異世界転生おじさんは 最強とハーレムを極める
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第一話「定年間際の転生、女神の気まぐれチート」
第一話「定年間際の転生、女神の気まぐれチート」
佐藤健一、50歳。
彼の人生は、まるで薄味のインスタントラーメンのようなものだった。
それなりに熱湯を注ぎ、それなりに待てば、それなりに食べられる。
しかし、決して忘れられないほど美味いわけでもなく、また、食い終わった後に多幸感に浸れるわけでもない。
ただ、腹は満たされる。
そんな、良くも悪くも凡庸なサラリーマン人生だった。
朝、目覚まし時計がけたたましく鳴る午前6時。
健一は反射的に手を伸ばし、それを止める。
長年染み付いた習慣が、まるで自動人形のように彼を動かす。
「ふぅ……また、一日が始まるか」 カーテンを開けば、そこにはいつもと同じ灰色の空。
そして、建設中の高層ビル群が吐き出す埃混じりの朝の匂い。
何の変哲もない東京の風景だ。
トーストを一枚焼き、コーヒーをブラックで流し込む。
新聞を広げ、経済欄と社会欄にざっと目を通す。
これも長年のルーティン。
健康診断の結果は毎年「異常なし」だが、確実に体のあちこちにはガタがきていることを、彼は自覚していた。
特に最近は、階段を上るだけで膝が軋むような感覚がある。
「定年まで、あと半年か……」 小さく呟く。
老後の計画はそれなりに立ててきた。
趣味だった釣りや、たまに触る程度の家庭菜園。
そして、たまには旅行でも。
しかし、本当にそれで、この残りの人生を「楽しい」と感じられるのか、健一には確信が持てずにいた。
結婚はせず、子供もいない。
一人きりの老後。
それはそれで気楽ではあるが、漠然とした寂しさが付き纏うことも事実だった。
駅までの道のりを歩く。
今日も変わらない満員電車に揺られ、定時出社。
デスクワークの山を片付け、夜は同僚との付き合いで居酒屋へ。
そして終電で帰宅。
この繰り返し。
この閉塞感が、健一の人生の全てだった。
その日もまた、いつもと寸分違わぬ一日だったはずだった。
仕事も終わり、馴染みの居酒屋で一杯ひっかけた帰り道。
いつもの横断歩道を渡ろうと、信号が青に変わるのを待っていた。
ピカピカと点滅する青信号。
健一はいつものように、足を踏み出そうとした。
その時だった。
「危ないっ!」 背後から、女性の叫び声が聞こえた。
しかし、健一が振り向くよりも早く、視界の端で強烈なヘッドライトの光が炸裂する。
ブォォォンッ!という、耳を劈くようなエンジンの轟音。
──あぁ、これは。
健一の脳裏に浮かんだのは、よくニュースで見るような光景。
居眠り運転のトラックか、はたまた飲酒運転か。
どちらにせよ、自分は巻き込まれたのだと、どこか冷静に理解した。
体が宙を舞うような感覚。
そして、激しい衝撃。
視界が暗転し、健一の意識はそこで途絶えた。
「――っは!?」 健一は、唐突に目を開けた。
そこは、どこまでも続く真っ白な空間だった。
病院の天井でも、アスファルトの上でもない。
一切の装飾がなく、無限に広がるかのような純粋な白。
「え……俺、死んだはずだよな?」 起き上がろうとして、健一は自分の体に違和感を覚えた。
なぜか、体が軽い。
膝の軋みも、肩の凝りも、腰の重さも、一切感じない。
まるで、20代の頃に戻ったかのような感覚だった。
恐る恐る自分の手を見る。
皺が減り、肌につやがある。
そして、指先には筋肉の張りを感じる。
「え、何これ、若返ってる……?」 混乱する健一の目の前に、突如として光の粒子が集まり始めた。
きらきらと輝く光が収束していくと、そこに現れたのは、息を呑むほど美しい女性だった。
白銀の長い髪が背中に流れ落ち、透き通るような肌。
深碧色の瞳は、まるで宇宙を宿しているかのように神秘的だ。
白いドレスに身を包んだ彼女は、人間離れした幻想的な美しさを湛えていた。
「ようこそ、佐藤健一様。
いえ、これからはあなたの新しい名前が必要かもしれませんね」 女性は優雅な笑みを浮かべ、健一に語りかけた。
その声は、まるで鈴が鳴るように澄み渡り、心地よい響きがあった。
「あ、あなた様は……?」 健一は、直感的に彼女が常人ではないことを理解した。
「わたくしは、あなたをこの世界へと導いた女神、リナリアと申します」 女神、リナリア。
やはり。
「……俺は、死んだんですよね?」 健一の問いに、リナリアは少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「ええ、その通りです。
大変申し訳ありません。
本来、あなたが命を終えるのは、あと20年は先のことでした。
ですが、私の不手際により、あなたの魂を運ぶ途中、誤ってトラックの前に転がしてしまったのです」 「は……?あんたの不手際!?」 健一は、思わず声を荒げた。
自分の人生を、よりにもよって女神の「不手際」で終わらされたと聞かされて、平静でいられるはずがない。
定年間際で人生終わったと思ったら、女神のミス!冗談じゃない。
「はい、誠に申し訳ございません……。
そこで、わたくしなりの謝罪として、あなた様を新たな世界へと転生させていただこうと思いまして」 リナリアは深々と頭を下げた。
いや、女神に土下座されても、困る。
「転生、ですか……」 健一は呆れつつも、その言葉に少しだけ興味を惹かれた。
失われた人生の代替案。
それは、確かに魅力的かもしれない。
「はい。
そこは、剣と魔法が息づく、あなた様にとっては全く新しい世界です。
そして、お詫びの印として、いくつか特典を差し上げたいのですが、いかがでしょうか?」 「特典……?」 「そうです。
チート能力、とでも申しましょうか。
あなた様が新しい世界で、より充実した人生を送れるよう、特別に強力な力を付与させていただきます」 チート能力。
まるでライトノベルの世界だ。
健一は、まさか自分がそんな物語の主人公になるとは、夢にも思わなかった。
「どんな能力があるんですか?」 「そうですね……。
あなた様は、前世では努力を重ね、地道にスキルを磨くことを得意とされていたとお見受けいたします。
でしたら、その特性を最大限に活かせる能力はいかがでしょうか?」 リナリアが指をパチンと鳴らすと、健一の目の前に光の文字が幾つも浮かび上がった。
【身体能力強化】、【魔法適性付与】、【言語理解】、【生産スキル特化】…… その中に、ひときわ大きく輝く文字があった。
【無限成長(アンリミテッド・グロース)】 「これは……?」 「その能力は、あなた様が経験するあらゆる事柄から、桁違いの速度で経験値を得て、スキルを習得し、成長することを可能にします。
どのような魔法も、どのような武術も、一度見ればその原理を理解し、短時間で極めることが可能となるでしょう。
まさしく、成長の天井を持たない能力です」 無限成長。
健一は、その言葉に胸が高鳴るのを感じた。
地道な努力しか取り柄のなかった凡庸な自分が、無限に成長できる力。
それは、彼が前世で最も求めていたものかもしれない。
「その、【無限成長】をお願いします」 健一は迷うことなく答えた。
「承知いたしました。
では、最後に一つ、あなた様のご希望の姿はございますか?今のままの佐藤健一として転生することも可能ですが、少しばかり若返ることもできますよ?」 リナリアの問いに、健一は少し考えた。
50歳は、やはりちょっと……。
しかし、あまりにも若すぎると、前世の経験が活かせないかもしれない。
「そうですね……見た目は、30代後半くらいで。
でも、これまでの経験は残しておいてください」 「はい、かしこまりました。
では、あなたの新しい旅立ちを祝福いたします」 リナリアが優しく微笑み、健一の全身を再び光が包み込んだ。
温かく、そして心地よい浮遊感。
「どうか、新しい世界で、あなた様の人生を謳歌してください……!」 その声が、健一の意識の遠くへと消えていく。
次に目覚めた時、健一は硬い土の上に横たわっていた。
草の匂い。
土の匂い。
そして、小鳥のさえずり。
起き上がると、そこは見慣れない森の中だった。
木々は高くそびえ、光が木々の間から差し込んでいる。
空気は澄み渡り、ひどく新鮮だ。
(ここが、異世界か……) 自分の体に目をやる。
先ほど女神と話した通り、見た目は30代後半くらいになっている。
筋骨隆々というわけではないが、引き締まっていて、動きやすそうだ。
(よし。
まずは、状況把握だな。
そして……) その時だった。
ガサガサ、と茂みの中から不穏な音が聞こえた。
「グルルル……」 低い唸り声。
茂みから現れたのは、剣を持った人間のような姿だが、肌は緑色で、凶悪な顔をした生き物だった。
「ゴブリン……か」 健一は、ゲームやファンタジー小説で見たことがあるそれを認識した。
ゴブリンは健一を獲物と見定めたのか、奇声を上げて襲いかかってくる。
手元には、女神がくれたのか、見慣れない剣が一本握られていた。
健一は、無意識のうちに剣を構えた。
その瞬間、まるで長年剣術を鍛え抜いたかのような感覚が、全身を駆け巡った。
──これだ。
無限成長の力か……! ゴブリンが振り下ろした剣を、健一は最小限の動きで躱す。
そして、流れるような動作で剣を払い、ゴブリンの脇腹に深々と突き立てた。
「ギギャアァァァッ!」 ゴブリンは血飛沫を上げて倒れ伏し、やがて光の粒子となって消滅した。
ピコン! 健一の頭の中に、システムメッセージのようなものが響く。
【スキル『片手剣術』がレベルアップしました!】 【スキル『回避』を習得しました!】 【経験値を獲得しました!】 これだ。
これが、俺の新しい人生の始まりだ。
健一の顔に、前世では見せることのなかった、野心に満ちた笑みが浮かんだ。
「さて、まずはこの森を抜けて、街を探すか。
その前に……」 健一は倒れたゴブリンが消えた場所をじっと見つめる。
すると、その場にわずかに光る小石が残されていた。
「ん?これは……魔石、とかいうやつか?」 その時、さらに奥の森から、女性の悲鳴が聞こえてきた。
「きゃああああああっ!」 ――ん?これはもしや、王道展開ってやつか? 健一は、にやりと口角を上げた。
定年間際でくたびれた人生は終わった。
これからは、おじさんのセカンドライフ、異世界で最強とハーレムを謳歌してやる!
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