もふもふ獣人の嫁力が高い〜乙女ゲームの世界に迷い込んでしまったので、外野は引っ込んで推しとスローライフでも始めます〜
藤くま
プロローグ
乙女ゲームというものを学生時代は何作品もプレイした。
世界観はそれぞれ違い、攻略キャラはどの人物もやはり魅力的であった。
選択肢で好感度が上がり下がりするのにも一喜一憂したし、なんならノートに書き記して攻略本(笑)なるものを作成してみたり、キュンとするセリフにノックアウトされてみたり、まぁかなり有意義な時間を過ごした事は記憶に新しい。
しかしながら、社会人になればその頻度はガクッと落ちる。残念ながら学生時代よりも圧倒的に時間が足りないのだ。
昼下がりのカフェテラスで、彼女と彼女の友人は向い合せで席に着き、話に花を咲かせていた。
汗のかいたグラスに入るアイス珈琲の氷がカランと音を立てる。
今日はいつもよりも少し日差しが強い。柔らかな日差しの季節はきっとそろそろ終わるのだろう。
「最近元気ないじゃない??きっと
「“もも”じゃなくて、“とう”こですよ。キュンが足りないとは??」
学生時代からのからないあだ名にツッコミを入れつつ、桃子はアイス珈琲に刺さるストローをくるりと一回転させた。
学生時代からの友人とはもう長い付き合いで、互いにアニメや漫画などの趣味があった。そしてなにより2人とも乙女ゲームが大好きで、ゲームの貸し借りをしてはあのキャラのビジュが良いやら、このストーリーは泣けただの大騒ぎしていたものだ。
「やりたいけど、仕事もあるし時間がなぁ」
「馬鹿言うんじゃないわよッ!!時間がないんじゃなくて作るのよ!!時間わねッ!!仕事一本は悪いことではないけど、ガス抜きは必要よ。仕事ばっかりだとつまらない人生になっちゃうわ!!そもそも仕事はお金を稼ぐ行為であってゴール地点じゃないでしょッ!!何かをしたいからお金を稼ぐんでしょうがッ!!」
あぁ、確かにそうかと桃子は目から鱗な気分になっていた。仕事仕事と最近は仕事しかしていなかった。
でも会社に入る前には、お金を貯めてオタ活を充実させるぞ!!と息巻いていた。
大切なことを忘れていたなと未だに「これだから真面目ちゃんは困ってしまうわッ!!」とぷりぷり怒る彼女に自然と笑いが込み上げてきた。
「そうね貴女の言う通りだった。仕事ばっかりじゃつまらないよね」
彼女から借りたゲームのパッケージに再び視線を落とした。あの時のキラキラした世界は、今の私にも見えるだろうか。
「ちなみにこのキャラがラスボスなんよ」
「息をするようにネタバレすんな」
桃子のチョップが友人の脳天にめがけて振り下ろされた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……懐かしい夢」
あけた障子戸からそよ風が入り込んで、開けていた目を再び閉じた。畳の上にゴロンと寝転んだ桃子に身を寄せるように、すよすよと青年が眠りについている。
人間にはないふさふさの尻尾と耳を持つ青年は、寝ている姿も絵になるほどの美形だ。
たまにピルルと揺れる彼の耳の毛が首筋に触れてくすぐったくてしょうがない。桃子はその頭をゆっくりと撫でつけた。
青年の名前は
ちなみに桃子が友人から借りた乙女ゲームの名前も「乱戦日ノ本」である。
何故借りていたゲームの世界にいて、何故そのゲームのラスボス的存在と共に昼寝をしているのか。
それは桃子にもよくわからない。とりあえず言えることは
「乙女ゲームは安全圏内からやりたいよね」
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