神鳥の翼ーWingー
彗星の翼
恵みを与える彗星。
思いを力と変える光。
地を打ち砕く流星。
青き神鳥の側面は様々にある。
だがその全てを知るものは僅かのみ。
かの神鳥は何を思うのか、その翼を広げ天を舞い何を見下ろすのか。
ーー
ファルコン山が激しく揺れてそこに棲む住人達が慌てふためく。イリアの流星による攻撃により十二星召メビウスの試練の舞台は破壊され尽くされ、そこに立つ者達の無事を戦いを見守っていたエルクリッド達はまだ捉えてはいない。
「イリアの力……ホームカードとしてのそれがこんな攻撃に……」
「天上下、神獣は天に君臨し上に立つ事を好み下に敷かれる事を忌み嫌う。故にホームカードとしての展開は神獣の怒りそのもの、天邪鬼たるアヤミを除き攻撃魔法のような特性となるのです」
エルクリッドに答えるタラゼドが静かに結界を解き掌からそよ風を吹かし砂塵をゆっくりと晴らしていく。
全てを破壊し尽くすイリアの力を使ったノヴァは無事なのか、リオやメビウスはと気になる中で風が吹き、刹那に砂塵を貫き天に舞うは天空王ハスラーである。
多少の傷や出血はあれども致命的と言えるものは外観からは窺えず、あの状況でそれで済んでいる事実にはただ戦慄するしかない。
「あれを凌いだのかよ……真化してるからって無茶苦茶すぎるぜ」
「ハスラーは長年メビウス殿と共に戦い抜いてきた歴戦の猛者です、そしてメビウス殿もまたいつどのカードを使えばいいのかを把握しきっている……それが風の公爵である彼らの実力です」
額に汗を流すシェダにタラゼドが答えてる間にハスラーが壊れた舞台に立つと、その余波で風が吹きカードを掲げるメビウスも姿を見せた。
手にするのは黄金の風が竜巻となりリスナーを守る絵柄のカード、やがてそれは色彩を失い崩れるように消滅するとメビウスは服についた塵を払い落とす。
「ウインドバリアを持っていたから良かったものの、流石だね、イリアの力は」
「我が力で押し切れると思ったが、デミトリア殿のアセスのように上手くはいかんものだな」
「彼らは規格外だからね、わたしらはまだまだ及ばないさ。そして、彼女達もこれから伸び代がある、というわけさ」
ハスラーに穏やかに返しながらメビウスが前を見つめ、天空王もまたその目線に合わせる。やがて晴れる砂塵の中に真紅の膜に包まれたリオの姿があり、そしてノヴァもまた破壊された舞台で唯一無事な場所に立ち尽くす。
二人の無事にエルクリッド達は肩の力が抜けて安心から膝が崩れかけるもぐっと力を入れ直し、改めて状況の把握と戦いを見守る姿勢を取り直して動向を見つめる。
「なるほど、ガードホームか。展開されているカードの強さに応じた結界を張るそのカードであればイリアの流星の中で無事でいられるのも合点が行く」
「メビウス殿も、アセスの強さに比例した結界で守るバリア系カードを切るのはお見事です」
静かに答えを返すリオを包む結界が消え、ゆっくりと立ち上がりながら霊剣アビスを構えた彼女へメビウスは大したことではないと微笑みながら答え、カードをゆっくり抜きながらさらに言葉を紡ぐ。
「初見であれば対応するのは叶わない見事な連携を見せてもらったよ。共に旅をし、相手を理解し、戦いの中でも確かな繋がりを信じているからこそできるもの……その可能性をもっと見せてくれ、わたし達は堂々と受けて立つ」
数多のリスナーを見てきた者だからこその重みがそこにあった。善きも悪きも弱きも強きも、何もかも。
最も穏やかなる十二星召の快活で楽しげながらも、堂々と公爵たる構えにはリオとノヴァは圧倒されかけるも前へと足を出し、退く事なく戦いの意思を示す。
「リオさん、まだいけますか?」
「もちろん、ノヴァ、あなたは?」
リオの答えを受けるノヴァが手にするカードに魔力を込め、青き光を放ち始める。今がその時と悟ると同時に光は旋風となり掲げられたカードの名をノヴァが呼ぶ。
「彗星の光、凛々しくも気高き存在となり天を舞え! 力を貸してください、
光が形を成しながら青き翼持つ神獣イリアへと変わり、美しくも気高き姿を現し静かに舞い降りる。
ずっと追い求めた存在、かつて先祖が崇めた存在を呼び出した事へ思うものはあれど、今は戦いの最中とノヴァは思い小さく息を吐く。
(魔力が持ってかれる……集中、しないと!)
コツコツと積み重ねてきた事で魔力の総量そのものはノヴァもそれなりに高まってはいるが、初めてのアセスの召喚、それも神獣ともなれば堰を切った如く魔力が消費される。
ここで焦らずにノヴァは目を瞑って意識を沈めてイリアに触れさせ、そこから魔力の流れが穏やかになるのを感じ取ってから目を開いた。
(ひとまずは大丈夫そう、ですね。色々聞いておいてよかったな)
旅の合間にリスナーとしての心構えだけでなく、多くの技術についてもノヴァは学んだ。アセスの魔力消耗を抑えるやり方もその一つ、それを後ろから見守っているタラゼドは静かに頷き彼女の確かな成長を感じ取る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます