第40話 こんなのはじめてですっ……♡

 ベッドに腰を下ろし、トルテを背中からそっと抱き寄せた。

 それだけで、犬耳の獣人娘はびくりと小さく身を震わせる。

 壊れ物でも包むように、ゆっくりと腕に力を込めて語りかけた。


「痛くない?」

「は、はい……」


 トルテが震える声で答える。

 その肩は細かく震え、熱い息が絶え間なく漏れていた。かなりつらそうだ。


 彼女にとっては初めての――しかも正体の分からない感覚。不安にならないはずがない。


「ご主人様ぁ……トルテ、変なんです……。おムネがドキドキして、体のぜんぶが熱くてぇ……トルテ、病気になっちゃったんですか?」

「……大丈夫。病気じゃないよ」


 自分の体の変調に、ひどくおびえている。

 ここまで来たら、もう包み隠さず話したほうがいい。


「ミルフィさんから聞いたと思うけど、君は“発情の呪い”にかかってるんだ」

「はつじょう……。トルテ、それ、よくわからないです」

「今みたいに体が熱くなって、落ち着かなくなることだよ」

「そ、そうなんですか……? これ、悪いことですか? トルテ、悪い子になっちゃったんですか?」

「トルテは何も悪くないよ。全部、呪いのせいだ。これから君の呪いを解いていくから――少しびっくりするかもしれないけど、僕を信じてほしい」


 できるかぎり穏やかな声で言い聞かせる。


 トルテは不安そうに眉をひそめながらも、「はい……」と小さくうなずいてくれた。


(まずは、彼女の緊張をほぐしてあげないと――)


 僕はエプロン越しに、そっと彼女の背をさすった。


「ふぁ……」


 トルテの力が少しだけ抜け、荒かった息が熱を帯びる。


 首筋には、じっとりと汗がにじんでいた。

 熱がこもっているのも、つらさの一因かもしれない。


「トルテ。服、少しゆるめてもいいかな」

「ふえっ……。は、はい……。トルテも暑かったので……」


 ゆっくりとエプロンの肩紐を外す。

 黒地のブラウスがあらわになり、前を留めているボタンに指をかけた。


 一番上から、ひとつずつ外していく。

 トルテはそれを止めることなく、潤んだ瞳で僕の手元を見つめていた。


 胸のあたりのボタンを外した、その瞬間だった。


 ばるんっ!


「えっ?!」


 窮屈な布地から解き放たれた柔らかな膨らみが、弾むようにしてその存在を主張した。


(な、なんだこれ……っ!)


 トルテのあどけない顔立ちからは想像もつかない、豊かな曲線美。


 さすがにミルフィさんのような規格外のサイズには及ばないが、それでもなお、目を奪われるほど成熟した果実が、今、目の前にあった。


 思わず見入ってしまった僕に、トルテがおずおずと振り向く。


「ど、どうしたんですか、ご主人様……?」

「あ、い、いや……その……。思ったより、おっきいなって。胸」


 トルテは自分の胸元を見下ろし、ぽーっとした顔でつぶやいた。


「前は、エルお姉ちゃんと同じくらいだったんですけど、最近すごく大きくなってきたんです。この服を買ってもらったのは、大きくなる前だから、おムネがきゅうきゅうで……」

「そ、そうなんだ……」


 たしかに、メイド服を着ているときは、ここまでのサイズには見えなかった。


 無理やり押し込んでいたせいで、余計に苦しかったのだろう。

 これでは息苦しいに決まっている。


 トルテは胸元を隠すように両手を添えながら、おずおずと尋ねてきた。


「おっきいの、変、ですか……?」

「ぜんぜん変なんかじゃないよ。その……すごく、素敵だと思う」


 精一杯、真面目な声で答える。


 トルテは「えへへ……」と、少しだけ安心したように笑った。


「あの……それなら、なでなでして、もらえませんか……?」

「へっ?」

「そうしたら……楽になる気がするんです」


 一瞬、言葉に詰まった。


 彼女のほうからそんなふうに言ってくるなんて、思いもしなかったからだ。


 もしかすると、どうすれば熱が収まるのか、本能的に求めているのかもしれない。


「う、うん。わかった。それじゃ……触るね」


 僕はそっと彼女の胸元へ両手を伸ばした。


「んっ……」


 触れた瞬間、信じられないほどの温もりと柔らかさが手のひらに広がる。

 少し力を込めるだけで指が沈み込む弾力。

 伝わってくる心臓のトクトクという速い鼓動に、思わず息を呑む。


(なんだ、これ……すごい……)

 ただゆっくりさすっているだけなのに、僕のほうまで指先が痺れるような感覚に包まれていく。


「ぁ……んっ、くぅ……」


 僕が優しく揉みほぐす手の動きに合わせて、彼女の喉から、甘く、そして苦しそうな吐息が漏れる。


 素肌を撫でるたびに、トルテの背筋は震え、小さな声が上がった。


「ひぅっ! あ、あっ……な、なんですか、これ……おムネがじんじんして、頭がぽわぽわしてぇ……こんなのはじめてですっ……」

「大丈夫。呪いの熱を散らしてるだけだから」

「ねつ……? これ、なおってるん、です、か?」

「そうだよ。ほら、力抜いて」

「は、はいぃ……」


 指の腹で全体を包み込むようにマッサージすると、トルテは首を反らし、僕の胸に頭を預けてきた。


「ふぁぁ……ご主人様の手、熱いですぅ……」

「ごめん。でも、苦しいのはなくなってきたでしょ?」

「そ、そうですけどぉっ……でも、なんか、ちがう苦しさが……」


 潤んだ瞳でこちらを振り返る、犬耳の少女。


 ぞくり、と背筋が震えた。


 自分の与える安らぎと刺激に、彼女が身を委ねている。


 目の前の女の子に、生まれて初めての“何か”を教えているのは、自分だ。


 そう思うと、胸の奥が熱くなるのを抑えきれない。


「……じゃあ、もう少し続けるよ」


 両手でトルテの双丘を支え、熱を取り除くように、丁寧に愛でていく。


「ひゃうっ! そ、そこっ、くすぐったいですぅっ! ご主人様ぁっ!」

「イヤなら逃げてもいいんだよ?」

「い、いやじゃ、ないですっ……あうっ……もっとぉ……」


 甘い声を上げながら、トルテは逃げるどころか、僕の腕にしがみついてきた。


 ”ご主人様”に触れられることを、彼女自身も受け入れているのだ。


 彼女の吐息を聞きながら、僕はその柔らかな感触を確かめ続けた。


「んんん~っ!! ふあぁっ!!」


 トルテは、びくん! とひときわ大きく全身を震わせ、体の力を抜いた。

 まるで安心しきったかのように、ぐったりと僕に寄りかかる。


「……はぁ、はぁ、はぁ……」





――――――――――

2025/12/16

ガイドラインに沿って表現を見直しました。

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