第2話/新世代
山口舞は小さく息を吸い込み、机に肘をつきながら目を輝かせて語り始めた。「私がBLJと出会ったのも、高校生の頃のことです。当時の私は、正直言ってBLJは“おじさんやおばさんが聴くレトロな音楽”だと思っていました。クラスメイトと話しても、誰も特に興味を示さず、少し時代遅れな印象があったんです。でもある日、友達に『BLJのライブに行かない?』って誘われて……そのときは半信半疑でした。だって、正直ライブなんて生で行くイメージもほとんどなかったですし、ドーム会場って聞いただけで圧倒されちゃって……」
彼女は手を膝の上で握りしめ、少し間を置いた。目は遠くのステージを思い浮かべるように細くなり、口元に微かな笑みが浮かぶ。「でも、実際に会場に足を踏み入れた瞬間、その想像を完全に超えました。ドーム全体を包む照明、音響、ステージ演出のすべてが圧倒的で、まるで別世界に連れて行かれたみたいでした。スクリーンに映し出されるメンバーの表情や、光が弾けるたびに湧き上がる歓声……体の奥まで音楽の振動が伝わって、心臓が持って行かれるような感覚になったんです。」
指先で机を軽く叩きながら話を続ける。「その瞬間、私は全身で音楽を受け止めていました。BLJって、ただの音楽じゃない。音の洪水に飲み込まれる感覚というか、会場全体がひとつになって、時間も空間も飛び越えちゃうような……。その日を境に、私は一発でハマってしまったんです。家に帰っても頭の中であの音楽がずっと鳴り止まなくて、友達と『もう絶対次のライブも行こうね!』って約束したくらいです。」
八人のファンたちは静かに聞き入り、世代を超えた時間の厚みを感じ取った。舞の声から、ただの音楽ファンではなく、初めて音楽に心を奪われた瞬間の熱量が鮮やかに伝わってきた。その興奮は、聞く者の胸にも自然に波紋を広げた。
「それからというもの、私はBLJの追っかけに夢中になりました。アルバムを聴き漁り、SNSや掲示板で情報を集め、ライブのチケットは発売と同時に手に入れるようにしました。初めて行ったツアーは地方の小さな会場でしたけど、そこで出会った年上のファンの方たちの知識と情熱に圧倒されて……その人たちと話すことで、BLJの魅力をさらに深く知ることができたんです。」
舞の目は輝きを増し、言葉に抑揚がつく。「そして、次第に私は他世代のファンとも自然に交流するようになりました。高校生の私が、仕事や家庭でBLJを追いかけてきた三浦さんや遠藤さんたちと、ライブの感想や思い出話を交わすなんて、当時の私には想像もできなかったことです。でも、同じ音楽を愛する者同士という共通点があるからか、世代を超えた友情が生まれていくんですよね。」
彼女は少し笑い、肩をすくめた。「ライブ会場では、偶然隣の席になった50代や60代のファンの方々と話すこともありました。彼らはBLJの黎明期から追いかけていて、私がまだ高校生だった頃の話やツアーの裏話を教えてくれました。例えば、初期のツアーで起きた小さなハプニングや、メンバーの楽屋での些細なやり取り……そんな話を聞くたび、音楽の歴史を肌で感じられるんです。」
舞はグラスを手に取り、軽く回しながら続けた。「私が参加したオフ会やSNSでの交流も面白い経験でした。BLJの話題で年齢も住んでいる場所も違う人たちがつながり、ライブ後に情報交換をしたり、コレクションやグッズの話で盛り上がったり。そういう場面で、初めて会った人とでも共通の興奮や感動を分かち合えるんだって知ったんです。」
声のトーンが徐々に落ち着き、語りは少し感慨深くなる。「BLJに出会ったあの日、あのドームでの衝撃をきっかけに、私は音楽を追いかけることの喜び、世代を超えた人たちとの交流の楽しさ、そして、単なる聴衆ではなく一緒に体験を共有する存在になれることを知りました。それは私にとって、青春の延長線上にある特別な時間で、今でも思い出すと胸が熱くなるんです。」
八人のファンたちは静かに頷き、各々の思い出や感情が自然と重なり合った。舞の語りは、単なる個人的な体験談ではなく、BLJというモンスターバンドを中心に、世代や距離を超えてファンたちがつながる瞬間を体現していた。その情熱と熱量は、聞く者の胸に深く刻まれ、場の空気を一層豊かにした。
小林悠は少し照れくさそうに笑いながら、手元のスマートフォンをいじりつつ語り始めた。「僕がBLJを知ったのは、正直に言うと、友達の山口舞さんに勧められたからなんです。それまで僕は、学校の部活でギターを弾くくらいで、音楽は自分の世界だけのものだと思っていました。でも舞さんに『ライブ行こうよ』って誘われて、初めてBLJのライブに足を運んだんです。」
「最初の印象は、もう圧倒的でした。ステージの光と音の洪水に、体が震えるというか、全身で音を感じられる感覚……それまでの部活の練習とは比べ物にならないくらい、エネルギーに満ちていました。僕の周りには同じくらいの年の子もいたけれど、意外と年上の方々もいて、みんな目を輝かせているんです。おじさん、おばさん世代がこんなにも音楽に熱中していることに、正直びっくりしました。」
彼は少し息を整え、言葉を続ける。「ライブを見て、ギターのフレーズを真似したり、リズムを覚えたりすることが、自分の部活だけでは味わえなかった楽しさや喜びに繋がることに気づきました。僕はコピーばかりしていましたが、舞さんや他のファンと一緒に話したり、SNSで情報を交換したりする中で、音楽が個人の趣味だけじゃなくて、コミュニティや友情の架け橋にもなるんだなって理解するようになったんです。」
「それからは、ライブのチケットが取れる限り行くようにしました。学校の課題や部活の練習もあるけれど、BLJの新しいアルバムやライブ情報を追いかけることが、毎日の楽しみになったんです。最初はただの偶然の出会いだったのに、気づけばBLJを通じて友達や先輩、同世代のファンたちと繋がり、音楽を通して新しい世界が広がっていくのを感じました。」
悠は視線を上げ、少し真剣な表情になった。「そして、ライブに行くたびに、ステージ上のメンバーの一つ一つの動き、声、演奏の隅々まで感じ取りたいと思うようになりました。コピーして学んだフレーズが、実際のライブでどう生きているのか、どんなニュアンスがあるのか。そういう細かい部分に目を向けることが、自分の演奏や音楽への理解を深めることにも繋がったんです。」
「BLJの音楽は、ただ聴いて楽しむだけじゃなく、自分で奏でたり、仲間と語り合ったりすることで、何倍も深みを増すんだなって実感しました。そして今こうして、舞さんや他の世代のファンと一緒に話すと、音楽の力で世代を超えた繋がりが生まれることを実感します。僕にとってBLJは、憧れであり、学びであり、仲間との絆を強くしてくれる存在です。」
彼の声には、10代ならではの初々しさと、音楽を通じた成長への誇りが混ざっていた。八人のファンたちは静かに耳を傾け、若い世代が体験するBLJのライブの熱量と情熱、そして音楽を通じた友情の芽生えに共感しながら、世代を超えた共通体験の重みを改めて感じていた。
三浦亮太は、少し肩をすくめながら語り始めた。「僕がBLJに夢中になったのは、高校生の頃です。正直言って、当時は部活や受験勉強に追われる毎日で、音楽に没頭する時間なんてほとんどありませんでした。でも、友達が貸してくれたBLJのデビューアルバムを聴いた瞬間、心が揺さぶられたんです。曲の一つ一つが、同世代の自分の気持ちや葛藤にぴったり重なるようで、すぐに夢中になりました。」
「その頃の僕にとって、BLJの音楽は青春の象徴であり、逃げ場でした。学校での窮屈な日常も、電車の中でヘッドホン越しに聞くBLJの曲で、一気に色彩を帯びた世界に変わるんです。部活やバイトで疲れて帰宅しても、曲を聴くだけで元気が湧く。友達とライブの話をしながら盛り上がったり、アルバムのリリース日を心待ちにする日々が続きました。」
三浦は少し笑い、視線を遠くに向ける。「初めてライブに行ったときの衝撃は、今でも忘れられません。ステージ上で朝倉祐真さんが歌う声が胸に響き、神谷竜二さんのギターのフレーズが肌を刺すように鋭く、白石慎吾さんのドラムが鼓動のように体を揺らす。村瀬剛士さんのベースと玲奈さんの鍵盤が絡み合い、音の波が客席全体を覆う。あの圧倒的な空気の中で、僕は一瞬にして日常を忘れ、青春そのものを取り戻したような気持ちになったんです。」
遠藤真希も、静かに微笑みながら口を開いた。「私がBLJに出会ったのは大学生の頃です。写真を学ぶ学生として、音楽やアートには自然と興味があったんです。BLJは当時すでに活動を続けていたので、過去のライブ映像やアルバムを遡って見ることから始めました。初めて生でライブを見たときは、ステージの演出、照明、音の構造、そしてメンバーの息遣いまで、全てが写真に収めたいほど鮮烈で……心を奪われました。」
「それからは、ライブ会場でのスナップ撮影やファンの表情の記録も楽しみのひとつになりました。音楽だけでなく、写真を通して人々が音楽にどう反応するのか、空気や感情を切り取る作業が日常になったんです。BLJを追いかけることで、音楽と写真、二つの世界を同時に学べることにワクワクしていました。」
三浦と遠藤の語りを聞きながら、山口舞や小林悠は頷き、目を輝かせた。自分たちの新しいライブ体験やSNSでの情報交換だけでなく、十数年前に青春をBLJと共に過ごした世代の熱量、音楽に捧げた時間の厚みを感じたのだ。
「世代を超えて、同じ音楽で心が動かされる瞬間って、本当にすごいですよね」と舞が口を挟むと、悠も微笑んだ。「そうですね。僕たちはまだ若いけれど、こうして先輩たちの話を聞くと、自分たちも音楽を通じて時間を共有しているんだなって実感します。」
三浦は少し目を細め、遠くを見ながら言った。「僕らが青春をBLJに捧げた時間も、今の君たちと同じように、音楽を通じて心を震わせていたんだと思います。音楽は、世代を超えて共鳴するんです。」
遠藤も頷き、「だからこそ、今日こうして八人が集まって、同じステージを愛する話ができることが、とても貴重なんです。BLJの音楽は、単なる曲やライブではなく、人と人をつなぐ力があるんだと思います」と付け加えた。
八人のファンたちは、世代を超えた経験と想いを共有し、静かにその重みを受け止めていた。田村秀雄と加藤京子が体験してきた黎明期のBLJの熱狂、三浦と遠藤の青春期の追体験、そして山口と悠の新世代の熱量が、ひとつの場で交錯する。音楽がもたらす時間の連鎖、世代を超えた絆の存在を、全員が肌で感じた瞬間だった。
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