第10話 スモールシーサーペントとオデュッセイア
フィールドボス:スモールシーサーペントと表示されたモンスターはトゲの鱗が付いた蛇であった。全長は大きなアナコンダぐらいであった。
大きな尾をバシリと叩き、獰猛に牙を剥いて豪を睨んでいる。
「無道の仇打ちに来たぜ!スモールシーサーペント!」
豪は獰猛に笑い、右の手にある魔剣を握り占め、走り寄る。
「シャアアア!」
「うおっ!」
グッと剣の間合いへ豪が近づこうとした瞬間、スモールシーサーペントが足場を泥へと変える。
足を取られるが、豪は力んでなんとかその場に踏みとどまった。
「これが無道の言ってた戦いづらいやつか。確かに厄介だな。だが、しかし!このまま留まる俺ではない!」
豪は勇んでぬかるむ足場を前進する。剣の間合いへ入った、と豪が思った瞬間。
「シャアアア!」
ザアッ……。
怒涛の水流が豪を泥の足場から硬い床へと豪を押し流した。そして水はふっと消える。
「冷たっ!濡れた部分の水は消えないのかよ!」
尻もちをついた豪は慌てて立ち上がる。しかし、半そでの体は鳥肌が立っている。
「クッソ!こりゃ無道も逃げるわけだな。攻撃が届かない!いや、届くぞ!魔法には魔法で返してやる!」
びしょ濡れで怒り心頭の豪は左手で銃のポーズを取る。
「水魔法!連射だあああ!!レベルアップで増えた魔力を食らえええ!バンバンバンバンバンバン…」
豪は自身の魔力の約半分、20発の水弾をスモールシーサーペントに向かって放つ。それは正確に着弾して肉を抉り、内一つは目に入り、シャオッとスモールシーサーペントは呻く。
しかし、スモールシーサーペントは倒れない。
「弾が足りないか?残り
さらに20発の弾丸を放つ。
全弾必中し、スモールシーサーペントはようやく倒れた。
レベルアップの表示と共に、ポンッと宝箱が現れる。
「衝動的に魔力をほとんど使っちまった。今のは色々反省が多い戦いだが、まあひとまずよしとするか」
豪は魔剣メガロを床に置くと、宝箱をあける。
中には……。
黒いジャケットとズボンとブーツが入っていた。
「衣類と靴!?」
まさかの日常的に使えそうなアイテムに豪はビックリし、素っ頓狂な声を出す。
「ひとまず、表示メッセージを見てみるか」
防水ジャケット
保温防水性に優れ、海や川辺など水場の冒険に最適なジャケット。
水属性のダメージ軽減+3%。水属性の攻撃力+2%。
防水ズボン
保温防水性に優れ、海や川辺など水場の冒険に最適なズボン。
水属性のダメージ軽減+3%。水属性の攻撃力+2%
シーサーペントブーツ
防水性に優れ、泥場や川辺など水場の冒険に最適なハーフブーツ。
水属性の攻撃力+5%。水属性のダメージ軽減+5%。
「おっ!攻撃力とダメージ軽減の効果があるのか!濡れて、寒いし早速着てみよう」
豪はジャケットを羽織る。ジャケットは少し大きい感じがしたが、豪のサイズにピタッと縮みおさまる。防水ジャケットから魔力が発せられ、繊維が縮んだ瞬間を豪は見逃さなかった。
「魔法服!これなら誰でも着れるんじゃね?フリーサイズ魔法万歳!」
ジャケットは保温性のおかげか、寒さがいく分和らぐ。
豪は急いで、濡れて寒いズボンも脱ぎ、防水ズボンに履き替え、暖かさを求めた。
ちらりと見えた豪のパンティーは無地黒のボクサーパンツであった。
「やっぱ乾いてる服は違う!」
続いて、豪は濡れたスニーカーを脱いでシーサーペントブーツを履いた。ピタリと靴は豪の足の長さにおさまる。
白と青のツートンカラーのブーツは底にグリップがついており、その場で足踏みをして感触を確かめてみると、滑らかだが強く地面を踏みしめている履き心地を豪は感じた。
「いい感じだな!ザ・冒険者の服装っぽくていいじゃないか!」
履いていたスニーカーをしまい、豪は一息つく。ここで休憩を取ることにしようと決めた。
「魔力を使ったら疲れたな。それにお腹も空いた」
ぼんやり後ろを振り返り、リポップで埋まったクラゲを眺める。宝箱のそばにいないと、攻撃されそうだなと豪は思った。
座り込んで、「プロテインバー全部」と豪は呟く。アイテムボックスから宙に、プロテインバー10本の束が現れた。豪がそれを床に置くイメージをしてみると、ドサッとプロテインバーの山ができる。
「アイテムも任意に場所変更可能か。父さんのをくすねてきてよかったな。やっぱり疲れた時は甘いものだ」
ピリリと封を開け、ブラウンのバーを口に含む。チョコレートの甘い味が口内を満たし、豪はジーンとその味を噛み締める。そして無言のままに何本ももぐもぐ食べ進め、アイテムボックスから水(2ℓペットボトル)も出してゴクゴク飲む。
戦闘で疲弊した体に水の潤いが染み渡った。
―10本も食べたらカロリーオーバーになりそうだが、夕食を食べてないぐらいの空腹があるのが不思議だ。妙に体が欲してるし、それが魔力消費と言うやつか!
しばらくしてステータスを確認しようと、画面を見つつもぐもぐバーを頬張っていた時、ふと視界の端に壁画が描かれているのが豪の目に映った。
左壁には特別枠ハデスという1階で見たやつと同じもの、振り返って左壁を見ればペネロペと名がある美しい女性と弓を構える老人、秘密の寝台と名があるベッド、イタケー王の帰還が描かれていた。ベッドは切り株のような太い柱に支えられた頑丈なそうな見た目をしていた。
「しまった!二階の壁画は戦闘に夢中で見てなかった!違うやつが描かれてたのか!」
やらかした!と豪は思い、俺のバカと脳内で叱る。しかし、やってしまったものは仕方ないと思いなおし、プロテインバーを食べ切るとスマホを取り出した。
「まずは分かる範囲から情報を集めよう」
豪はぺネロぺと弓を構えた老人の姿を写真に撮った。
「ペネロペは聞いた事ない名前だな。メガロチャットに調べさせたら何か分かるか?」
生成AI「メガロ・チャット」を起動させ、豪は写真と共に質問を打ちこむ。
―ギリシャ神話に関わるもので、この写真の壁画にあるペネロペという女性と弓を構える老人にまつわるエピソードはあるか?また、その話には秘密の寝台は出てくるか?そしてペネロペとはどんな人物だ?また、イタケー王とは誰だ?
『エピソードはあります。
ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」の後半にペネロペと弓を構える老人(実はオデュッセウス)のエピソードがあり、写真の壁画はその時のエピソードを描いた有名な場面だと考えられます。エピソードの後半には秘密の寝台が登場します。
ペネロペ:英雄王オデュッセウスの妻。夫の帰還を20年も待ち続ける貞淑な王妃。
イタケー王:英雄オデュッセウス。知恵と策略の象徴的人物。
エピソードは下記の通りです。
オデュッセウスがトロイア戦争後も帰らずにいたために、ペネロペの元には多くの求婚者が押し掛けた。ペネロペは彼らを退けるため、オデュッセウス(夫)が残した弓を引き、12本に並べた斧の穴に矢を貫き通せた者がいたら再婚すると言った。この弓はとても強靭な弓であり、オデュッセウス以外扱うことが難しかった。
求婚者たちが軒並み失敗する中、みすぼらしい格好をした老人が名乗り出る。この人物こそ変装したオデュッセウスであった。
オデュッセウスは見事に弓を引き、12本の斧の穴に矢を貫通させてみせる。
そして正体を明かしたものだった。
しかしペネロペはすぐには彼を信じず、本当に夫(オデュッセウス)であるかを確認するために、乳母に寝台を動かしてと命じる様を、彼に見せつける。寝台はオリーブの木をそのまま使っているため、大地に根が張っていて動かせない、という二人だけの秘密があった。彼は寝台は動かせないと即答する。本物のオデュッセウスだと確信したペネロペは再会を喜んだ(終わり)』
「12本の斧の穴ってどういう状況なんだ?昔の神話はよく分からんな。とにかく、オデュッセウスとぺネロぺの話なんだな。しかし、ふむ。オデュッセイアにトロイア戦争ね」
豪は新しい名に場面の説明に頭がこんがらがり出すのを感じる。
「この調子で大量に語られたら、訳分からん!しかし、分かりやすくメガロチャットに語らせるにはどうすればいいか」
豪はふむ、と唸り、質問文を打ち込む。
―オデュッセイアとはどんな話だ?超絶分かりやすく、小学生でもわかるように説明してくれ!あとトロイア戦争を一言で説明してくれ。
『任せてください。
トロイア戦争とは?
美女ヘレネを巡って、ギリシャ軍とトロイア軍が戦った伝説的な大戦争の事です。
オデュッセイアって何?
知的な英雄オデュッセウスは10年かけて家に帰りました、という旅路の話です。
ストーリー
はじまり
トロイア戦争は10年も続き、やっと終わりました。
オデュッセウス「やれやれ。家に帰るぞ!」
海神の怒り
オデュッセウス「やっべー。ポセイドンの息子の目潰しちゃった」
海神ポセイドン「貴様!許さん!」ドカーン!←船破壊
「怒りがおさまらん!暴風や嵐を起こして妨害し続けてやる!」
こうしてオデュッセウスの旅路は過酷なものとなりました。
モンスターや海神のピンチを頭の良さで乗り越えながら、オデュッセウスはなんとか家に帰りましたとさ(完)』
「やればできるじゃないか!メガロチャット!こういう子供向けっぽさが、複雑な神話にはいるんだよ!」
一気に分かりやすくなった回答に豪は歓喜した。
―とってもいい回答だ。今後、ギリシャ神話について尋ねたら回答は↑のように分かりやすくて小難しくないようにしてくれ。
『承知しました。これからギリシャ神話について話すときはなるべく専門用語は使わずに、分かりやすくなるように努めますね』
ふう、と豪は一息つく。そして聞いた話について考えながら、豪は1階の壁画にあった三叉槍を掲げた海神ポセイドンの姿を思い出した。
「海というと水のダンジョンと関係がありそうだよな。オリンポス神なんだから如何にも関係が深そうだが、しかし。今のところは謎だな」
現時点では、ギリシャ神話の壁画とモンスターしか出てきていない。
モンスターはギリシャ神話とは関係がなく、強いて言うならスライムもクラゲも現代的要素があった。
「あ、シーサーペントはどうだ?」
―シーサーペントはギリシャ神話に関係あるか?
『はい。間接的には関係があります。
直接「シーサーペント」という名前の怪物は出てきませんが、ギリシャ神話に登場する怪物たちがシーサーペントのイメージに影響を与えていると考えられます。
例えば、多頭の首を持った『ヒュドラ』や海の大蛇『ケートス』などが挙げられます』
「ふーん。イメージか。ギリシャ神話というよりやはり現代のイメージなのか?まあなんにしても薄いつながりのようだな?」
豪は首をかしげる。
「5層にいけばクエストなるものが解放されるんだよな。そこに行けばリンクするとか?スモールという名からしてなんとなくチュートリアルっぽい感じもするし、とにかく、5層に行ってみないことには机上の空論かもな。壁画は見れたら見る、みたいな感じで先に進むか」
まずは5階層へ行くことを目標にし、ゴミをアイテムボックスに収納すると、魔剣メガロを手に豪は3階層へと続く階段を下りた。
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