先輩のうちがわと恋
放課後になって部活の基礎練習が始まる。
気合を入れる意味も込めて、一つ結びにくくると、しゃんと姿勢が伸びる感じがする。
いつもは静かなのに今日はなんかざわざわしてる。特に二年の先輩方はちょっと浮足立ってる。
あたりを見回すと、いつも誰もいない見学するスペースにあのチャラい先輩がいた。
もしや、私に用事とかじゃないだろうな、と思っていると、三年の青山先輩と手を振りあっていた。
自意識過剰じゃん、妙にイラっとして、でも恥ずかしくて、下を向いて深呼吸したら、青山先輩がやってきた。
「調子はどう?今日全部的に当てたら次の試合、私の代わりに出てもいいんだよ?」
にやりと茶目っ気のあるかっこいい笑顔でのぞき込まれて、びっくりして後ずさる。
「めっめっそうもない!もちろん、目指して頑張りますが、試合は見学するのも後輩の仕事というか、先輩を見ていたいです!」
「んふふー、冗談だよー。今日も楽しんで頑張りましょ。」
と、笑いながら、青山先輩はさらっと長くてまっすぐな黒髪をまとめながら、去っていった。
今日もかっこよくて美しい。
三年の先輩は一年とはそこまで接しないけど、青山先輩は誰にでも声をかけるし、エースなだけあって射形が美しい。
体格もすらっと背が高くてかっこいいので、女の子のファンクラブもあるらしい。私もあんな風にバシッと的に当てれるように、まずは基礎練を頑張らないと。
少し練習していると美里がやってきた。
今日一日、学校を休んでなかったっけ?
「すみません。昨日体調崩して、皆さんにも迷惑かけてしまって。今日は元気だったんですけど、念のため病院に行ってて。基礎連だけでも参加させていただければと思ってきました。」
「いや、見学にしときなさい。来ただけでも偉いもんだ。まあ、無事で何より。」
いつも厳しい先生も昨日の今日で優しい。
なにより、部活だけでもと来たやる気に感動しているようだった。先輩たちも、もっと何か言ってくるかと思ったが、
「来たんだー。普通に休んでもいいのに。」
くらいしか言わないで、さらっといつもの部活の空気になった。
部活が終わって帰る準備を終えたら、美里がやってきた。
「うまいもんでしょ。親のほうがごまかすのが大変だったわ。ちょっと話さない?」
「美里さんのカバンの隙間からこんにちは!両足、もとい腰から下の人形が見つかりましたー」
「うわあ、突然現れないでよ。」
え、と他の先輩方がこっちを見る。美里が「虫――!」と言ってごまかした。
そういうと「なんだよ」という感じになった。
美里はボソッと小さな声で「最悪」と言った。
「どこにいるの?あの小人でしょ。」
「あ、うん。ごまかしてくれてありがと。そこにクナイさん、小人が急に美里のカバンから出てきてびっくりしたの。あ、もちろん話そう。」
「え、どこ?きもくない?なんで勝手に入ってんの?」
「いやはや、すみませんねえ、そうそう、次の人形の場所はですね、なんと自動販売機の下の隙間でしたよ。さあ行きましょう、せっかくなので美里さんもどうです?」
「で、なんか言ってるわけ」
「あれ、おとといは声だけ聞こえてなかったっけ?」
「あの時だけでしょ。てか、本当に私のカバンにいるの?」
そういうとカバンをあさりだした。クナイさんはカバンの持ち手にしがみついてわたわたしていてちょっと面白い。
「やめてあげて、わたわたしてる。私、このあいだ美里も行った隙間の世界に落っこちた人形のかけらを集めているの。それで人形をクナイさんの力で直して、その人形を、先週言い訳して出かけた銀座にもってかなきゃで。えっと、そこにいる女の子が、人形に取りつかれてて、それで何とか今週末までにしなきゃ女の子が危機で。えーと結局人形のかけらが学校に散らばってて、その一部がある場所が見つかったってクナイさんが言ってるの。」
「んー?どういうこと?わかりづらいなあ。」
茜はうまく説明できなくて困った。
「とにかく自販機下に行って人形を見せればわかってもらえますよ。ささ、行きましょう。」
クナイさんの言う通りかも。
はざまさんが見えなくても、この人形の一部は見えるわけだし。
「一緒に行かない?その、人形の一部を引っ張り出すの、見たら状況わかるんじゃないかと、クナイさんも言ってるし。」
「んー、二人でゆっくり話したかっただけだから今回はいい。代わりに銀座には行こう。たぶんそっち行けば理解できる気がする。」
じゃあばいばい、というとさっと帰って行ってしまった。
美里は、もしかしてクナイさんが嫌いなのかもしれないと茜は思った。
仕方ないので自販機の隙間に向かう。
「この下のところ、私を投げ入れてください。」
そういうとクナイさんはグッと体育座りをして目を閉じた。
「え?普通に入ったらいいんじゃないの?投げる?」
「ここは、勢いがないと入れないんです。どうぞ。こちらは準備万端ですよ。」
そういわれてしまえば仕方ない、右手にクナイさんを包むと、茜はしゃがんでから横に投げ入れた。
ふぐう!という小さな声がした気がした。
待っていると、青山先輩が通りがかった。
「あれ、どうしたの?小銭でも隙間に落とした?」
「おわ、青山先輩、お疲れ様です。そんなとこです。あ、何か買いますか?」
「いや、私水筒派なんだよね。いくら落としたの?どれか飲みたいの?」
青山先輩はパスケースを出して自販機にピッとして、「押しなよ、おごるよ。」
とおっしゃった。素晴らしい人間すぎる。
そして嘘ついて申し訳なさすぎる。
「ありましたよー、お、重いので運んでくださいましー」
と下から聞こえたので、茜は慌ててしゃがみ込んで、カバンを開いてクナイさんと人形をカバンにしまって何もない右手を握りしめて立ち上がった。
「あ、ありました!!青山先輩!お気遣い感謝いたします!」と90度にお辞儀をした。
「あ。よかったー。逆に気を使わせちゃったかな、じゃ、おつかれー」
と、あっさりした感じで去って行った。
ごまかせたことよりも、青山先輩に変な奴だと思われたんじゃないかということのほうが気になった。
クナイさんが言うには、残りは頭と、右腕。
タイムリミットは3日。
次の日、美里が私が教室の扉を開けたとたんに駆け寄ってきた。
「ねえ、茜!あんたあの胡散臭い3年の花野先輩に目付けられてない??」
「え?どういうこと?来て早々何かあったの?」
「花野先輩だよ。あのチャラくて、胡散臭くて、妙に軽々しいイケメン風の。なんか朝に声かけられてさ、
『君、茜ちゃんって子と仲良しさんだよね。茜ちゃんと一緒にひとまずお昼とか一緒に食べない?。』とか言ってきたんだよ。
きもすぎて『先輩とご飯食べるとか怖いですー。他のちやほやしてくれる先輩方の取り巻きとご一緒に食べてはいかがですかぁー?私と茜はふたりでご飯食べますのでー。』って言って逃げてきたけどさ。なんか面倒なことになってない?」
「あ…昨日のあの先輩か。理科室で遭遇したんだよね。でも、青山先輩と仲良さそうに手を振りあってたの見たし、それだけで私たちにってのはなんか変じゃない?」
「青山先輩とは幼馴染らしいけどさ、急に対して仲良くない後輩に『お昼とか一緒に』ってのは何なのよ。教室移動とか、遭遇しないように気を付けたほうがよさそうだよ。花野先輩と言うよりは、取り巻きが厄介だと思う。」
「美里ちゃん!茜ちゃん!おねがーい!茜ちゃんと前に会った場所で!お昼休みに会おうよ!相談したいんだ!」
「げえ、噂してたら来た!」
「あの。花野先輩?相談とはたいして話したこともないような後輩でないとできない相談なのでしょうか?」
と茜がすかさず言うと、急に顔を近づけて、小声で。
「そう。まじで。青山と仲良い奴は口が軽いし。君は青山になんか性格似てそうだし、恋愛相談だよ。あの理科室に昼休みね。」
と言うと、「じゃあ、頼むね!!」
と言って走り去っていった。美里はにらみつけてからびっくりしてボケっとしてる私の手を引っ張って教室の窓際に連れて行った。
「え、茜!あんた、もしかして…応援できないよ、その恋は…」
と憐れむように見てきた。
「え?え?違うよ、ちょっと顔が近くてびっくりしただけ。イケメンだけど、私のタイプはもっと目鼻立ちはっきりした濃い顔が好きだから。」
「いや、タイプと実際に好きになるのは違うよ?で?なんて言われたの?さっき。」
「なんか、恋愛相談みたいだよ。お昼休み、一緒に行こう。」
「えー、まあーでも、茜だけで行くのはやばそうだし…うーん、わかった。」
そう嫌そうにいいながら、美里は恋愛の話が好きなのでニヤニヤしていた。内心は楽しみなんじゃないだろうか。
かくして、お昼休みは理科室にこっそり入ってお昼ご飯を食べることになった。
普通は理科室でお昼を食べる人はいない。というか、食べていいのかわからない。
茜は先生に聞いてみる?と言ったけど、美里が「そんなことしてダメだったら厄介だよ、知りませんでしたー先輩に言われて―みたいにごまかしたほうがいい。」と言われてしまったので、結局本当はそこで食べていいのかわからずじまいだった。
理科室に行くと、扉があかなかった。
「開かないのかい!」
と、美里がドアをパシッとはたいてツッコんだ。すると、どこから来たのか花野先輩が現れて、
「鍵はこちらに。ささ、入ろう。」
と言って鍵を開けて入った。言われるがまま入ったら、鍵を閉めた。
「なんで鍵を持ってるんですか?」と茜が聞くと、
「僕、理科研究部の部長だからね。昼休みにこの水槽のハゼに餌をやるという口実で一人優雅にお昼ご飯を食べられるのですよ。」
「賢い…なんか、いつもの張り付けた偽笑顔と違って今の感じ良いですね。自然。」
「美里ちゃんはむしろいつでも直球だね、偽笑顔って青山にも言われたなあ。二人ともタイプが違うから相談しがいがあるね。」
「で、相談というのはなんでしょうか。青山先輩関連みたいですけど。」
「え、恋愛相談って青山先輩の?幼馴染の恋ってやつですか?」
美里の目が露骨にぎらぎらしている。やはり人の恋愛話が大好きだから楽しみだったようだ。
「うん、幼稚園の時からずっと好きなんだけどさ、てか、小学生低学年くらいまでは青山じゃなくて名前の香織ってよんでたのにさ、なんか気まずい感じになっちゃって、俺がモテすぎるようになっっちゃったってのもあるかなー?っつって。」
「俺って言うとチャラくなるんすね。僕が素ってわけね。」
「美里ちゃん鋭い!でも、仲悪いわけじゃないし、今でも一緒に帰ったりするんだけど、最近茜ちゃんがすごいとか、その仲良しの美里ちゃんも実は結構実力あるとか何とか言っててさ、少ない友達の名前以外に名前聞いて何とかこの現状を打破するサポートをしてくれたらって思ったわけ。そしてこの間理科室で遭遇したからさ、チャンス!ってさ。」
「サポートと言っても、青山先輩とは部活でしか接点ないですし、花野先輩のほうが青山先輩の事とかわかってそうですけど。」
「当たり前に居すぎて凪って感じになってるのかも。茜、もしいつも一緒に仲良く帰る男の子がいても、好きにならないでしょ。」
「まあ、私は…そうですね、いつもいるなあ、くらいにしか。」
「青山先輩もそのタイプだと思いますよ、午後に急に姿消して心配させて、そのあと、急に表れて、理想の男子感出して、香織って名前で呼べばほれるんじゃないですか?」
「青山の理想ってチャラい感じだったんだよな、で、中学からこのキャラなのに、全然なんもって感じだったんだよ。そしたら違う人から告白されまくるし。」
「わあ、少女漫画みたいですね。そういうマンガ大好きです。青山先輩も好きって言ってました。」
「私が思うに、青山先輩は、2次元の好きなタイプと3次元の好きなタイプ。結構違うタイプだとと思いますよ。茜、青山先輩とそういう話で盛り上がってたじゃん。」
「確かに、そういう恋愛小説で盛り上がりましたけど、実際はあったかくて優しい刺激すくなめがいいなって言ってました。」
「青山先輩の前でだけ僕で素を見せて、それに気づいてそわそわしだしてから、学校にいるのに会えないくらい急に姿を消して、日曜日とかにデートに呼び出して告白がいいと思います。」
と、結構しっかりとした計画を美里が指示して、それに乗り気な花野先輩と盛り上がっていると、ガラリ、と準備室から理科の中村先生が出てきた。
「ごめんね、聞いちゃったよ、何その話いいなあ、青春じゃないか。僕もそんなことあったなあ、僕の時はライバルがいたんだよ、告白しようとしてるって聞いて慌てて交際申し込んでオッケーしてもらったんだ。それが元カノ。」
「今じゃないんかい。」と美里が突っ込む。
「ま、うまくいってもそれでおしまいじゃないってことよ、がんばれ、花野。」
中村先生は片手を手をひらひらさせて教室から出ていった。
「げ、聞かれてたか。さて、そろそろ僕は戻るし、理科室を出ようか。美里ちゃんも茜ちゃんもありがとうね。美里ちゃんの実用的なアドバイスを実践するわ。」
花野先輩もそういって教室を出て、解散となった。
「あーあ、私も幼馴染欲しいな。…ってもう無理か。理科の中村先生の言ってたライバルって情報の先生の石田先生だった気がする。」
教室に戻る帰り際に美里が言うには、今はいない美人の美術の教師と三角関係になっていたことがあり、理科と情報の教師は仲が悪いらしい。というのも、一度は理科の教師と美術の教師で交際したが、その後二人が破局して、一瞬その不仲な状況も改善したことがあったが、破局の原因が理科の先生がフッたからだ、と知ると、より一層不仲になってしまったという。
「ちょっとチャラくてへらへらした理科の教師とぶっきらぼうだけど優しい情報の教師に好かれる美女って何者?会ってみたかったなー。今は教師を辞めて、別の仕事してるらしいよ。」
と言っていたが、美里はいったいこういう情報をどこで入手してるんだろうか。
教室で次の授業の準備をしようとしたら、ポコッとはざまからクナイさんが現れた。
「お昼休みはいかがおすごしで?私はとうとう、右腕が見つかりそうです。パソコン室の棚の裏でしたよ。放課後行きましょう。」
「今日は部活あるし、そのあとだと遅いから明日の朝にしよう。」
「そうですか…。私も少し気になることがありまして…。では引き続き今日は頭を捜索します。部活の後にでもまたお話しましょう。」
クナイさんは忙しそうに居なくなった。
放課後の部活では、青山先輩の調子が悪そうだった。
「花野先輩となんかあったのかな。」
と美里と心配していたが、自分の心配もするべき状況になってしまった。
「週末の試合の模擬試合に、試合に出ない二年と一年混合チーム、三年は大会のチームで分かれて、対決してみよう。試合の空気感でやるんだ。負けたチームが三十分居残り練習な。」
と言われてしまった。しかも美里と違うチームだ。
大会の空気で、とコーチが言ったせいで、若干ピリッとした空気だ。みんなが空気に飲まれて調子が悪い中、美里だけが安定していたので、結構いい結果になった。
茜は青山先輩と同じ不調具合で、伸び悩んで、茜のいるチームは最下位になってしまった。
「立花、今日は調子悪かったな。こういう状況で強いと結果を残せる。頑張れよ。青山、お前どうした?試合は明後日だぞ。よーしせっかくだし明後日の練習も模擬試合にしよう。最下位チームは居残りな。今日は全体としてはこれでおしまい。」
部活が終わって、美里がさっと駆け寄って来た。
「青山先輩に引きづられたっしょ。調子悪かったね。私はお先に帰りますわー。」
「美里は調子よかったね。というより、安定しててすごかった。お疲れ、また明日ね。」
今日はクナイさんもほどんど出てこなかったし、まるでいつもの日常に戻ったようだった。
しかし、最下位チームなので追加のトレーニングと掃除だ。先輩に「茜ちゃんいるから結構いい結果になると思ってたのに」なんて言われてしまった。私は下級生らしく静かにトレーニングをしていると、先輩たちの会話が聞こえてきてしまう。
「そういえば茜ちゃんも不調だったけど青山先輩、様子おかしくなかった?」
「ね、あれはなんかあったでしょ。三年生の教室の前の廊下、今日ちょっと騒がしかった気がするし。あとで青山先輩と仲いい先輩にでも探り入れてみよ。」
と言っている。花野先輩はいったい何をしたんだろうか。
美里のアドバイスがいい結果になっているといいけど。
と茜は思わずにいられなかった。何か話したかったが、結局今日は青山先輩はさっさと帰ってしまった。
学校から帰ろうとしたら、クナイさんが更衣室のはざまからポコッと現れた。
「私のことが見える人が、他にもいるような気がするのですが…」
「そりゃ、私だけってわけじゃないんじゃない?」
「腕を見つけた部屋で、すごく視線を感じたんです。明日の朝ですよね。パソコン室に入るのに、鍵とか必要でしたら、私、こっそり持ってきちゃいますよ。」
なんかだんだんクナイさんの行動が大胆になっている気がする。
というより、パソコン室に侵入はちょっと良くない気がする。
私は美里じゃないから、侵入して見つかった時、どんな言い訳すればいいか全然思い浮かばない。
だったら、「忘れものが…」とかいって正直に先生に開けてもらって、朝のうちにちょこっと探すふりでもするほうが自然にできる気がする。
「大丈夫、忘れ物探してるって言い訳して朝に来てる先生に開けてもらうよ。」
というと、安心したようにクナイさんはうんうんと頷いて、
「では、明日の朝は頼みますよ。」
と言うと、ベットのはざまに飛びこんでいなくなった。
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