第3章 犬耳っ子・トルテ編
第31話 一回だけなんてやだぁっ♡
エクレールの“治療”が本格化して、数日がたったある日のこと。
僕はミルフィさんの家にお邪魔していた。
「遠征、ですか? ミルフィさんが?」
「ええ。王都のギルドからの依頼でね」
なんでも近々、王都近郊で大規模な魔物討伐があるらしく、国内の精鋭たちが総動員されるらしい。
「ふぇ~。そんなすごい依頼に呼ばれるなんて、さすがミルフィさんですね」
「ふふん、でしょ、でしょ? さっすがアタシのミル姉!」
ふんす、と鼻息も荒く平らな胸を張るのは、同じテーブルについた猫耳少女・エクレール。
彼女も今日はお茶をしにやって来ていた。
「なんでエクレールが自慢げなの……?」
「だって、うちの村のヒーローだもん! 王都のヤツらなんかに負けちゃダメよ、ミル姉!」
「ふふっ、そうね。頑張るわ」
ミルフィさんは紅茶を口にしながら、どこか照れくさそうに笑った。
「それで、遠征の期間はどのくらいなんですか?」
「明後日に出発して、戻るまでは一か月ほどね。しばらく留守にしてしまうけど、その間、エクレールのことをお願いね、テオ君」
「ちょっとミル姉。なんでアタシがテオに面倒見られる前提なのよ?」
「だってあなた、ほとんど料理できないじゃない。テオ君に作ってもらえば?」
「ミ、ミル姉に料理のことは言われたくないわよっ!」
あーだこーだと口を尖らせて言い合う二人。
こうしていると本当に仲の良い姉妹みたいで、見ているだけで微笑ましい。
「そういえば、ミルフィさん。前から聞こうと思ってたんですけど」
「なぁに?」
「呪いにかかったミルフィさんの仲間の人って、まだいるんですよね?」
ミルフィさんの治療が終わったとき、彼女は言っていた。
“一緒に呪いにかかった仲間の子たち”――と。
つまり、エクレールのほかにも、発情の呪いを受けた人がいるということだ。
僕の問いに、ミルフィさんとエクレールの表情がわずかに硬くなる。
(あれ……まずいこと聞いちゃったかな)
少しの沈黙のあと、ミルフィさんは静かに口を開いた。
「ええ、いるわ。あと一人ね」
「その人は、いまどこに?」
「ごめんね。今は伏せさせてもらうわ」
「え? でも、呪いを受けてからかなり日がたってますよね? すぐに解呪しないと危ないんじゃ……」
「大丈夫。呪いの進行は止められているから」
「止められてる……?」
一体どうやって?
そもそもそれが可能なら、どうしてミルフィさん自身に使わないんだ?
僕が困惑しているのを察したのか、ミルフィさんは静かに立ち上がり、そっと僕の肩へ手を置いた。
「心配してくれてありがとう。でも、今はエクレールの治療に専念してもらえると助かるわ。――ね、エクレール?」
ふいに向けられた思わせぶりな視線に、エクレールはぴくりと眉を跳ねさせ、唇を尖らせる。
「そ、それはそうなんだけど……ミル姉、なんか今の言い方、含みありすぎじゃない?」
「だって、あなたもそのほうが嬉しいでしょ?」
「べ、別に嬉しいわけじゃ……ただテオがどうしてもしたいって言うから……」
「ええ? 僕、そんなこと言ったっけ?」
「い、言ったの! 言ったってことにしなさいよ!」
エクレールは顔中を真っ赤にしてそう言い張った。
理不尽すぎない……?
「と、とにかくっ!! あんたとのえっちはあくまでただの治療なんだから! するにしても、一日一回が限度なんだからねっ!」
「は、はぁ……」
しらけた気分で返事を返す僕に、彼女はビシリと指をさした。
「あんたがどんなにしたいって言ってもダメ! フリじゃないわよ!? 本気で言ってるからね!? それ以上はどんなに泣いても、頼んでも絶対ダメ! ぜったい、絶対、ぜ~~~~ったいに一回でおしまいなんだからっ!! 分かったっ?!」
※※※
「やだやだやだやだぁっ♡ 一回だけなんてやだぁっ♡ もっとしてよぉっ、テオぉ♡」
一回目の“治療”を終えた途端、エクレールはベッドに腰かける僕の肩に抱きつき、涙目でねだってきた。
僕は盛大なため息をついた。
「……あのね、エクレール。一回だけって言ったの、君のほうでしょ?」
「あんなのウソぉっ♡ 恥ずかしくて強がっちゃっただけなのぉ♡ ごめんなさいっ、謝るから許してぇっ♡」
そう言って甘える彼女の顔は、昼間とはまるで別人だ。
キツく釣り上がっていた目はうるうると濡れて、捨て猫のよう。
ビシリと僕を指差した手は、今、必死に僕の体を抱きしめている。
(こうなることは分かってたんだよなぁ……)
彼女との本格的な治療を始めてから数日。
毎日お決まりのように『一日一回だけなんだからね!』なんて言い張るもんだから、こっちはそのたびに律儀に頷いていたんだけど、いざ治療が始まって発情モードになると――
「これじゃ全然足りないのぉっ♡ ねぇお願い、テオの熱いの、もっとちょうだい♡ いっぱいいっぱい、い〜〜っぱい注いでほしいのぉっ♡」
……こんなふうに、目にハートを浮かべてベタベタに甘えてくる。
これは発情の勢いで口にしているだけで、彼女の本心じゃない。
それは分かってるつもりだけど、これじゃ頭がついていかないよ……
僕が渋い顔をしていると、
「ねぇ、テオ……怒った?」
エクレールは、しおらしく涙をためてこちらをうかがってきた。
(あぁ、もう。これ、毎回のパターンなんだよな……)
分かってる。
分かっているのに、断れない。
だって、こんな美少女にうるうる目で懇願されて、イヤと言える男、いる?
可愛すぎるもん、これ……
言葉より先に、カラダが反応していた。
エクレールは僕の下半身に目を向け、ぱっと表情を明るくする。
「……あはっ♡ テオ、その気になってくれたんだ♡ 嬉しい♡」
「いや、これはね……ちが――」
「テオ、好き♡ 大好き♡」
「うあっ、ちょ……!」
飛びつきざま、口づけとともにベッドに押し倒された。
「ワガママでごめんなさいっ♡ 好きだからぁ♡ 好きだから欲しくなっちゃうのおっ♡」
甘い声に流されて、また心と体がじんじん熱くなる。
勝てるわけないって……。
「ああもうっ! そんなに言うなら、気の済むまでしてあげるよ!」
ほとんどヤケクソ気味に体を反転させて彼女を組み敷く。
「あんっ♡ 嬉しい♡ テオぉ、好き好き好きいっ♡」
エクレールは歓喜の声を上げた。
(今日は何回で終わるんだろう……)
頭の片隅でそんなふうに考えながら、僕はベッドに体を沈めていった。
――――――――――――――
第3章開始です!
新たな獣耳娘の登場は次回にて!
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作者のやる気ゲージが一気に跳ね上がり、次のえっちな展開により気合いが入る……かもしれません♫
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