Destiny──The stories of someday.
ビスマス工房
Story#000001:EDEN
私たちがかつて暮らしていた世界は、一万三千九百八十七年前に原因不明の氷河期に見舞われ、大地は氷に閉ざされた。人間は地上を離れ、遥か空の上や深い海の底、地下深くや宇宙空間などに造ったアルコロジー型居住施設に逃げた。
その数多いアルコロジーは、エリクス結晶機械複合演算エネルギー循環システムにより生産と消費が自己完結しているという代物だ。先史時代に存在した、周囲のエネルギーを吸収して放出し循環させ続ける結晶機械を動力源として造られたという説があるが、真相は定かではない。
私たちが現在暮らす空中ドームシティ“EDEN”は、そんなアルコロジーの一つだ。この空中都市の中には古代文明で語られていた平面地球の陸地と海洋が再現されており、十一の都市が存在する。人工的な太陽とその月が天井を巡り、夜間は月や星々、オーロラ等が天井に映し出される。
十一の都市は中央部の氷極に近い順にモスクワ、ロヴァニエミ、ロンドン、ニューヨーク、上海、扶桑、ヴェネツィア、カーブル、ラゴス、アオテアロアとなっている。昔はアオテアロアより外周にもう一つ、小さな都市があったらしいが、七百五十六年前のドーム外壁亀裂動乱の際に連絡が取れなくなり、それ以来無いものとして扱われている。
EDENの環境は、かつての地上の温暖湿潤ながらも各地で様相の異なる気候が再現されているが、ドーム外壁に亀裂が入ってから外海を囲むように氷に閉ざされ、今も氷壁は忍び寄るように範囲を拡大している。
それでもどの地域も自然豊かだった頃の地上の環境が綺麗に再現されていて、扶桑などは過ごしやすく明瞭に四季を感じられる。 なのでこのEDENに生活する誰もがこの環境寒冷化に注目することはなく、それにより徐々に変わりゆく環境の異変にも目を止めることはなかった。
多くの人はこのドームがある限り、そしてエリクスエネルギー循環システムがある限り、この先進的な生活は守られ、何事にも揺るがないと考えている。だが、人々が考えているほど、現状は甘くはない。
現在、世界430か所に存在するアルコロジーの生活を支えている結晶はエネルギー吸収を止めているものが多く、循環速度も年々緩やかなものとなっており、結晶機械そのものの寿命が来ようとしているという説さえ出ている。
私たちに残された道は、二つある。アルコロジーと心中するか、アルコロジーを出て行き、“未来”を探すか。どちらを選ぶのかは私たち次第だ。だが、どちらを選ぶにしても、私たちはこの巨大な運命に抗わなくてはならない。
本当の意味で自由に生きるには、どうしても闘争が必要であり、運命と闘わずして平穏は得られないのだから。
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