?」
「・・・そこを言われると、厳しいな。オレの所もまあ一緒か」
六花律も、やる気なしの男で有名だから、兄として苦労している。
「それで、どうする。俺は賛成なんだが皆のを知りたい。だから決を取らないか。議長の一井、聞いてほしい」
「わかった」
一井が咳払いをして、全体に聞く。
「ではRD案に不満がある者は手を挙げて欲しい」
六皇会議は否がある場合に手を挙げるシステムだった。
誰もあげないかと思われたが、一人挙げる。
二方だ。
「俺は一つ聞きたい。この案には、五味と宗像四郎が作ると言っているが。そのままこいつらでいいのか? 俺は不安もあるぞ」
「「「「「・・・・」」」」」
五家が黙る。
「それに、ここにある。青井春斗。ここに入れ込んでも良いのか? そこも込みで考えるべきじゃないのか」
次郎はあくまでも二方の家の者として意見を言っている。
春斗が好きとか嫌いとかの話ではない。
彼という絶大な戦力がそちらに行っても良いのだろうかという観点で話している。
本音の部分は大賛成だが・・・。
「そうですね。たしかに。春斗さんがここにいましたね」
それは見逃していたと、三羽が資料をペラペラとめくってその文章を見つけた。
重要人物の行く末は、永皇六家の人間の重大な関心事である。
「俺はそれも込みで良いと思ってる」
「五味!? お前は外交で使いたいとかはないのか」
驚いて六花が聞いた。他の部署に送り出す判断をするとは思わなかった。
青井春斗は争奪戦になると六家の当主はそれぞれ思っている。
どこに組み込んでも最強戦力になりうる男だから、自分の支配下に置きたいのが六家の意向なのだと誰もが思っている所に五味の考えが違っていた。
「俺は、こいつの能力を上手く扱った方が良いと思っている。そっちの方が国の為に役立つ。むしろ俺たちの中に組み込んで縛った場合・・・俺たちの間でいがみ合いが始まるし、そもそもだ。一井」
「ん。私か」
「ああ。お前がしっかりしてないから、あの青井がしゃしゃり出てくるだろ。奴と青井春斗は無関係としたはずだぞ。あの時にな。それはどういう事だ」
「・・・・」
六家の場所に入れると、青井栄太が必ず出てくるはず。
それは邪魔くさいので、だったら新部署で、しかも六家の分野とは関係のない所に置くのも一興かと思っているのが五味だ。
全体バランスからすると、良い案でもある。
「それに奴は、宗像が預かったも良いとしたのだ。なのにあの男はうるさいぞ。いいのか」
「・・・・それは手を打っている」
「ほんとか?」
「ああ。私と、あのお・・・ん!?」
一井の座っている席から入口が見える。
そこがゆっくり開いた。
「まさか・・・御屋形様!?」
「ん。その話は本当だぞ。五味」
「何故御屋形様が?」
「座っていい。余も座る」
入口からゆっくりと移動する御屋形様と言われた人物。
円卓の席には見向きもせずに、円卓の席とは違う部屋の上座に座った。
「皆。ご苦労。麗華」
「はい。御屋形様」
「就任おめでとう」
「はい。ありがとうございます」
麗華は初めて御屋形様と出会った。
各家の当主のみが会えることになっているからだ。
「そして今までご苦労。修司」
「はい。御屋形様」
修司も頭を下げた。
「それで五味。分家如きに不満がありそうだが、どうなんだ」
「は。はい。青井栄太をそのままにしても良いのかと」
一歩引いた口調の五味は、御屋形様に恐縮した。
「そこは一井に任せている。だが、色々複雑らしくてな。余だけが許可を出している部分があるから、この先の展開は皆には黙っておくぞ。いいな」
「わかりました。御屋形様」
「うむ。それで、RD案だったな」
「はい。こちらの案をまさか・・・御屋形様がお読みに?」
「うむ。しっかり読んでいる。案も良きものだから、これは余も許可する。青井春斗を使う事も了承するぞ。ただし。許可する代わりとは言えないが、例の策はやる。麗華、いいな」
指示が麗華に飛んできた。
すぐさま頭を下げる。
「はい・・・」
「不満か?」
「いえ」
「当主としての最初の仕事だ。失敗は許されない。今年の三年生からやりなさい」
「・・・わかりました」
「当日は四葉の当主として挨拶をすると良い」
「はい」
「それで五味」
五味の指示へと話が変わる。
「はい」
「太未に連絡をしておけ。四葉が挨拶をすると」
「わかりました」
「ただ。民子には告げるなよ。あれは、麗華の仕事を知れば、うるさくなるはずだ」
「わかりました」
五味が承諾すると、御屋形様は深く頷いた。
「それと皆。分家には知らせるな。極秘の策だからな。二方」
「は。はい」
「宗像にも知らせるな。本人に直通となるだろう」
「わかりました」
と次々に指示が飛ぶが。
一番最初に指示を受け入れた麗華の手に汗が滲む。
この情報を仕入れて、本人に直接教えているからだ。
まさかの御屋形様も出し抜く形となるとは、綱渡りの当主就任だなと、冷や汗をかいていた。
「では皆。麗華の就任。RD。青井の問題。これらが当面の動きとしよう。解散だ」
「「「「「「 は! 」」」」」」
六皇会議とは、六つの家が皇を待つ会議だと言われている。
そうこの形となるために、毎度開かれるのが六皇会議であるのだ。
御屋形様という国家の柱が登場したことにより、六皇会議は永皇会議となるのだ。
この国には、頂点に立つ人物がいる。
六家の上に、もう一つの王が存在していたのだった。
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