俺は異世界クラス転移になぜか選ばれたおっさん 〜金持ち学校のDQN共が、勇者という立場を利用して犯罪行為をし始めたので外れスキル<鉄拳>で制裁無双する。(その結果、年下を中心にハーレムができた……)〜

渡辺隼人

第1話 おっさんと女子高生とクラス転移



「さてさて、いよいよ大詰めだな」

 

 俺はブラック缶コーヒーを開け、それを一気に半分まで飲み干した。

 うーん、やはり仕事前のこの苦味は最高だ。

 

 俺の名前は安藤。

 今年で41歳。今は学校を相手に教材を売る営業職をしている。


「にしても、流石は名門、聖英せいえい学園だなぁ。人工芝に観客席、最新鋭のトレーニング設備……。学校の校庭っていうか、普通にオリンピックできるくらいの競技場だよなぁ……」


 ほへーと感嘆を漏らしながら俺は校庭の外にあるフェンスに寄りかかる。

 聖英せいえい学園は、『文武両道』、『結果主義』を掲げ、かなり激しい競争をしている高校だと聞いた。

 サッカー、野球、空手のスポーツや格闘技はもちろん、茶道、華道の伝統ある部活にも一流の講師を雇い入れるなどして、かなり徹底的な教育をしているらしい。

 そして、ここに来る生徒はどこぞの政治家の子息や、なんとか一流企業の令嬢などが集う超金持ち学校ということでも知られている。


「なんだか殺伐としてそうな学校だなぁ」


 この学校には営業の一環として何度も顔を出していたが、先生達もかなり冷たい態度というか、優秀だけど人付き合いが苦手というか……なんだか簡単には心開いてくれなかったなぁ。


「ま、その分、この営業が成功すれば一気に俺の業績のアップアップだ。気張っていくか!」


 俺はコーヒーを全部飲み干し、近くのゴミ箱に投げ捨てたあと公衆トイレに向かおうとした。

 コーヒーはモチベーションアップには欠かせないが、口臭が気になるからなぁ。少しでもケアをしておかないと。

 

 だが、俺が後ろを振り返った時である。

 一人の少女が前を横切った。


 彼女の外見を一言で言えば、清楚。

 黒髪の白肌に制服の乱れに一切はなく、実にフォーマルな格好で、教師目線、手がかからない子だなぁという印象だ。

 あと、丸みもあって瞳も大きく日本男子生徒にモテそうなルックスをしている。


 しかし、俺からすればただの子供。だから彼女が「お、可愛い!」とかで目を惹かれたわけではない。

 単純に――その子が物凄く、思いつめた顔をしていたからだ。


「こんにちは」


 思わず声を掛けてしまった。

 案の定、その子はビクッと顔を上げる。

 年齢は恐らく高校一年生くらい。制服をみるかぎり……聖英せいえい学園の子だな。


「大丈夫? なんか辛いことでもあった?」


「……え」


「このおっさんで良ければいくらでも相談に……」


 笑顔を携えて彼女に近づこうとしたが、ビクッと肩をすくめたので俺は歩みを止めた。


「大丈夫ですから……放っておいてください」


 そう言って彼女はタタタッと小走りで人気の少ない所謂校舎裏のところへ走っていった。

 

 おっと、まずいことしたかなぁ。

 いかんなぁ、どうも悩みがありそうな生徒を見ると声をかけちゃう癖があるなぁ。今の俺はただのしがない営業員。不審者みたいなものだ。

 自重しないとなぁ。

 しかし、あの顔……。やっぱり彼女は危ない気がする。俺の経験上。

 でも、追いかけたらいよいよ通報されそうだし――うーん……。



 〇



 途中知らないオジサンに声をかけられたことには驚いた。

 しかし、不思議と不快感はなかった。

 オジサンの顔がとても優しかったことが要因かもしれない。

 身長は170cm後半かな? 結構体格はいい。なにかスポーツでもやっていたのかも。

 なんとなく人柄の良さが伝わった。

 けど、あの人に相談したところでなにになるというのか。

 そういう諦めもあって、私はつい避けてしまった。

 とにかく今は……早くのところにいかないと……。


 心臓は早鐘を鳴らし、呼吸が緊張で荒くなる。

 これだけ血流は動いているのに、身体は凍える一方だった。


 ひと際大きな校舎を持つ聖英せいえい学園には滅多に人が通らない場所が点在する。

 そのうちの一つに、いくと――アイツはいた。

 私を呼び出し、ニヤニヤと待ち受けている。

 

 同じクラスの男子生徒で、坊主頭の名嘉なきだ。


「おー、きたきた。待ってたよォ〜秋ちゃーん」


 鳥肌が立つ。――入学式からろくに話したこともないのに、私の下の名前を呼ぶなんて。


「……約束通りきたわよ。だから……」


「ああ、のこと?」


 名嘉はスマホの画面をこちらに向けた。

 動画を再生したままで。


「――――――ッ!」


 私の……女子更衣室で着替えているところを隠し撮りしたその動画を――。


「今すぐ消して!! 私の目の前で!」


 思わず叫んだが、名嘉はいやらしい笑みを浮かべてその動画を鑑賞し続ける。


「わぁお、すごいね〜。秋ちゃん、肌綺麗だなぁ〜。うお、下着姿エッロ。てか、胸結構デカいじゃん」


 汚辱が全身を駆け巡り私はスマホを奪おうと手を伸ばした。


「おおっと、あぶないあぶない」


 しかし、ボクシング部に所属している名嘉の反射神経は凄まじく一瞬で躱されてしまった。

 そして、彼が私の両腕を一斉に掴み、私の動きを封じた。


「ッ! どういうことッ!? 約束が違うじゃない! ここにきたら動画は消してやるって……」


「安心しなよ、ちゃんと消すし、この動画は誰にも回してないからさぁ。でもさぁ、こんな極上のお宝映像を消すのはもったいないじゃん。どうせなら俺にイイ思い出作らせてよ〜」


「なッ!?」


「秋ちゃんの映像じゃなくて、リアルな姿を見せてくれたらそれでいいからぁ」


「――――――ッ! サイテー……!」


 私は抵抗するが男の力には敵わず、名嘉は下卑た笑みを浮かべて少しずつ近づいてくる。


「暴れるなよ。あ、警察を呼ぼうだなんて無駄だからな。俺の親父は大企業の役員だからよ。警察関係者とも繋がりがあるんだ。お前がどんなに訴えようとも簡単に揉み消しちまうよ」


「やめて……!」


「こんなことお前じゃできないだろう。シングルマザーで庶民の生まれの秋ちゃんがよ!」


「……く!」

 

 ケダモノの手が徐々に私の身体に近づいてくる。

 恐怖と悔しさで視界が涙で滲んできた。

 ああ、こんなヤツらに穢されるなんて。

 こんなことになるなら……あのオジサンに助けを求めれば良かったのかな?

 名嘉に私の盗撮動画があることを言われた時、私は生きた心地がしなかった。

 勉強もなにも手がつかずに、放課後までまるで亡霊のようにいた。

 だけど……そんな私の変化に誰も気付いてくれなかった。

 学校の先生も――。

 それなのにあのオジサンは気付いてくれた。

 だから、素直にオジサンに助けを求めていれば……。

 いえ、私はそれでも……,


「じゃあ、早速上のほうからいただきまーす」


 そして、私の制服のところまで名嘉の指がかかろうとした……その時だった


「コラァアアアアアアッ!!」


 それはまるで雷が落ちてきたような怒声だった。

 まるで一昔前の、今ではドラマでしか見たことがない昭和のオジサンが発するような、そんな威厳のある「コラ」。

 名嘉達もビクッと身体を硬直させ、なにがあったのかと急いで声の主をほうへ向く。

 私もそこへ目をやったが……思わず「あっ!」と声を漏らした。


「お前ッ!! そこで一体なにをやっているんだァ!!」


 ――オジサンだ。校舎裏の高いフェンスをよじ登り、そこからこちらを覗いていたのだ。


「な、なんだあのオッサン!? てか、なんであんな高いところにいるんだよ!? まさか、素手で登ってきたのか!? 3メートルくらいあるあの壁を!?」


 狼狽する名嘉にオジサンはこめかみに青筋を立てて怒鳴り散らす。


「オイッ!! その子になにをしようとしたッ!? 場合によっちゃ拳骨だけじゃ済まさねぇぞッ!!」


 そして、オジサンは颯爽と――フェンスの上から飛んだ。

 それはまるで……正義のヒーローに私は見えた。


 しかし、次の瞬間だった。

 オジサンは突如として現れた光に包まれた。

 ううん。オジサンだけではない。

 名嘉も、私も――!


「な、なんだこの光は!? うわぁああああああああ!?」


 名嘉の悲鳴が聞こえたのを最後に眩い光に私の意識もそのまま刈り取られていった。


 〇


 次に俺が目を覚ました時、立っていたのは見慣れない大理石の部屋。

 なんとなく王宮をイメージする場所だった。


「あれ……なんで俺はここに……?」


 あの時、やはり女子高生のことが気になり様子を見に行ったが、騒ぎが聞こえたので、よじ登ったところ、彼女が男子生徒に襲われていたので思わず声を上げ、飛び降りた――ところまでは覚えているのだが……。

 足元を見ると、なにか淡い光芒を放つ魔法陣みたいなものがある。

 そして、周囲には――俺以外にもたくさんの人達がいた。


「いてて……」


「なんだここ……?」


「あれ、俺たち教室にいたはずじゃ……」


「私も部活していたのに?」


 よく見ると体操着や私服の子もいるが、ほとんどが聖英せいえい学園の制服を着ている。

 ということは全員、聖英せいえい学園の生徒?

 数は……30名、いや40名くらいはいるな。……ひとクラス分?


「な、なんだ!? 一体どうなっているんだ!?」


 すると、奇声を上げたその先にいたのは、確か名嘉という生徒。

 そして、その友達らしき2人もいた。

 

 なんだ、アイツらも来ているのか?

 ということは……。


「オジサン……?」


 後ろから声をかけられ振り返ると――あの少女がそこに立っていた。


「ああ、君も来ていたのか」


「はい、オジサンこそ……」


「なぁ、これって一体どういう状況かわかるか? なんか、聖英せいえい学園の独自の行事とかか?」


 どんな行事だよと思ったが、金持ち学校が考えることなんて庶民にはわからないので一応聞いてみることに。しかし、案の定、少女は頭を横に振って「わからない」と言うだけであった。


「参ったなぁ。これから商談があるっていうのに……。あ、俺は安藤ね」


 ここにいるオッサンは俺だけで、ちょっとアウェイっぽいので自己紹介をする。

 

「私は、柏木秋」


「柏木か。よろしくな!」


「はい。その……よろしくお願いいたします」


 ペコリと頭を下げる柏木。うん、礼儀正しい子は将来有望だな。


「それよりも安藤さん。さっきはその……助けてくれて――」


 なにか彼女が言いかけたその時、王宮の扉の向こうがギィと開いた。

 生徒達の緊張が一気にピークを達する。

 果たしてどんな化け物か、未知なる生物が現れるか――。


 しかし、扉の向こうから歩いてくるのは2人の人影。

 一人は、白髪と白ひげを蓄えたおじいさん。

 そして、もう一人が金色の髪を靡かせ、一瞬で男子生徒はおろか、女子生徒達の衆目をかっさらっていくほどの美少女――。

 日本人じゃない。恐らく西洋あたりの……明らかに王と王女だとわかる2人が俺たちの前にペコリと頭を下げていた。


「突然、こんなことに巻き込んでしまい、大変申し訳ございません。私は、ヴァルメリア王国第23代国王のルーター=ヴァルメリアとお申します」


「同じく、第一王女のセンナ=ヴァルメリアです」


 それぞれが挨拶をしたあと、早速国王のルーターがこの状況について説明してくれた。


「たった今、我々はヴァルメリア家に伝わる禁術を発動し、皆様をこちらに召喚いたしました。それだけでも身勝手なことなのですが、無礼を承知に一つお願いをさせていただきたいと思っております」


 そして、ルーター国王は言った。


 ――どうか、魔王を倒してください。勇者様。


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