第42話 香崎さんとデート 2


「ドリンクはお一人様2杯、それ以降はグラス交換制になります」


 大繁盛のカフェの中、テーブル席に案内された俺たちは臨戦体制である。香崎さんの欲しいノベルティはコースターと缶バッチである。一つのドリンクを頼む度にコースターがランダムで、缶バッチは料理一皿につき一つ。


 コラボカフェと言っても大衆向けゲームのコラボなので、客層は結構色々。ヲタクっぽいお兄さんたちもいればファミリー、カップル、ゲーム好きな女性なのかソロ戦士もちらほら。

 俺と香崎さんはどんなふうに見えているんだろう? おしゃれで可愛い女の子とパッとしない男子。異質である。



「可愛い〜、みてみてこれあのモンスターの幼体なんだけど可愛すぎる〜」


 香崎さんは、人工的な緑色のドリンクを飲みながら袋に入ったコースターを眺めている。その横で俺は缶バッチを開封。勇ましい恐竜の缶バッチ、欲しいとは思っていなかったが実際に手にしてみると結構いい感じ。


「おぉ、これ今作のラスボス」

「当たりじゃん? そうだ日向君、チャーハン食べる? 取り分けるよ」

「ありがとう、じゃあ俺の方のチキンスティックも何本かどうぞ」

「ありがと〜。これ作品内で主人公が食べられる料理をオマージュしてるからテンションあがるかも」


 香崎さんがチャーハンを取り分けてくれて、俺もチキンスティックを彼女の皿に何本かうつした。結構これが美味しいもので、パクパクと食べられてしまう。マンガ肉風に作られたカルビやチーズたっぷりのシーザーサラダも2人で協力して完食。


「あっ、香崎さん。これコースターどうぞ」

「いいの?」

「うん、俺はこの缶バッチで満足っすわ」

「ありがとう、助かる……。私さ、大好きなんだよね。コレクションするの。トレカもそうなんだけどこう番号が全部揃ってるのみると……こ、こ、興奮するというか」


 なんという特殊性癖!

 けど、男子ヲタクの中にも推しを集めることよりもその作品自体を推していてグッズをコレクションしている人は少なくない。ランダム要素のあるグッズをコレクションというのはだいぶ金がかかるがそれもまたヲタクというものなのだ。


「そうなんだ。香崎さんって結構がっつりヲタクなんだね」

「うふふ。変?」

「いいや、変じゃないけどあんまり見えないなって思って」


 見た目は清楚系アイドル、中身は俺よりもディープなヲタク。かなりのギャップだ。


「私の場合は、推しにみられても恥ずかしくない見た目にしようって思ってるからかな。まぁ推しは画面から出てこないんだけどね? でも、もしかしたらモニターの奥から見てるかも? 実際に缶バッチだって見つめてると目が合うでしょ?」

「それは、そう。俺もミーちゃんと向き合ってる時実際に見られていると思っている」

「日向君もかっこいい方じゃん? だからヲタクっていうとびっくりされない?」


 そう言って香崎さんはチキンスティックに齧り付いた。人に「かっこいい」なんて言われたのが初めての俺は何も言い返せず「そのチキンちょっと辛くない?」と変な返しをしてしまう。


 俺が「かっこいい方?」

 まさか。


「お客さま、ラストオーダーになります」


 いいところで店員さんがきてくれて、俺と香崎さんは最後の追い込みでデザートを頼んだ。俺はプリン、彼女はケーキ。正直、腹はいっぱいである。


「安心して、うちのお母さんの奢りだから」

「悪いよ、俺も出す」

「いいの。これは私のせいでお父さんに怒られちゃったお詫びでもあるし……それに、これからも日向君には仲良くしてほしいなって思ってるからお近づきの印。って私が誘ったのに恩着せがましいね」

「そんなことないけど、ありがとう」


 デザートが運ばれてきて、俺の香崎さんは気合を入れ直し向き合った。



 

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