【完結】炎上して左遷された俺の教え子として、解散した元トップアイドル3人組がやってきたんだが、なぜかめちゃくちゃ懐かれている件
財宝りのか
プロローグ 1:憧れのアイドルが俺のことをなぜか知っていた
「もしかして……折原……修さんですか?」
握手会のブースで、アイドルの声が震えた。
折原は思考が停止した。手を差し出したまま固まっている星野ゆめを見つめ返す。どうして、自分が憧れ続けたアイドルが、アニメ界で大した実績も残していない俺の名前を知っている?
「なぜ……俺の名前を……」
言葉が掠れた。
「ネットの記事を見つけたんです」
ゆめは早口で続けた。後ろの列から苛立ちの声が漏れ始めている。
「折原さんが『星詠みのアストライア』第8話の演出をされて、それが話題になった時の記事……そこにお写真もあったから——」
「お時間です」
黒服のスタッフが割って入った。折原の肩を掴み、有無を言わさず誘導する。
「待って! あの、私——」
ゆめの声が後ろで響いたが、もう振り返ることはできなかった。人の流れに押し出され、気がつけば会場の外にいた。
春の日差しが眩しい。手のひらに、まだゆめの体温が残っている。
——星詠みのアストライア、第8話。
6年前、自分が全身全霊を込めて演出した、たった一話。商業的には失敗した深夜アニメの、誰も覚えていないはずの作品。
それを、あの
***
東京ビッグサイトの楽屋。
「それ、ほんまなん?信じられへん……」
咲良まこ、本名桜井真琴が目を丸くした。
「あの、アストラ8話の折原さんが……握手会に来てたの」
星野ゆめ、本名天宮ゆらは、まだ興奮が収まらない様子で二人に説明した。
「本物?」
藤堂ちさ、本名藤堂こよりが身を乗り出す。普段クールな彼女には珍しい反応だった。
「間違いない。記事の写真と同じ人だった。眼鏡かけてて、髪を後ろで結んでて……」
「まさか、うちらの握手会に来るなんて」
真琴が椅子にもたれかかる。
「私たちのファン……」
こよりが小さく呟いた。
三人は顔を見合わせた。それぞれの瞳に、同じ記憶が蘇っている。
***
2019年、初夏。
中学校の昼休み。窓際の席で、三人の少女がスマートフォンを囲んでいた。
「すごいの、これ!」
ゆらが画面を指差す。『星詠みのアストライア』第8話。主人公が夜空を見上げるシーンが一時停止されている。
「なんやの、また昨日のアニメ?」
真琴が覗き込む。
「...何がすごいの?」
こよりも画面に目を向けた。
ゆらが再生ボタンを押す。
音楽が流れ始めた。風が髪を揺らし、星が瞬き、少女の表情がゆっくりと変化していく。ただそれだけのシーンなのに——
「あ……」
真琴が息を呑んだ。
「綺麗……」
こよりの頬が紅潮している。
「でしょ!?」
ゆらはスマートフォンでブラウザを開いた。
「それでね、調べてみたの。アニメの面白さを決めるのは『絵コンテ』と『演出』っていう役職によるものが大きいんだって」
画面にはアニメファンのブログが表示されている。
「絵コンテは設計図で、演出はそれを実際に動かす人。カメラワークとか、タイミングとか、音楽の入れ方とか——全部絵コンテが決めて、演出の人がアニメーターに指示していくの」
「へぇ〜」
「それで、第8話を手掛けた人が——」
ゆらは画面をスクロールし、一つの名前を指差した。
「『折原修』さんなんだって!」
その名前を、三人は胸に刻んだ。いつかこんな素晴らしいアニメを作る人に会ってみたい——そんな憧れと共に。
***
楽屋に戻って、ゆめはまだ動悸が収まらなかった。
まさか、本当に会えるなんて。
中学生の頃から憧れ続けた人。自分たちがアニメの世界に興味を持つきっかけをくれた人。その人が、今度は自分たちのファンとして現れた。
「運命かもしれへん」
まこが呟いた。
「...偶然にしては」
ちさも頷く。
ゆめは二人を見つめた。5年間アイドルとして活動し、頂点まで登りつめた。でも、心の奥にはずっと、あの日感じた衝撃が残っている。
「ねぇ、そろそろ——」
言いかけて、ゆめは口を閉じた。
まだ、時期じゃない。でも、今日の出会いは、きっと何かの始まりだ。
窓の外では、東京の街が夕暮れに染まり始めていた。
【お礼】
ここまでお読みくださった方、本当にありがとうございます。
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これからも続けていけるよう、頑張っていきます。どうぞよろしくお願いします!
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