星彩の召喚札師ⅩⅣ

くいんもわ

月夜に舞う

妖狐

 エタリラ北部風の国ナームの中央部ホークの街より北にある比較的新しい遺跡にそれはある。名も忘れ去られ知る者もいないそこはかつてリスナー達が力を競い合ったとされる舞台であり、そして数十年前に一つの物語を終結させた舞台でもあった。


 満月の下で扇子を広げ彼女は舞う。ゆっくりと艷やかに誰もいない舞台の上で、在りし日々と過ぎ去った日々とを思い起こしながら、そしてこの舞台で敗北し幽閉され再び立つ事となったのを振り返りながら。


 十二星召ルナール・ミゾロギは一人静かに舞い踊っていたが気配を察して舞を止めて扇子を閉じ、暗がりより月明かりに姿を現したリスナー・バエルを捉え目を細めた。


熒惑けいこくのリスナー……デミトリアの弟子、だったな。ワシに何か用かの?」


「明日、エルクリッド・アリスターと戦うと聞き及んで来た」


 エルクリッドの名をバエルが口にしほう? と扇子を広げ口元を隠しながらルールはバエルを見下ろすように背筋を伸ばす。


 十二星召筆頭デミトリアの協力もあったが神獣アヤミを制しエトラを退けた事でエルクリッド達は準備を終え、明朝ルナールへ挑む事となった。

 それを聞いて来たというバエルは目元を仮面で隠すものの、ルナールはその奥底の感情を細目で見抜き扇子を閉じながらなるほどなと言って背を向け腕を組む。


「万が一ワシが脱走しようものならお主が捕らえる、ということか。デミトリアの奴も自由にさせたいのか不自由にさせたいのかよーわからんな」


 ため息混じりにルナールがそう口にすると、次の瞬間にバエルが素早くカードを引き抜きルナールも九つに分けて留める髪で背中のカード入れからカードを抜いていた。

 互角の速さとわかるとバエルからカードを収めて臨戦態勢を解き、流石だなと称賛しつつルナールもカードを戻し月を見上げる。


「お主のようなリスナーがいるのならば、ワシのような者が今後現れても問題はないということか。もっとも、人とワシとでは寿命が違いすぎるがな」


「だからこそ次の世代を担う者達に繋いでいく……デミトリア様はそう仰っていた。今なら俺もその意味を素直に受け入れられる、それは、大罪人とて同じはず」


「さて、な。ワシは国盗り物語の大罪人だからのう、スキあらば再び国を、この世界を我が物とするやもわからんぞ?」


 からかうように不敵な笑みを振り返りながら見せるルナールであるが、バエルは特に反応を示さず腕を組むのみ。

 もしもの時は止めるという事を示したと思ってルナールはふっと笑うと舞台の中心へ進み、扇子を広げひと呼吸置くと再び舞う。月光を浴びて優雅に、繊細に、それでいて大胆かつ宙返り等を交えながら動きを加えていく。


 その姿は美しくかつての国盗り物語をバエルは思い出す。人に化けた妖狐ルナールが言葉巧みに人心掌握をしながら地位を築き、邪魔物を葬りつつ風の国を我が物とする一歩手前まで来た事を。

 よく聞かされた話に出てくる人物が実在するのは驚きがあったが、その国盗りを阻止した英雄が若き日のデミトリアとメビウスの二人であり、その活躍やルナール自身の何かを信じ処刑ではなく幽閉へ留めたのだと。


(繋ぐもの、か……)


 他の五曜のリスナー達を失って自分だけが生き残ったのは強さ故か、そうでないのかはバエル自身もわからない。運命、そんな言葉で片付けたくないのだけは間違いなく、デミトリアや好敵手クロスの使った繋ぐという言葉の意味は、エルクリッドという新たな時代に生きる者を通してようやく理解したのは確かだった。


 今再び妖狐が戦う、かつての舞台で新たな世代に繋ぐ為に。歴史に名を刻む妖狐は華麗に舞い踊る。


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