第23話 ダンジョンフレンド
「それは、ドレアスさんのモンスター図鑑ですね!」
ダニエルが持っている物を春斗が指差す。
指に力が入っているのは、ダンジョンの話だからだ!
「うっす。君も持っているのが見えたっすよ」
ダニエルは、君はお尻のポッケに持ってるでしょと、自分のお尻を叩いた。
「そんで、ダンジョン好きなのかなって思って観察しちゃったんですよね。あのさ。君の能力が【音】だって言わない方が良かったすかね」
「いえ。別にそれはいいですけど」
春斗の顔が急に明るくなった。
今までの真剣な表情から笑顔に切り替わる。
「ダニエルさん。ダンジョンお好きなんですか」
「うん。まあね。人と戦うよりもさ。面白くないかい」
「はい!」
「だよね。駆け引きが変わるんっすよ。モンスターは生態系から来る思考を計算するから面白いんすよね。人間だとさ、相手の能力と思考を呼んでいかないといけないから、面倒で・・・」
対人は、人の力と思考を読んで、相手の力量を測るのに対して。
対モンスターは、そのモンスターの生態系から来る行動パターンを読んで、戦うのが基本となる。
どちらにも大変な事が多いが、二人は対モンスターが大好きなようだ。
「わかります! その図鑑も読んでるだけでも面白いですから」
「うっす。やっぱな。君も好きか」
二人はすぐに意気投合した。
「ダニエルさんは、なぜそれをお持ちに?」
「俺は、友人に一人。同じ感覚の奴がいましてね。友達と一緒にこれ買ったんすよ。それで二人でダンジョンに潜ってね」
「それはハンターとしてですか?」
「いいや。その時はモグリさ。俺の方はスペイン軍に拾われちったから、ラグジュになれなくてね。けど、そいつはラグジュになったね」
「そうでしたか」
ラグジュ=ハンター。
互いの発言は、翻訳されている。
「あいつは、今も戦っているのさ。俺も戦いたいけど、俺の能力的にバディを組まないとダンジョン攻略が難しくてね。銃が通用しないからさ。モンスターには!」
モンスターには銃が通用しない。
それを言うという事は。
「内政系。又は精神系の能力!? もしかして、ダニエルさんは直接戦えないんですか」
「うっす。そう。俺の力は未来視。一分インターバルの三秒先の未来が見える」
「・・・おお!」
凄い能力だと、春斗は感嘆の声をあげた。
「この力のレベルだとAだそうだよ」
「それでですか。ずいぶんと凄いのに、三秒先でAですか・・・・」
能力的に、もっと上のS級でもいいんじゃないかと、春斗は思った。
「俺はさっきこの力を二回使ったっす。君が行動を起こす時と、旦那にクロスカウンターをする前にね」
「なるほど。それで音に気付いたんですか」
「んんん。いや、あの動き方が不自然だったからな。未来視で見抜いたというよりかは、動きの変化の仕方が旦那に似ていたからだな。あと音だね。動きの際の音が変だったっす。特に最後。あれは爆音すぎるでしょ。旦那が出すパンチの音じゃなかったからさ」
「普段と違う事にすぐ気づいたという事ですか」
「そう」
結局、未来視を持つ男性の目が素晴らしいんじゃなくて、その能力を扱う本人の目がなによりも素晴らしかった。
それが、能力の真実である。
そう能力が凄いから、その人間が凄いとなるのではない。
能力を使いこなす人間がいるから、その能力が素晴らしい物と化す。
それを春斗は若い頃に学べていた。
多くの人たちと触れ合う事で・・・。
「能力も使い方次第。彼女のように。旦那のように。そして君のようにね。君もかなり良い線を行くと思うよ。このままいけば、あれにも勝てるんじゃないかな」
「あれとは?」
「ああ。スペインの至宝シャビにね」
「シャビ?」
「そう。シャビエル・コスタさ」
「その人が頂点?」
「ああ。スペイン帝国の軍務の頂点。大将軍なんだわ。そっちに情報ない?」
「大将軍という役職が出来たまでは知っています」
「そうか。じゃあ、ここまでにしておこう。同盟国でもさ。ここから先を話すのも厳禁かもしれない」
情報を勝手に漏らすのは違う。
ダニエルは口を滑らすのを止めた。
「話を途中で切っちゃったんで、一つ君にアドバイスをしよう」
「はい」
「偉業を成す奴は!」
「はい」
ダニエルは春斗の鼻の近くに指を置いた。
「頭がおかしい!」
「え?」
「ぶっ飛んでる思考をしてる奴が、上に来るっす」
「は。はい」
「そんで。そんな奴らに負けないとするのなら、自分もまたネジを数本外すしかないっすね」
「わ、わかりました」
「でも君もその片鱗が見える。あの旦那のパンチに突っ込んでいく考え。あれはないっすね。普通のメンタルじゃ、ビビって下がりますからね。春斗君は才能があるっすよ」
「才能ですか」
「そう。ぶっ飛んだ思考をする才能がね」
「そうですか。自分に・・・」
自覚が無いのがまた才能。
ダニエルは、春斗を見て微笑んでいた。
相手が思いつかない事をするには、それくらいの考えが必要だと伝えたかったのだ。
そしてここからは。
「じゃあ、俺が見た中で、最も変だったのが・・・」
モンスター談議になって、この話はただの趣味話へと変わった。
◇
談義の途中。
「エステウロスと戦った!? あのA上位の・・・あいつですかい」
ダニエルの驚いた声。
「そうなんですよ。青い肉体でした」
春斗は、ありのままの感想を言う。
「珍しい。良い経験っすね。あのミノタウロスはしょっちゅう見かけるが、エステウロスは中々ないっすね」
「ええ。ラッキーでしたよ」
マッハモードでの死闘だったはずだが、春斗の中ではすでに珍しいモンスターを記録出来た貴重な資料戦だということになっている。
「エステウロスか・・・うんうん」
簡易の図鑑には載っていない。
世界で協力したモンスター大図鑑の方に載っている。
中央国の元同盟プラス新興国家では、ダンジョン情報の話し合いがあり、モンスターやダンジョンギミックなどで、各々持ち寄って情報交換をするのだ。
今でいう日本。スペイン帝国。アメリカ王国。ブラジル。アジアラウト。
この五つが、新たな事が起きた場合に、検証をして、自国で八割くらいが正しいと思った場合に、全体連絡をして、大図鑑に載せるか載せないかの話し合いをしているのだ。
本当はスイスをここに入れたいところだが、あそこは永世中立国なので、元左右国にも協力しないので諦めている。
「亜種っていい響きですよね」
「わかるっすよ。春斗君。亜種って言葉だけで、ワクワクするっすよね」
「はい!」
ダンジョンが好きな人の中に、大切な言葉がある。
『亜種。異変。進化。上位。新種』
この五つがあると、どんぶり飯五杯は食べられるのだ!
おかずが無くても安心だ!!
「亜種ってなるとな。俺はアクセルギリンドーだな」
「え? あの緑の鷲ですか! 目が水晶になる奴ですよね」
春斗が興奮気味に話す。
学校の人間がいたら、目を丸くして驚くだろう。
「知ってるの? 会ったすか?」
「いいえ。大図鑑で見た事があります」
「おお。読み込んでるんすね」
「はい!」
明るい笑顔だなと、ダニエルは思った。
そんなに好きなのかと自分も嬉しくなっている。
「アクセルギリンドーはA中位。でもノーマルがBだから、この差は大きいっすよね」
「はい! 亜種がランクを上げていくのは珍しくないですが、BとAの違いは大きいです。特に下位。中位。上位。Aだけは細かいですよね」
「そうなんだよな。Aだけは基準がね。結構別れるっすよね」
「はい」
モンスターはBランクまではそのままの表記通りに進むが、Aランクから変わっていて。
下位。中位。上位と三つの区分がある。
下位はA級ハンター1人でも良い。
上位がA級ハンターの集団。もしくはS級ハンターの一人が必須となる。
ちなみに中位はどちらでもない場合だ。
曖昧な立ち位置になりそうだと判断した場合に、五つの国が話し合ってそこに嵌めこんでいる。
それとSランク。
これは戦う事自体を避けるべきだとした災害級のモンスターを指す。
過去にここに登録されたのは三体。
いずれのモンスターも、ハンター集団を壊滅にまで追い込んだ。
生き残った者がおらず、かろうじて残された死体の記録媒体にその恐ろしき映像が残っている。
S級ハンターがいても、それに対抗しうるのか。
世界はSランクに勝てるのか。
人類の悲願・・・・。
とは言えない。
一般人。
それと魔晶石活動のみに興味がある人間には全く関係ない話なので、皆一目散に逃げるべきだ。
春斗のようなダンジョン好きの悲願であろう。
その後もモンスター談議は続き。
最後。
「いや。面白かったすね」
「はい!」
「あ。そうだ。なんか新しい情報があったら連絡を取り合わないっすか。こっちの個人用で」
ダニエルは、自分のデバイスを取り出した。
「はい。お願いします。自分もこっちに」
春斗も個人用のデバイスを用意した。
「うっす。これで何か情報ゲットしたら、連絡するっす」
「はい! 自分もしますね」
「お願いするっす。俺。ダンジョンって滅多に入れないんでね。助かるっす」
「はい! 必ず連絡しますよ」
互いに有益な情報を与え合うと、約束したのだった。
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