第十一話 迷子の子猫

「詳しく話を聞かせてくれ」


 ソラはさっきまでの雰囲気とは一転、獲物をその辺に置いて街の友魔ユーマ達に尋ねる。


「さっき鉱山に入ってた連中が戻ってきたんだけどな……みんなひでぇ怪我をしてたんだよ。俺らで急いで診療所に連れて行って、詳しい話はまだ聞けてねぇんだ」

「どこの診療所だ?」

「案内しようか?」

「ああ、頼む……みんな、獲物の換金は後だ」

「うん!急ごう!」


 故郷の一大事で、レミファが特に奮起。


「うう、う……」

「こりゃほんとにひでぇな……」


 5人が診療所に到着すると、中には倒れている友魔ユーマが10名弱。いずれも屈強な身体を有するが、包帯が至る所に巻かれて痛々しい姿。


「お、おう……ソラ、レミファじゃねぇか……」


 唯一意識のあった友魔ユーマがソラ達に気付く。


「おっちゃん。苦しんでるとこすまねぇけど、何があったか詳しく教えてくれるか?」

「鉱山の奥の方に、鉱石とか宝石がよく採れるでかい広間があってな……俺達は2日休みを取って今日またそこへ採掘に行ったんだが、でかい翼を生やしたドラゴンが……ぐ、うう……」

「……そのドラゴン、腕が翼になってたか?それとも背中から生えてたか?」

「う、腕だ……うぐっ……」


 そう言って、その友魔ユーマも意識を失った。


「腕がでかい翼になってるドラゴン……ワイバーンだな?」

「ああ、だと思う」


 フリーダの推測に、ソラも同意する。

 Bランク、"翼竜"ワイバーン。亜竜の中で特にポピュラーな種。飛行能力が高いが、それ以外はドラゴンの中で特に優れている部分はない。むしろ、飛行能力の確保のために平均的なドラゴンよりも体躯は小柄で軽量となっている。とは言え、ドラゴンであることに変わりはないため、強さとしてはBランク内でも上位に位置付けられている。


「でも何か変だね」

「ん?」

「この友魔ユーマ達、戦いがどれだけ得意かはわからないけど、高ランクが多い友魔ユーマがこれだけいてワイバーン相手にこんなにボロボロなんて……」

「……確かにな」


 ヴェスタの疑問に、ソラも悩む。


「何にせよ情報がまだ少ねぇし、ドラゴンが『柱』の圏内に出た時点で緊急事態だ。とりあえず偉いさんに報告して、次の指示待ちだな」

「……!?」

「ボクらもさっきまで運動してましたしね……あ、獲物換金しなきゃ」

「その前にしばらく鉱山に近づかないように言っとかないとまずくない?」

「あと住民に避難の準備くらいはさせとかねェと……」


 シドも冷静に事態を飲み込み、ヴェスタとフリーダも団長の判断に合意前提で今後の動きを提案。しかし……


「何で!?何でドラゴンやっつけに行かないの!!?」


 レミファだけは異を唱えた。


「おっちゃん達、このままじゃまた仕事できないよ!?この街にだって、もしかしたらドラゴンが入ってきて……ねぇ!どうしてソラは戦ってくれないの!?あの時だって、お父さんの仇討ってくれたよね!!?」

「あん時はそれが仕事だったからだ。今は状況が違う。勝手なことはできねぇし、そもそもおれ達来週に仕事の先約入ってるだろ?」


 ソラはレミファに目線を合わせて、子供の駄々のような抗議にも真摯に付き合う。


「……あんな"首輪付き"とか言う嫌な奴らなんか……!そんなことより鉱山がなきゃ、この街が、お母さんが言ってたことも……!!」

「お前の母ちゃんはレミファ達のために付けたくもねぇ首輪付けて、人間のルール一生懸命守ってるんだぞ?お前が台無しにしてどうするんだ?」

「ッ……!」

「心配すんな。政府だって今のこの街の価値は理解してる。ちゃんと動いてくれるはずだし、もしおれがそいつら倒しに行けって言われたら絶対に戦う。それで良いよな?」

「……うん」

「良い子だ、それで良い。レミファもこのルミナス開拓団の一員。こういうとこできちんとしてりゃ、世間の友魔ユーマを見る目だってきっと変わる」

「……うん」


 ひとまず納得したレミファを連れて、一行は今できる範囲での行動に移った。関係各所への報告、住民への鉱山の立入禁止と避難準備の勧告、そのついでにさらなる情報収集。

 そんなふうに一行が街を駆け回ってる時……


「……!」

「おい!金なら出す!スペースを空けろ!」

「困りますよ!この施設は友魔ユーマ用の避難場所です!人間用も用意してますからそちらを利用してください!」


 普段は公民館として利用している大きな建物の前で、大きな荷台を運ばせている商人と友魔ユーマが揉めていた。商人の顔には見覚えがある。


「スペースが足りないんだよ!ウチの大事な商品がおじゃんになったらどうする!?」

「今は物より『人』命です!」

「何が『人』命だ!"首輪付き"の分際で!」

「……あのぉ〜、すみまっすぇ〜ん……」

「あ!?何だこんな時に……ッ!!?」


 商人が振り返ると、商人の肩に手を置いてただニコニコとしているソラの姿。


「わかりますよね?」

「は、はいィィィィィ!!!」


 そんなソラを見ただけでその商人は、荷台を連れてまたしても逃げていった。


「すみませんソラさん、助かりました……」

「いや、こっちこそバカが迷惑かけちまったな」

「ああいうのは『一部』だと理解してるつもりです」

「そう言ってもらえると助かる」


 確かにあの友魔ユーマの言う通り、ソラのような人間の方が『普通』。それはレミファも頭では理解しているつもりだった。

 ただ、ああいうのが『一部』だとしても存在する以上、いざ本当にドラゴンが街に来た時に、友魔ユーマと人間は協力してその場を無事に切り抜けられるのか?はっきりとではないがそんな懸念が、さっきのいざこざを目にすることでレミファの中に芽生えてしまった。


「ま、ママ……僕達、ドラゴンに食べられちゃうの……?」

「大丈夫、大丈夫だからね。パパやみんながきっと守ってくれるからね」


 まだ実際にドラゴンは襲来していないが、街の子供達とその保護者達は万が一を考えて早くから避難を始めていた。

 幸か不幸か、この街には子供が少ない。魔物は同種同士でしか繁殖できず、友魔ユーマになる確率的に『つがい』になれることは少ないからである。

 しかしそれでも、怯える子供が存在するという事実はレミファの中に残った。


「皆さん、お疲れ様です。しっかり食べて精を付けてくださいね」

「とりあえずやるべきことはやったな……今日は早めに飯食って寝るぞ」

「「「「了解……」」」」


 くたくたになってレミファの実家に戻ったルミナス開拓団は最後の準備として、ドラゴンの急な襲来に備えて回復に専念した。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 ヴェスタ達が早めの就寝に入った頃。首都イーグルシティの大統領官邸。


「大統領、ご報告です。レイヴン自治区の鉱山にドラゴンの出現が確認されたとのことです。現地の開拓団からの情報だと、『ワイバーンであると考えられるが、他にも何らかの脅威がある可能性が高い』と……」


 補佐官が窓の外の夜景を眺めていた大男に声をかける。


「……その現地の開拓団というのは?」

「ルミナス開拓団です」


 大男は静かに振り返る。年頃はおそらく40前後。長い金髪をオールバックにしてまとめており、顔のラインはスリムだが首が太く、肩幅と胸囲も非常に大きく、スーツの上からでもはっきりとわかる極めて筋肉質な身体。


「役人達に時間外労働させてでも通達だ。……とな」

「……よろしいのですか?」

「ソラなら『やってくれる』……というか『やりかねん』。奴の立場を守るためにも急げ」

「ハッ!」

「……全く。厄介ごとに愛されすぎだな、あのお転婆娘は……」


 この大男こそがドレイク・ドレッドノート。20年前の『魔王』討伐で『勇者』認定を受けた元ステイシア軍の英雄。"人類最強の男"にしてステイシア共和国の大統領である。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「ん、んん……ジュリア、トイレ連れてけ……」


 そう言って、就寝中のフリーダは目を覚ました。


「……いけねェ。つい昔の癖が……出すもん出してもう1回寝るか……」


 ベッドを降りて、フリーダはデバイス、《残光ざんこう》を展開。


「これもある意味隠し機能ってなァ……」


 《残光ざんこう》は映像を映し出すが、その関係で発光が伴う。それをランプの代わりにしてまっすぐにトイレに向かい、用を足して戻ると……


「ん?んん?」


 デバイスの明かりで、隣のレミファのベッドが空になっていることに気付いた。


「おいお前ら!起きろ!」


 他の部屋で寝ていたヴェスタ、シド、ソラ、ディアナを慌てて起こし、部屋に呼んだ。


「!!!まさかあの子……」

「……その予想は当たりっぽいぜ、ディアナさん」

「「「「「!!!」」」」」


 レミファのいたベッドを調べていたソラは何かを発見し、全員に見せる。それは封筒だった。


「『たいだんとどけ』……『退団届』……って、まさかアイツ……!?」

「だろうな。『団でどうにかできねぇなら個人でやりゃ文句ねぇだろ』って理屈だろうな」

「何てことを……」


 ディアナが頭を抱えて壁にもたれかかる。


「ん……?ん?どういうこと?」


 まだ眠気が勝っているヴェスタは頭が回ってなかった。


「バカ!アイツ1人で鉱山に行ったってこったよ!」

「……!」


 そこでようやくヴェスタの眠気が吹っ飛んだ。


「参ったなぁ。確かにウチは『ドラゴンから逃げ出す腰抜けはお断り』だけど、逆にここまで勇敢すぎる奴はなぁ……」

「……その割に、何かちょっと嬉しそうですね」


 この状況で薄く笑みを浮かべるソラを、シドは皮肉る。


「まぁ……それだけアイツが"良い奴"だって証なんだしな」

「誰に似たんでしょうね?」

わりぃな」

「……で、どうする?レミファを救出するだけにしても、もう鉱山はドラゴンの住処。許可が……」

「大丈夫だ。あの人ならきっともうすぐ……」

「「「「「……?」」」」」


 ソラがそう言うと、玄関の方でドアをノックする音。


「ディ……ディアナ議員!夜分遅くにすみません!ステイシア政府より緊急の通達です!」


 突然の訪問客は、きっちりとした服装の友魔ユーマの女性。中に通すと、彼女はルミナス開拓団の存在を確認し、息を切らしながらも令状を広げた。


「ルミナス開拓団へ、大統領閣下より直々の通達です。『こちらでも軍を動員する準備はするが、ルミナス開拓団は可能であれば先んじてドラゴンへの対処を行え。レイヴン自治区存亡の危機のため、他の任より優先しても構わない』とのことです」

「「「「「……!」」」」」

「ほらな。やっぱりあの人はこういう人だ」


 尊敬し、信頼する男の計らいに、ソラはニヤリと笑う。


「最初からこうなるってわかってたの?」

「ああ。本当なら今日の朝からみんな揃ってドラゴン狩りに行くつもりだった」

「……じゃあ何でレミファに言わなかったの?」

「うっ……!」


 眠気を覚ましたヴェスタがいつも通り他人の痛いところを突く。


「……そうだな。レミファを信じすぎた……というか、ありがてぇお説教をかませたと自分を信じすぎた。そこはおれも反省だな」

「ソラ、あの……」

「わかってますよディアナさん。今からでも行きますよ。行かなきゃおれは"勇者おれ"じゃねぇ」


 ベッドに座っていたソラは床に降り、準備運動を始める。


「お前らはどうする?こうなった以上、まず最優先は『レミファの救出』……ただ、その流れでドラゴンとやり合う可能性も十分ある」

「行きますよ」


 いの一番に乗ったのはシドだった。


「おっ、意外だな」

「別に良いでしょう?」

(ボクと『同じ』だからね。ソラのデバイスの情報を掴めるチャンスかもしれないし……)


 そしてヴェスタとフリーダも、返事はしなかったが立ち上がり、準備を始めた。


「……ヴェスタ。フリーダ」

「「?」」

「ぶっちゃけお前ら、訳ありなんだろ?」

「「……!」」

「あえて聞かねぇ。お前らがどんな目的でこの団にいようがお前らの自由だ……だがこれだけは聞かせてくれ。レミファを仲間だと思えるか?」

「……そうじゃなきゃ、ほぼ初仕事で『ドラゴンの住処を探検』なんてブラック労働、お断りだよ」

「だな」

(故郷を想って命を賭ける。オレ達と『同じ』だ。見捨てられるわけがない)

(結局『ソラの好感度稼ぎ』って言やそれまでだが……それだけで命賭けられるかよってな)

「やっぱりお前らは"良い奴"らだ」

「皆さん、本当にありがとうございます……!」


 異種でありながら、娘のために命を賭ける人類の若者4人の姿に、ディアナは涙する。


「"迷子の子猫ちゃん"は首根っこ掴んででも連れて帰りますんで」


 かくして、レミファを除くルミナス開拓団の4名は、まだ日の昇らない内から鉱山へ向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る