アルクトゥルスに黄金を狩る

雨宮いろり・浅木伊都

序章

 銀色の列車が、赤い大地を切り裂くように走ってゆく。

 その列車に、乳白色の触手が絡みつく。

 北稜ほくりょう大陸に蔓延る食虫花の触手は、どこか白い大蛇にも似て、緩やかに確実に列車を締めあげていた。

 触手は、列車の上に立つシュロたちにも襲い掛かる。シュロは右腕で攻撃をいなし、ぐっと掴んで触手を引き寄せると、右手に魔術を展開する。


切断バウワウ断裂バウ!」


 シュロの口に装着された<拡張>エクステを通じて発せられた短い音韻キーが、魔術陣を展開。シュロの右手に太いダガーナイフを出現させる。

 魔術で威力を底上げされたナイフが、食虫花の触手をなます切りにしていった。けれど切った先から再生するので、シュロは顔を歪めた。


「きりがねえな……リン!」

「分かってる!」


 燃えるような赤毛を翻し、シュロの横に立ったのはリンだ。

 爛々と輝くピジョンブラッドの瞳が、線路の向こうに立ちはだかる異形の植物を射抜く。

 その植物の頭上に、鉄の門が現れた。この世ならざる殺気を放っている。

 赤く煮えたぎるマグマを零しながら、地獄の門が開いてゆく。


 大輪の花が開花する時のように。

 昏い秘密をそっと明かすように。

 地獄の門はその顎をゆっくりと開き、異形の食虫花をその門の中に招じ入れる。

 

 地獄の焔が食虫花を舐め尽くしてゆくのを一瞥し、リンは顔を上げた。

 シュロはこっそりとリンの横顔を伺う。地獄の門を開くことが出来る唯一の少女は、地獄の焔をそのまま写し取ったような目の色で、線路の向こう――彼らの目的地を見つめている。

 ほのかに上気した頬が、リンをより一層魅力的に見せていた。きっと彼女は笑いながら、妹の方が可愛い、と謙遜するのだろうけれど。

 シュロはこっそり盗み見ていたつもりだったが、彼の視線にリンは気づいていた。柔らかそうな唇をふっと緩ませ、大人びた顔で笑う。


「なに、シュロ」

「何でもない。そろそろ中に戻ろうぜ。もうじきアルクトゥルスの結節点だ」

「うん。……ねえ、アルクトゥルスって、どんな所なんだろうね」

「見当もつかないけど、そうだな。俺たち全員の願いが叶う場所だったら良いと思うよ」

「――そう。そうね」


 リンは少し寂しそうに笑い、赤い髪を翻して踵を返した。

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