第3話 発情の呪い、なの
広場の隅に腰を下ろした瞬間、どっと疲れが押し寄せてきた。
……分かってた。
解呪なんて、役立たずのスキルだってことくらい。
本当はこんなの、欲しくなかった。
子供のころから憧れていたのは、攻撃系のスキルだった。
剣でも魔法でもいい。パーティの先頭に立って、ド派手に敵をやっつける戦闘の花形。
でも、14歳のスキル付与の儀式で授かったのは、地味で、目立たなくて、頼りにもされない力だった。
それでも、神様から与えられた才能だと思って磨いてきたんだ。
教会の薬じゃ治せない呪いだって、僕なら解けるようになった。
出番は少なくても、パーティーの役に立っている――そう信じてた。
なのに、あんな一言で全部切り捨てられた。
情けない。
仲間への恨みよりも、自分への情けなさで胸がいっぱいになる。
(……これから、どうしよう)
分け前は少なかったから、貯金なんてほとんどない。
新しい所属先を探さなきゃ生きていけないけど……解呪師を欲しがるパーティーなんて、どれくらいある?
とぼとぼと歩き出す。帰ろう。頭を冷やそう。
そう思ったとき――
「……あの」
背後から声をかけられた。
「はい?」
振り向くと、通りの端にフードを深くかぶった人物が立っていた。
「キミ、テオ君だよね? 『雄大なる翼』の解呪師の」
「……そうですけど」
全身を覆う長衣、目元すら見えないフード。
正体は分からないけど、声の感じからして女性っぽい。
ちなみに『雄大なる翼』というのは、さっき僕が追い出されたパーティーの名前だ。
沈黙が続き、思わず僕から声をかける。
「あの……なにか――」
「こっちに来て!」
「えっ、ちょ、わっ!?」
言い終わるより早く、手をぎゅっと掴まれた。
そのまま裏通りへと小走りで引きずられていく。
「ちょ、ちょっと!? どこに連れてくんですか!?」
返事もないまま、角をいくつも曲がり、人通りのない路地裏に着いた。
「……な、なんなんですか。一体。お金なら持ってませんよ? パーティーから追放されたばかりで――」
「知ってる」
短いけれど、はっきりとした声。
「だから、声をかけたの」
「えっ?」
きょとんとする僕の前で、フードの人物が覆いを外した。
「……!」
ふわりと金色の髪がこぼれる。
腰まで届く髪が光を受けてきらきら揺れた。
垂れ気味の真紅の瞳に、目元の泣きぼくろ。
そして頭の上には、狐の獣人である証の、ふわふわの三角耳。
その人はふぅ、と小さく息をつき、
「急に連れ去るみたいなことしてごめんね。私の名前は――」
「ミ、ミ、ミルフィさん!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
狐耳の女性はぱちくりと目を瞬かせる。
「え。私のこと、知ってるの?」
「当たり前です! この街の冒険者で、あなたを知らない人なんていませんよ!」
ミルフィさんは、僕らの街のギルドでぶっちぎりのトップランカーだ。
華麗な剣技と炎の魔法を使いこなす魔法剣士で、クリアしたダンジョンは数知れず。
伝説の黒炎竜バルガノスをたった一人で仕留めたときは、街をあげて祝祭が開かれた。
僕はギルド本部で何度か見かけただけだけど、その立ち姿と放たれるオーラは、遠目でも圧倒されるものがあった。
強さも実績も、容姿さえも、すべてが僕とは比べものにならない、まさに雲の上の人。
その本人が、今、目の前にいるなんて。
「えっ、でも、なんでミルフィさんが僕なんかに……?」
慌てる僕に、ミルフィさんは一度躊躇するように、小さく息を吸った。
そして、
「キミに、呪いを解いてほしいの」
「へっ? 呪い? 何のですか?」
聞き返した僕を見て、ミルフィさんは黙り込む。
頬は赤く染まり、呼吸も速くなっている。
「ミルフィさん……?」
額にはうっすらと汗。
胸元が上下し、そこからふわりと甘く艶っぽい香りが漂ってくる。
「は、はつじょう……」
「え?」
「……発情の呪い、なの」
恥ずかしそうに囁かれたその一言に、僕の心臓はドクンと跳ねた。
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