オリオン座

 窓を開けた瞬間、死ぬには完璧なときだと思った。


 街明かりが夜をほのかに照らして、それはまるで蛍のようで。遠くに見える人の営みが、それはまるで地続きの今日みたいで。僕を祝福してくれているような。


 それらに誘われるように、ベランダへ足を踏み入れた。コンクリートの素材はひんやりと、足の裏から体温をさらう。マンションから山間へ、淡い雲が流れていく様に視線を取られて、自然と砂時計のかたちを捉える。


 オリオン座。


 鉄錆の手すりに指を食い込ませるのは、何回目だろう。


 身を乗り出したくて仕方がなかった。恐怖も悲しみも一切感じられないのに、「大事な人」という存在が、僕の首を絞めて離さない。


 踵を返すという選択肢しかないのは、生きるということらしい。




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