はじまりの茜空

島本 葉

第1話 side蒼佑(そうすけ)

 茜色に染まる空の下で、白いワンピースが風に揺れる。夕日を背にした高瀬さんの髪は、柔らかな光を透かしてきらめいていた。


 学校の帰り、いつもの分かれ道に差し掛かると僕たちはどちらからともなく足を止めた。


 もう少し……一緒にいたいな。そう願うのに、口から出てくるのは当たり障りのない学校での出来事ばかり。時間に急かされながら、僕たちはどちらからも「バイバイ」とは言い出せずにいた。


 その時、高瀬さんが急に両手を上に上げて背伸びをした。


「な、なにしてるの?」


 ぐいっと手を伸ばして、何かを掴むような仕草をする。その不思議な行動から僕は目が離せない。


「なんでもなーい」


 ふわりと笑う高瀬さんの声が、夕暮れの空に溶けていく。


「なんだそりゃ」


 ちょっとぶっきらぼうに聞こえたかな。でも、高瀬さんは「ふふっ」と楽しそうに笑った。その頬が、夕日の色に染まっていた。


 ──キミは何を掴もうとしたんだろう。



(続く)

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