第25話 【こぼれ話】 天叢雲剣 おまけ

「さて、そうした伝説が生まれた場所が、ここ船通山なわけです。まあ今となっては、何の変哲もない、普通の山ですけどね。」

「そりゃまあ、何かあったら困りますって。こっちは素戔嗚尊でもなんでもない、ただの令和男子っすから。」

「私だって、その展開はお断りですよ。でも、この山には今もこうして『天叢雲剣出顕之地』の石碑が残されていますし、麓では毎年、奉納の祭りも行われています。この山は今でも神話の舞台なんですよ。」

「へえ~……。この『天叢雲剣出顕之地』って言葉、なんかかっこいいっすね。『エクスカリバーが顕現した!』みたいな、厨二心くすぐるやつ。」

「まあ、先ほど説明したとおり、神話に従えば……『アレ』が、ここに封じられているわけですけどね。」

「『アレ』?……ああ、八岐大蛇っすか。なんでいきなり名前伏せるんすか?」

「……日本には『言霊』という考え方がありましてね。強い霊的存在の名を、封印地で直接呼ぶと、それが呼応することもあると伝えられています。」

「いやいや、さっきまで普通に連呼してたじゃないですか。いまさら神妙な顔されても……。」

「いや、急に天気が崩れてきたので、ちょっと気になりまして。予報では降水確率0%だったはずなんですが……。」

「そんな『何か近づいてきた!』みたいなオカルト展開はやめてくださいよ。さっきからずっと神話とか封印とか、濃い話が続いてて正直ビビってるんすから。」

「おっと、言ってるそばから降り始めましたね。何かあっても困りますし、そろそろ引き上げましょうか。」

「まったくもう……。ん?いま、なんか声が聞こえませんでした?」

「……いいえ?特に。まあ、気のせいでしょう。さあ、急ぎましょう。」

「はあ……。もうオカルトはお腹いっぱいっすよ……。」



『……ふむ。剣の封印は正常。だが、網をすり抜ける弱い混沌は依然存在するか。』

『……結局、あの若者たちの言うとおり、あなた様をずっとこの出雲の地に縛りつけてしまったのですね。何とお詫びすればよいのか……。』

『何を言う。こうして、お前と共にこの地でのどかに暮らせる。これ以上の幸せが、他にあるものか。』

『……ありがとうございます。』

『よし、封印を少し強めておいた。しばらくは、混沌も鳴りを潜めるだろう。さあ、帰ろう。』

『はい、あなた様。』

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