第5話:事情聴取③開始
「なぜじゃ!なぜ魔法が使えない!」
所内の保護室に戻った彼女は、苦悶している。
唯一の自分の拠り所だと信じていた魔法が使えなかったのだ。
「そうじゃ! 杖の【賢者の石】の効果が切れたのじゃ! のう、おぬしら。この世界には【賢者の石】はあるのかのう?」
「賢者の石?」
「うむ、これじゃ。」
そう言って、彼女は手にした杖の先端の辺りをいじり、飾りを外すと、何やら小さな部品を取り出した。
「これが【賢者の石】じゃ! どうじゃ、見たことはないかの?」
彼女は賢者の石を俺達に手渡した。…見覚えがあるものだった。
「見たことがあるのか! よかったぞ ! この【賢者の石】を交換すれば、杖は力を取り戻すのじゃ。以前、師匠がこっそり交換していたのを見たことがあるのじゃ!」
それは、
電池だった。
単三の。
彼女は杖から単三電池を取り出したのだ。
そして彼女はそれを賢者の石だと言う。
「これは、その、こちらの世界だと、電池って言うんだ。」
俺は説明する。
「デンチ? デンチとはなんじゃ?」
「うん…、時計とか、ラジオとか、リモコンとか、あと…そうだな、玩具とかを動かすもの、かな…。」
俺のその言葉に、彼女は、
「おもちゃ? そなたはわらわのこの聖なる銀杖を玩具と一緒にするのか! わらわはずっと、生まれた時からこの杖と一緒だったのじゃ! この杖を使ってはわらわは魔法を使ってきた! 魔物を倒した! 国を守ってきたのじゃ!」
と、いつになく興奮して言葉を返してきた。
その悲痛な言葉に、彼女のアイデンティティーが揺らいでいるのを俺は感じる。
「その杖を、もう一度、調べさせてくれないかな?」
以前にもこの杖を調べようとしたが、彼女が杖を手放す事を強く拒み、その時は詳しく調べられなかったのだ。
だが、
「…いいぞ。頼む。」
その時とは打って変わって、彼女は素直に杖を俺に差し出した。
(事情聴取③終了)
やはり、彼女は、頭がいい。それがまた、悲しい。
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