神を討つ
タラゼドは次の魔法に備えながらもデミトリアの動き方を分析する。相手の動きを見てからカードを切り、常に反撃を狙いながら最低限の消耗で最適な手を打つと。
(あのカードを温存してる以上は消耗を抑えるというのはわかりますが、それにしてはカードを使わなさすぎる……わたくしを警戒してるのか、あるいは……)
世界有数の魔法使いを知るからこそデミトリアは警戒を強めている、だがそれとは違う可能性をタラゼドは予感する。かつてと同じように仲間と戦った時と異なるものがあり、薄々何かと導くも今できる最良の手として魔力を滾らせた。
「藪を突くしかありませんね。万物を鎖す静寂よ、冷たき抱擁をもってかの者を封ぜよ……!」
凍土の世界が一気に冷え込み、刹那にエトラの周囲が凍結しその身を凍らせる。だが動きが鈍くなっただけで完全に魔法が決まったとはいえず、しかし攻めるには十分な隙となりシェダの声に応じオハムが前へと駆けた。
「長くは止められませんしデミトリア殿も手を打つはずです、用心してください」
「わかってます! セレッタ!」
両手をしっかり握り合わせ離れないようにしながら話すタラゼドにエルクリッドが呼応し、セレッタが水魔法でエトラを濡らし凍結効果を支援しエトラの動きをより緩慢なものとする。
ここでデミトリアがカードを引き抜くが、刹那にオハムもエトラの頭に到達し両前爪を突き立てそのままこじ開けるように引き裂く。
デミトリアの額に筋が走り血が飛んで反射が入ったのがエルクリッド達も確認するも、彼は動じずカードに魔力を込めたのを見てリオとノヴァがカードを抜いて備えた。
「オーダーツール、オル=グレイプニル」
何処からともなく擦れる金属音と共にオハムの身体を銀の鎖が絡めとり、その身を焼けつきながら絞めつけ自由を奪う。
オーダーツールによるツールカードの使用により通常の破壊は困難となり、またオハムが身動いでもよりきつく絞めつけられる事からシェダもその反射に苦しみ、だが大丈夫だとエルクリッド達に答えながら耐え続けた。
「オハムを確実に封じ込める機会を狙ってた、ってわけか……でも!」
頭を割かれたエトラの傷は少しずつ塞がっていたが、そこへリオが霊剣アビスを振り下ろして再び切り裂き傷を深くする。
既に切られた場所への攻撃、それもエトラが動きを封じられ能力も抑えられた状態で受けた事はかなりの衝撃だ。しかし、世界最大の生命たるエトラの巨体はリオの一閃で両断できる程容易くはない。
(もう一撃加えても足りませんね……!)
凍結によってエトラの再生能力を抑制したが決定打となるオハムを封じた事でデミトリアは立て直すだけの時間を確保できる。無論それはエルクリッド達の動き次第であるが、どの戦術で来ようとも返す余裕のようなものを堂々とした佇まいから感じさせ、それだけで重圧となり判断を鈍らせてくる。
(どうするのリオちゃん、使うしかないんじゃないの?)
(賭けというのは好きではありませんが、仕方ありませんね!)
霊剣アビスに促されたリオがカードを抜き、その気配を察しその場の者達に緊張が走った。
「ワイルド発動、アヤミの戯れ!」
そのカードの発動と共に青白い波動が周囲に拡がって包み込み、すぐに消え去る。何が起きたかすぐに把握に入るとオハムがオル=グレイプニルを引き千切って脱出し、かたやエトラは凍結が消えていた。
しかしエトラの再生はリオが追撃した部分だけに留まり、オハムが裂いた頭部は腐敗し崩れ落ちる。
発動した一帯の全ての効力を無効化する、ただしそれは全てを飲み込み無とするウラナとは異なるもの。
とりあえずオハムの拘束は解けたが腐った頭を落としたエトラもまたすぐに頭を生え変えさせて復活し、戦いは振り出しに戻ってしまう、かに見えた。
「ワイルド展開、ウラナの渦!」
それはエルクリッドが切ったカードによるものだった。着地と同時に聴こえた声に反応してリオが後退するとエトラの身体が埋まる一帯に黒い液体が拡がり始め、オハムも下がりそれを避ける。
一方でエトラも脱しようとするが巨体が仇となって動く程に身体が沈んでいき、だが大きさ故に完全に沈み込むまではまだかかるといった様子であった。
「ウラナの渦、か! それを使われては手厳しいが対策がないわけではない、ホーム展開、空中闘技舞台!」
戦場の宙に突如としてそれは現れる。所々が崩れ落ちながらも鎖で繋ぎ止める空に浮く遺跡のようなそれにエトラが身を巻きつけながらウラナの渦から逃れる道筋となり、すかさずセレッタが水の矢を雨の如く降らせて阻止しにかかるも持ち前の生命力で凌ぎ切った。
ふと、デミトリアは何かを察し空を見上げそれを目の当たりにする。天に広がりしは青き翼、柔らかなる光を持って空を舞う神獣イリアの姿を。
そしてその背からエトラに向かって飛び降りるオハムの姿も。
(この儂が出し抜かれた……!? いや、まだやれる……!)
驚愕しながらもデミトリアは咄嗟にカードを引き抜き、刹那、オハムが頭の角の向きを変え赤熱化させてエトラの口内へ突っ込む。
少しの間の後にエトラの身体が膨張して一気に破裂して砕け散り、その反射を受けデミトリアの全身に激痛と傷とが走った。
「ぐぅっ……スペル発動、ペインバック!」
一瞬よろめくも崩れる事なく踏ん張ったデミトリアがカードを切り、エトラがカードに戻ると共にその身に青の光を纏う。
アセス撃破に伴って受ける反射と傷の深さだけ魔力に還元するペインバックのカード、高等術ディバイダーでエトラを召喚してない事や倒される事も想定しなければ咄嗟に使うのは難しいカードを切った事は経験の賜物だろう。
「マダラとミナヅキに引き続きエトラを退けるとは見事だ、その実力だけでも十二星召を退けてきた事やバエルと相対したのは決して運ではないとわかる」
色彩を失ったエトラのカードをしまいながら称賛を述べるデミトリアは堂々とし、そして余裕が感じられた。
普通のリスナーならば、十二星召ならば、主力のアセスを撃破されて後がなくなり残りの全てを最後のアセスにかけて来る。
だがデミトリアはそうではなかった。まだ手札が彼には残っている事もあるだろうが、それ以上にここまでの戦いも様子見に感じられ、未だ底知れぬ強さに緊張が走り警戒させてくるのだから。
NEXT……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます