第28話 体育祭 最強コンビ

 対話者トーカーの力は、面白いことにこの競技にも役立つ。

 内政系に分類される対話者トーカー

 戦闘に役立てるには対話が必須であるが、力のある対話者トーカーというものは、様々な事を読み切れることがあるのだ。

 それは、ボールの軌道じゃなくて、ボールの行き着く先である。


 「きゃあ」


 桃百の右後ろの人に、剛速球のボールが当たった。


 「大丈夫ですか?」

 「う。うん。当たっちゃった。モモちゃんは気をつけてね」

 「はい」


 同じ内政系の人がダウンしているが、先程の攻撃を桃百は躱しているのだ。

 一球。一球。

 色んな特殊攻撃で来るボールだが、そこで皆が思う事がある。

 それは、誰のどこに当てるつもりかで技を出すのだ。

 

 だから、彼女は前もって躱すことが出来る。


 目の前の相手がボールを持つ。

 心を読む。

 

 『こいつに当ててやる。どんくさそうだ』


 これは標的が自分だ。

 どんくさいのは自分だと認識しているので、桃百は的確な判断をした。

 

 『くらえ。でも女の子だ。可哀想だから足で。ここだ!』


 手加減してくれる人の心の声を読んで、投げる直前で桃百はジャンプした。

 彼女の動きが、ゆっくりした動作なので、ちょうどよい感じで、ボールがこちらに来る。

 桃百の真下で、ワンバウンドした。


 「うわ!?」


 桃百の驚いた声と。


 「すげえ」「やるぅ」

 

 仲間たちの感嘆の声が聞こえる。

 でも同時に心の声もだ。

 

 『たまたまじゃない』『運イイね』


 これが本音と建て前の部分だ。

 人間の心の声はしまわれていた方が良い。聞かなくてもいい声は聞こえない方がいい。

 でも、その心の声を聞いても問題のない人が、必ずどこかにいる。

 世界のどこかに、正直者はいるのだ。

 そう今の桃百の隣にいる子が一味違う。


 「モモちゃん、ナイスだぞ!」


 成実はニカッと笑った。

 グッと親指を立てて褒める。

 

 『やっぱ。モモちゃん凄いんだぞ。うちが助けなくてもいいんだぞ』


 彼女の心の声はこっちだ。ほぼ同じだ。


 「なるちゃん」


 桃百は成実のことを【なるちゃん】と呼んでいる。


 「気にしないんだぞ。顔に出てるぞ」

 「え?」

 「その顔をしたってことは皆の声が聞こえたんだぞ」

 「・・・う。うん」

 「大丈夫だぞ。モモちゃんには、うちがいるんだぞ」

 「うん」


 桃百と成実は一年前に会った友達だ。

 会った時から彼女だけは心の声が綺麗だった。

 言った事と同じことを思っている。

 だから、すぐに仲良くなれた。

 二人は唯一無二の親友で。そして・・・。



 ◇


 戦いは白熱していて、ほぼ互角だった。

 今年の一年生は粒揃い。

 相手が一つ上でも負けず劣らずで、ラストの一球まで互角である。

 最後の攻撃の番で、五対四。

 一ポイント差を覆すのには、最低でも二人に当てないといけない。


 「モモちゃん。うちら、ここでやるんだぞ」

 「うん」


 そこで、三組の勝利の為に二人のコンビが、力を発動。

 一年三組最強コンビ。

 モモナルコンビだ。


 成実がしゃがんで、その彼女の肩に桃百が手を置く。

 これで二人は、直接意思疎通を可能とするのだ。

 対話者トーカーの技。

 以心伝心。

 思っている事を直通で伝える技。

 相手を信頼していないと出来ない技である。


 「投げたんだぞ!」


 パワー系の仲間が投げた球が真っ直ぐ移動していく。

 直進だけでは、一人しか当てられない。


 「なるちゃん。読み切りますね」

 「うん。お願いするんだぞ」


 桃百が投げた先の相手の思考を読む。

 その人は右に躱すと考えた。

 だからその指示の言葉なく伝える。


 「いける(右に動かせる)?」

 「うんだぞ。ほい」


 剛速球のボールの方向を切り替える。

 躱した先にボールを可変させた。


 「あ。いてっ・・なんでこっちに!?」


 躱したと思った先に、ボールが飛んできて、当てられた人間は驚いた。

 首を傾げながら地面に尻餅をつく。


 「まだだよ。なるちゃん。次!」

 「うんだぞ」


 わざと掠って相手に当てたので、ボールはまだ進む。

 奥にいる女性に向かった。


 「なるちゃん(左です)」

 「うんだぞ。ほい!」


 成実はテレキネシスBのギフターズ。

 彼女の力は、先程のテレキネシス対決の力よりも数段劣るのだが、彼女には最高の相棒がいる。

 桃百がいると百発百中の力となるのだ。

 この三組第二班が、遠足でボスを突破した理由もこれにある。

 理人が出した技を、二人で誘導して当てたのだ。

 桃百が敵の行動を読み、理人が最大火力で攻撃をして、成実がその技を誘導する。

 連携の第二班。

 それが、一組第七班の影に隠れた優秀な班の正体である。

 

 「次はこっちです」

 「うんだぞ!」


 この一投で三ポイントダウンを得た。

 一組に続いて、三組も勝利する事となり、今年の一年は豊作の年と言われたのだ。



 ◇


 試合後。


 「なるほど。ああやって協力してダンジョンを突破したのか」


 桃百の能力をどう生かしたのか。

 それが疑問だった春斗は、班の戦い方を想像できた。

 隣にいたアルトが聞く。


 「ん? どうしたハル?」

 「モモさん。ダンジョンでもああやって成実さんと協力していたんだなと思いましてね」

 「モモさん・・・ああ、彼女か。対話者トーカーだっけ?」

 「ええ。対話者トーカーは難儀な力ですからね。人に疎まれても仕方ない・・・」

 「そうか。たしかにな。人の声が聞こえるんだもんな」

 「ええ。大変です」

 「でもハルの声は聞こえないんだろ」

 「ん。どうしてアルトが知ってるんですか?」

 「ああ。彼女とは話したことがあるからな」

 「そうなんですか」


 アルトは人付き合いが上手いので、上手い具合に成実を使って彼女の調査をしていた。

 実は、春斗よりもアルトの方が調査員としての才能がある。

 

 「嬉しいんだってよ」

 「嬉しい?」

 「ああ。お前の声が聞こえない事がさ」

 「そうなんですか。なるほど」

 「なんだよ、その返事はさ。もっと良い返事しろよな。彼女を喜ばせてんだからさ」

 「いや。それは自分の力が異常なだけですからね・・・それをお伝えしていませんから。なんだか申し訳ない」

 「あ・・・そうか」


 アルトは勘違いしていたと反省した。

 力が異常である事を知っているのは、アルトと香凛のみ。

 それ以外はDの力しかないと言い張っている事を忘れていたのだ。


 好きかもしれない人。友達であると思っている人に、本当の事を告げられない。

 そんな苦しいことがあってたまるかとアルトは憤っているが、肝心の春斗が淡々としているから、どうしたらいいか分からないから、アルトは政府組織に直接乗り込んで暴れてやりたいとも思っている。


 「まあ、彼女に心の声が聞かれても大したことはないでしょうね。自分は、思った事しかお伝えしていませんから」

 「それが彼女にとって嬉しい事じゃないのか。お前が正直者だってさ。わかったらもっと嬉しいと思うぜ」

 「そうですかね。それって面白さが無いと思うんですが。ドキドキ感がないんじゃないでしょうか。よくあなたが言っていますでしょ」


 恋愛はドキドキ感が大切。

 アルトが春斗に教えていた。

 女性と付き合ったことのあるアルトならではの教えだ。


 「ハルがつまらない? ないない。変わってるんだぜ。むしろ面白い奴だろ」

 「自分がですか・・・そうですか」


 春斗は空を見上げた。

 ダニエルが教えてくれた事を思い出す。


 「・・・そうなると自分、もっと強くなれるんですかね」

 「ん?」

 「変わってるってのは強くなる証拠だそうです。ぶっ飛んだ思考で強さは増すそうです」

 「ああ。そうだろな。ぶっ飛んだ奴は、ぶっちゃけ強いだろ」

 「自分。そんな人に出会ったことが・・・」


 ないと言おうと思ったら、一人だけ思いついた。


 「どうしたハル?」


 言い留まった春斗を心配してアルトが聞いた。


 「いましたよ。宗像さんが変です!」

 「そりゃそうだろ。あの人、変人だろ」

 「はい。宗像さんが、ぶっ飛んだ人でした!!!」


 思い出したかのように。新たな発見をしたかのように。

 春斗は元気に宣言したが、そんなの当り前だろとアルトが諫める。


 「だから、お前もぶっ飛んでんだよ」

 「え?」

 「そっくりだろ。宗像先生にさ」

 「そうですか?」

 「ああ。だって親子だもんな。ハハハ」

 「・・・はい。そうですね。だって親子ですもんね」


 誰かに、宗像と自分が親子だと、初めて認めてもらえた。

 それだけで春斗は嬉しかった。

 アルトの言葉は何よりも欲しかった言葉。

 とてもうれしい言葉だったのだ。

 その証拠に今の春斗の笑顔は、心の底から来ている喜びからだった。



 これが、春斗の相棒【冬野アルト】である。

 雷鳴という名が付く前。むしろ雷鳴と名が付いても。

 春斗の相棒としての二つ名の方が、彼にとって栄誉だった。

 

 十期生最強コンビは、アハルトコンビである。


 

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