第53話
『卒論完成! 研究計画書も問題なし! 大学の卒業は既に問題無し! 面接試験はどうしよう…………』
主は勝手にテンションを上げて、勝手に落ち込んでいる……まあ、ボッチでコミュ障な主にとっては辛い問題だろう。
しかし 能力的には文句のつけようも無い程優秀なので教授としてもボッチでコミュ障である事に目をつぶっても欲しいと思う人材だと思う。
結局のところ面接で問われるのは、院生になってどのような研究をしたいのか、修了後に身に付けた経験やスキルをどのように社会に役立てるかが問われる訳で、それを予め考えて、それを淀みなく話せるように練習しておけば、主を落とす理由が分からない。
いや待て「将来的にはザクⅢ改を造るのが目的ですが、その前段階としてスコープドッグを実用レベルで完成させるのが今の目的です」なんて言い出したらどうなる?
理系にはそういうタイプの人間が少なからず居るとは聞くが、それを期待するのは余りにも分が悪いだろう。
その辺の事は、後ほどじっくりと話し合い、実践的な訓練を行おう。
まあ、今は頑張った主の頭に登って、小さな肉球で頭頂部をモミモミして落ち着かせる。
『ありがとうね。本当にこれ効くわ~』
『研究の進捗が進んで良かったですね』
『これでポリマーリンゲル液の実用化の目途も立ったし、修士になって、その後は博士号を取って…………最終目的のザクⅢ改の背中が見えてきた気がする!』
『ポリマーリンゲル液っぽいのは広く応用が利きますからね』
主はパリマーリンゲル液と主張しているが、常識的にその名称が認められることが無い事を分かっている故の板挟み中で、我はそう呼称し続けている。
『…………』
無言の視線がグサグサと胸に刺さるが、我は負けない。間違った事は言ってない。もしも論文でポリマーリンゲル液と書いて恥をかくのは主なんだから、断固としてそこは譲れない。
そもそも、作中のポリマーリンゲル液と主が作ろうとしている液体は全く違うものだし、大体マッスルシリンダーは液体の膨張と収縮でピストンを動かすものではなく、生体の筋肉の代わりをする繊維の伸縮によりピストンを動かし動力とする。
そしてポリマーリンゲル液は繊維の伸縮運動のエネルギーを供給する役割をして、入される電流は繊維の伸縮運動のトリガーであり制御をするものだ……もっとも設定は明確には書かれておらず、作中のセリフ等から推測するしかないので正解は分からない上に、ボトムズ関連の作品間でもポリマーリンゲル液を含むマッスルシリンダーについての統一された設定さえ無さそうだ。
我も主もボトムズに関してはそこまで詳しくは無い。我は精々オープニングとエンディングのテーマソングを歌詞を見なくてもフルで歌える程度だ……その程度に過ぎない!
特に主が本当に好きなのはザクであり、技術レベル的に再現が困難なモビルスーツよりもアーマードトルーパーの方がハードルが低いからだ。
『今年の夏はお盆などの混雑する時期を避けて、九月の中旬から一週間から十日位の予定で行こうと思うんだけど』
『……主? 貴女の大学の大学院入試の日程は八月下旬から始まり、九月上旬に結果発表でしたよね? 随分と余裕ですね』
『面接の台本作りと練習にモモちゃんが付き合ってくれるなら大丈夫だと思う』 あ、主の至らぬところを補い支えるのがペットの、ペットの……いや、流石にそれはペットの仕事じゃない……
『モモちゃんお願いね』
『はい! 主の為ならば死命を賭して』
我は主をスポイルしてしまう駄目ペットなのかもしれない……そもそもペットは主をスポイルしないけど。
『……それでは旅の目的、または行きたい場所があればお願いします?』
主の希望する場所を効率的に周れる様に計画を立てるのが何時もの我の仕事である。
『今回は札幌から小樽方面に出て、積丹半島を周ってから函館方面に行って、それから海岸線を走って襟裳岬と根室岬、知床までは行きたい……どうせならサロマ湖も見て……こんな所かな?』
『それでは通過する市町村からルートを決めていきましょう。小樽市、そして積丹半島を海沿いに走り、余市町、古平町、積丹町、神恵内村、泊村、岩内町。それから寿都まで海沿いを走り、それからは南に黒松内町を通って長万部で内浦湾(別名、噴火湾とも呼ばれ、丸い形状から大きなカルデラと思う人も多いが、カルデラではない)に出て南下し、そのまま函館市まで出るか、日本で唯一日本海岸と太平洋岸に挟まれる市町村である八雲町を通って日本海側江差町に出るルートがありますので、ある程度骨組みが出来てから時間と宿泊場所の兼ね合いで判断すべきかと思います。函館は有名な観光地を回るだけでも一日では足りないので、二日ほど滞在しても良いと思います。』
『やっぱり函館って良いよね』
『そうですね、異国情緒もある魅力的な街であり、食べ物にも魅力的なものが多く、自然環境にも恵まれています。しかし観光地としての人気に対して様々な面でキャパシティーが足りてない部分が多々ある街でもあるので、今回の旅行を九月以降にしたのは正解だと思います。もしもお盆休みと重なる時期を告げられていたら、我はこの命に懸けても主をお諫め致しました』
『そこまで! そこまでなの?』
『はい、主が脳天気に盆休みの函館などに行った場合は、有名ハンバーガー屋で店に入るのに三十分以上も待ち、そして店内に入れば注文から受け取りまで二時間以上掛かると告げられたショックで、立待岬からピエロの格好で身を投げる事になるかと』
『投げないよ! でも本当にそんなに待つの?』
『待ちます。函館市内でも十三店舗ある中で、人気無さそうな店を選んで行こうが関係なく、全店舗から泣きながら立待岬に向かって走り出す主の姿が目に浮かびます』
実際に我は前々世で「さよならアルルカン!」と叫びながら立待岬から身を投げそうになったくらいの待ち時間を告げられたのだ……今でも心に傷となって残っているよ。
『函館を出てからは海岸線沿いに走り、襟裳岬、根室岬、知床半島、そしてサロマ湖に行くのが主の予定なので、この範囲でプランを考え酔うと思います』
『お願いね』
『それでは一日目の予定は、日本秘湯を守る会の会員宿であり北海道の中でトップクラスの人気を持つ銀婚湯を目的地としたいと思います』
銀児湯は前々世で行った事のある、温泉宿で日帰り入浴だったが驚くほど静かな場所だった。
真夏の山の中、川沿いという状況でセミの声すら、ずっと遠くから僅かに聞こえて来る不思議な感覚だった。
その時は日帰りの為大浴場しか使えなかったが、浴槽の数は内湯が三に露天が七で、広い敷地内の露天風呂を巡るだけでも一日楽しめるとの事で、一度は日帰りではなく宿泊してみたい温泉の一位が銀婚湯でなのである。
『モモちゃんが行きたい温泉なら信じるよ』
『主の了承を頂いたので、初日の計画を詰めていきたいと思います。目的地である銀婚湯までの総移動時間が五時間程度となり露天風呂はじゅうよじは使えないので……多分熊が出るので。チェックイン開始が十三時なので十四時頃には着くようにして温泉巡りをした方が良いと思います。それを前提に予定を考えましょう』
『うん』
『先ずは積丹半島ですが、神威岬の先端まで行きたいと思いますか?』
『あの風が凄い岬だよね』
『はい、高所恐怖症の場合はかなり厳しいルートとなります』
『私は全然平気だよ。本当はそんなに得意じゃなかったけどモモちゃんと一緒に飛んでる内に、むしろ楽しく思えるようになったから、景色が良さそうだし行きたい』
『それでは神威岬を予定に入れます。その場合は駐車場から往復の時間が四十分ほどになるので、景色を眺める時間等を含めて一時間と計算します。家を出るのが六時として、神威岬で景色を観て駐車場に戻るのは九時頃となります。その後、絶対に決めておかなければならないのは昼食を何処でとるかですが、神威岬の駐車場から三時間ほどの距離でハーベスター八雲をお勧めします』
『ハーベスター八雲?』
疑問に思うのは無理もない。認知度は低くはないが決して高くもない。
元は日本ケンタッキーフライドチキン(KFC)の試験農場であり日本KFCの創立メンバーの一人によって創業された。2008年以降は、ファームレストラン形態のハーベスター八雲となるが、フライドチキンの製法はKFCの流れを汲むと言われている。
『前身は日本KFCの試験農場で、フライドチキン以外もとても人気があるファームレストランです』
『うん賛成! でも六時出発だったら、朝ごはんは五時半くらいだよね。お昼は少し早目にして欲しいよ』
『ハーベスター八雲到着は十二時と予想していますが、これには主が途中途中で立ち寄ってソフトクリームを食べたりする時間を含めての時間ですが、開店時間は十時半ですよ』
『……そ、そんなことしないよ。したこともない』
突っ込むのが優しさか、突っ込まないのが優しさか……我には分からなかった。
『ところで主、青の洞窟って見たいですか?』
『小樽にもあるよね?』
……そう言われたら、福島町のとは言えなかった。小樽にあるなら態々遠くまで行って見なくても気軽に行けるんだから。
という訳で、二日目は銀婚湯から国道5号に戻って、そのまま函館に行くしかなくなった。
他の見所である福島城も、城址として天守の外見だけを造っただけで特に歴史的価値もない。まだ石垣だけが残ってた方がまだマシなので、それよりも一本木関門に行ってから五稜郭が見たい。
『二日目はそのまま函館に行くべきですね』
我にはそう告げるしかなかった。
-----------------------------------------------------------------------------さよさよならアルルカン
北海道岩見沢市出身の偉大なる少女小説家(少女が書く小説ではなく、少女向けの小説を書く作家の意。氷室冴子の造語)、氷室冴子の初期作品の短編集のタイトル
当時中学生だったTKZの心に刺さった作品。今の中学生くらいの少年少女でも刺さると思う
アルルカンの意味を調べたら道化師と分かり、フランス語でピエロで、英語でクラウンだから、アルルカンはラテン語か何かの道化師なのかと納得したが、もっと調べなかったせいで
その数十年後に、半沢直樹シリーズでアルルカンと道化師というタイトルに混乱したw
インターネット以前の世界は何かを調べるには向かない世界だったので、TKZが怠け者だったせいではない……この件に関してだけは怠け者じゃない。他の事はともかくw
ちなみにTKZには姉がいて、子供の頃は姉はTKZの漫画や小説を読み、TKZは姉の漫画や小説を読んでいたので、少女漫画だろうが少女小説だろうが読むのに抵抗は一切ない
日本秘湯を守る会
一時は会員宿が二百軒近くに増えたが、2022年には百四十八軒と3/4に減少と実に悲しい現実である。
秘湯温泉の評価をしていた「秘湯温泉 神秘の湯」というサイトも2019年を最後にホームページが消滅してしまった。
一度は行きたかった秘湯が消え、もう一度入りたかった秘湯が消える。秘湯好きには本当に悲しい。
ハーベスター八雲
この作品中では余りお店の名前を出さないが、これに関しては触れないと説明も出来ないので店名を出した
一本木関門
土方歳三最後の地
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