第2話 配信介入

 ダンジョン世代において、『配信』や、『動画投稿』には大きな意味がある。

 それらは記録となり、AIを活用することで、『人が手動で確認せずとも、多くの冒険者が何を手に入れたのかを映像で知れる』という点だ。


 特に、モンスターを倒し、『アイテムがドロップしたシーン』を撮ることは意味がある。


 そこがより『正確性』が高いからだ。

 中には、ダンジョン内部に『加工道具』を持ち込んで、作業をする人もいる。

 そうして、『何か重要なものが抜かれた素材』が出回ることすらあるため、『ドロップしたシーン』が残ることは大きな意味がある。


 もっと言うと、『動画本数』に比例して、冒険者は、政府から補助金が入るのだ。


 表層でしか戦えない人であっても、人並みの生活ができるくらいには。


 その補助金の関係や、物によっては節税も可能なため、『動画投稿』や『配信』が、大きく意味を持つ。


 そのため、どれほど戦闘に編集を加えるとしても、『ドロップしているところ』に編集を加えるのは違法行為だ。罰金20万円が確定する。


「さーて……こうなったとき、流れを止めるのはほぼ無理だからなぁ」


 白いロングコートと、かっこいい片手剣。目元を隠す仮面。

 光輝は『白仮面』の姿で、ダンジョンを走っていた。


「ポイントは……うわ、遠いな。この転移スポット、通ってねえんだよなぁ」


 ダンジョンは全て100層構造。

 そして、どの階層に挑めるかで冒険者としてのランクが決まる。


 S 51~60層 人外

 A 41~50層 天才

 B 31~40層 上級

 C 21~30層 中級上位

 D 11~20層 中級下位

 E 1~10層 初級

 F 準備中 新人


 おおよそこのようなランク分けだ。

 人外が51層から、ということは、人間にとっての普通の限界は50層。ダンジョンにとって折り返し地点となる。


 5層など、表層も表層だ。

 しかし、ダンジョンはとにかく、広い。


「はぁ……」


 光輝はため息をついた。


「表層だと、魔力が薄くてみんな弱い。『隠しボス』ってのは、階層に関係なく強いって、どこに行っても書かれてるのになぁ」


 そんなことを呟きながらも、クラスメイトが言っていたことを思い出す。


「そういえば、『剣』に関しては、開発費用に2000万円もかけてるって話か。冒険者本人の強さじゃなく、『装備の強さ』ってのを示すなら、むしろ、あまり魔力を集められない表層で戦うのが得策と考えたのか……」


 ダンジョン5層を走る。

 浅く、魔力が薄いと口にしつつ、『人間では考えられないスピード』で走り抜ける。


「転移スポットは各階層にいくつかあるが、触れたことがあるやつにしか行けない。まさか、表層とはいえ、マッピングをさぼったことを後悔する日が来るとはな……」


 スマホを弄りながら走る。

 そして……。


「よし、設定できた。配信魔法起動っと」


 アプリを起動する。


 ダンジョンが出現し、半世紀……50年も経てば、配信すらも魔法として体系化されている。

 ダンジョン産の素材がコア部分に組み込まれたスマホなら、使用者の魔力を使用して、配信も可能なのだ。


【ダンジョンCGチャンネル。まさかの初配信!】


(雑なタイトルだが……まぁ、問題はないか)


 設定は終わった。

 ちなみに、光輝の傍に『赤いランプが浮遊している』が、これは配信しているという合図である。


 なお、スマホを見れば、近くで配信している人がわかるため、避けて通ることも出来る。


(……ここからはほぼ直線。お、いた!)


 夏帆が、鎧と盾を剣という、なかなかの装備を着こんで、『扉』の前に立っている。

 その周囲には、事務所の人間であろう人が囲っている。


(魔力を耳にも流し込んで、聴覚を鋭くしてる。この距離でも言葉が聞こえるはずだが……)


 そう思った時だ。


「皆さん。こんにちは! 夏帆チャンネルです! ……え? 近くで配信してる人が別にいる?」

(なんかすごく……出鼻をくじいた気がするが、まぁいいか)


 光輝はそのまま、配信場所に近づいていく。


「ん? おーい、そこで何やってんのー!」


 爆速で走りながらも、『今、偶然来ました!』感を、『装う必要があったかな?』と内心で思いつつも、光輝は叫んだ。


「え、えっと……」


 配信場所の近くで停止した光輝……いや、白仮面を見て、唖然としている様子。


「え、えっと、あの、もしかして、配信がダブった?」

「んー……あ、朝垣さんも配信中か。一応、自己紹介。『ダンジョンCGチャンネル』の白仮面です。よろしく」

「は、初めまして……」

「で……ここって、迷宮省が配布している地図にはないよな。隠しボス?」

「そ、そうです! 今から、隠しボスに挑みます!」


 話を振ってみれば、夏帆は大きく頷いた。


(まぁ、いろいろ思うところはあるんだが……)


 とりあえず、光輝は話を続ける。


「え、えっと……正気か?」

「ひどくない!?」

「ここ、5層だよな。隠しボスって、階層に関係なく、めっちゃ強いって聞いたことがあるし、こんな魔力がうっすいところで、どうやって戦うんだ?」

「え、えっと、それは……」


 しどろもどろになっていると、スタッフ側が話してきた。


「夏帆さんが持っている装備は『ルビーシリーズ』で、剣は傑作品です。『紅玉重工こうぎょくじゅうこう』が製作したもので、開発に2000万もかかった特注品。確かに魔力は集められませんが、装備の性能があれば問題はないということです」

「なるほどぉ……」


 光輝は……少し、嫌な笑みを浮かべた。


「でもさ。深い階層にいるときと同じように剣を振れるの? 結構怪しくね?」

「で、では……」

「というわけで、罰ゲーム! もしこの隠しボス討伐に失敗したら、魔石100キロを、迷宮省に寄付する。実は俺のスマホも配信中でね。頷くなら逃げられないけど。どうだい?」


 煽るような目で、夏帆を見る。


「え、えっと、ま、魔石……100キロ!?」

「そう。100キロ。どう? そもそも冒険者の役目は、魔石やアイテムを市場に提供することだ。その延長線上だぜ? できないなんて言わないだろ?」


 ニヤニヤを話す光輝。

 夏帆はチラッと、スタッフを見る。


 忌々しそうに光輝を見ているひとりが、頷いた。


「グッ……わかった。なら、私が失敗したら、魔石100キロ。寄付するよ」

「魔石集めの耐久配信もよろしくな! それじゃ、準備ができたら行ってらっしゃい!」


 笑顔になる光輝。

 彼の配信画面は人がいないため、コメントはない。

 だが、夏帆側のコメント欄は、突如現れた白仮面を非難する声と、夏帆を応援する声であふれているだろう。


 実際、夏帆の視界の端に流れるコメントウィンドウには、『誰だこいつ』という非難と、『頑張れ!』という応援、そして『面白くなってきた』という無責任な野次馬の声が、凄まじい速さで渦巻いていた。


>>誰だよこいつ!

>>人の配信に割り込んでくんな! 空気読め!

>>夏帆ちゃんをいじめるな! 失せろ!

>>編集乙ニキがなんでここにいんだよw

>>正論ぶってるけど、ただの売名行為だろ。最低。

>>夏帆ちゃん、そいつの言うこと聞かなくていいよ! 信じてる!


>>放送事故キターーーーーーーwww

>>何このカオスな状況www 面白くなってきた!

>>罰ゲームとか言い出したぞwww

>>魔石100キロは鬼畜すぎて草

>>失敗したら地獄の魔石集め耐久配信決定じゃん!

>>【悲報】夏帆ちゃん、煽られてて草

>>むしろ失敗してほしいまである


 こんな感じだ。


「そ、それでは、ボスに挑みます!」


 そういって、夏帆は、隠しボス部屋に入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る