ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る
藤宮かすみ
第1話:役立たずの烙印
「カイ、お前はもう用済みだ。このパーティから追放する」
冷たく、一切の情を含まない声が、薄暗い洞窟に響き渡った。
声の主は、まばゆい聖剣を腰に下げた勇者アレク。その瞳は、まるで道端の石ころを見るかのように、俺――カイを、見下していた。
俺の持つスキルは【生態鑑定】。
その名の通り、生物の情報を鑑定する能力だ。
しかし、俺のスキルで表示されるのは、『スライム:ぷるぷるしている魔物』『ゴブリン:棍棒を持った小鬼』といった、誰でも知っているような簡単な説明だけ。
戦闘において、何の役にも立たない。仲間たちからは、いつしか「ゴミスキル」と蔑まれるようになっていた。
つい先ほど、俺たちは高難易度のダンジョン「深淵の迷宮」の攻略に失敗したばかりだった。
強力なミノタウロスの奇襲を受け、パーティは壊滅寸前に追い込まれたのだ。
「そもそも、お前の鑑定が役に立たないのが悪いんだ! 敵の位置や弱点くらい、まともに表示させられないのか!」
アレクの怒声が飛ぶ。
そんなこと、できるはずがない。俺のスキルは、そういうものなのだから。
だが、敗走の苛立ちをぶつける格好の的として、俺が選ばれた。
「アレクの言う通りよ。あなたのせいで、私の大事な法衣が泥だらけじゃない!」
回復役の聖女リリアが、扇子で顔を隠しながら甲高い声で俺を責める。
「カイ、すまない。だが、これ以上お前をパーティに置いておくことはできない」
パーティの盾役である大柄な戦士、ゴードンまでもが、申し訳なさそうな顔をしながらもアレクに同調した。
誰も、俺をかばってはくれない。
パーティ結成からずっと旅をしてきた仲間だと思っていたのは、俺だけだったらしい。
「待ってくれ! 俺だって、頑張ってきたじゃないか! 荷物持ちも、野営の準備も、全部……!」
必死に食い下がる俺の言葉を、アレクは鼻で笑った。
「雑用なら、金で雇えばいい。俺たちに必要なのは、戦える力だ。お前にはそれがない。分かるか?」
アレクは俺が背負っていた荷物袋を奪い取ると、中から数枚の銅貨を抜き取り、地面に放り投げた。
「これは手切れ金だ。装備はパーティの共有物だから、置いていってもらう。これで文句はないな?」
俺がわずかな金で買った革鎧や、唯一の武器だったショートソードまで、彼らは取り上げるつもりらしかった。
それはあんまりだと抗議しようとした。しかし、ゴードンの巨大な手が俺の肩を掴み、動けなくさせられた。
なすすべもなく、俺は装備を剝ぎ取られ、文字通り着の身着のままでパーティから追い出された。
背後からは「せいせいした」「これで次のダンジョンはうまくいく」という仲間たちの声が聞こえてくる。
雨が降り始めていた。
冷たい滴が、ぼろ布のような服を通して体温を奪っていく。
銅貨を拾う気力も湧かず、俺はふらふらとした足取りで、王都へと続く道を歩いた。
しかし、王都に戻ったところで、俺に居場所などなかった。
勇者パーティを追放された役立たず。そんな噂はすぐに広まるだろう。誰も俺を雇ってなどくれない。
絶望が、冷たい雨と共に心に染み込んでいく。
「どこへ行けばいいんだ……」
独り言は、雨音にかき消された。
行く当てもなく、ただひたすらに歩き続ける。王都の明かりを背に、俺はいつしか人々が足を踏み入れないという、辺境の森へと向かっていた。
もう、どうなってもいい。そんな投げやりな気持ちだけが、俺の足を前へ前へと進ませていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。