第41話
今夜中に決着を付けたいが、それは難しい。
標的のトセイニンは、北海道最大の反社組織である北海道連合の若頭であり、渡西組の組長なので二ヵ所攻略する必要があるだけではなく、トップのスキャンダルを暴露して終了なんて結末は無い。
今回は本人だけではなく組織自体に強く物理的な干渉を行い弱体化を行わない限り、主の安全と自由を守る事は不可能だろう。
相手は北海道連合という準構成員まで含めると二千人とも言われている犯罪組織。それを相手にして主を守る戦いをする確実な方法は、相手を容赦なく皆殺しにするしか方法は無いし、それをやるのも可能だ。
何せ我はエゾモモンガの身体に龍の力を秘めた化け物だ。こんなのを人の身で相手にするなど悪夢以外あり得ないだろう。
しかし、それは主が望む勝利条件ではない。
そしてニュースで北海道連合全滅の報を聞けば、その実行犯が我である事などすぐに気付き、確実に主は心を痛めるだろう。
それ故に状況は簡単ではなくなってしまう。ま、まあ主の為なら、この程度全然楽勝なんですけどね……はっはっははははぁ~ぁ。
何とか思い付いた方法は、トセイニンを北海道連合の中で失脚させる。その後で孤立した渡西組を解散にまで追い込む。この程度の方法しか我には思いつかなかった。
奴の失脚の条件を絞り込む。
先ずは、裏切り。
次に、仕事上の失態。
そして、不義理。
最後は、金の問題。
この四つだろう。
裏切りは、北海道連合は北海道のみを拠点とする反社組織なので、暴力団としては大組織だが、所謂広域指定暴力団ではない。それでも日本の三大暴力団にも匹敵する勢力だ。
そして、その三大暴力団が北海道の好調な観光業、そして例の半導体開発・製造の拠点としての開発が進む千歳市の利益を狙い水面下での進出に力を入れている状況で、今後、何時抗争が起きてもおかしくはなく、日に日に緊張感が高まっている状況だ。
そこに絡めて、偽情報や証拠でトセイニンの裏切りの絵図を描くにしても情報が余りにも無い……前々世では単なるサラリーマンに過ぎなかったのだから当然の話だ。
仕事上の失敗は、これはトセイニンの若頭としての仕事が分からないので、そこから調べるのは想像したただけでもかなりの時間が掛かると思うので却下。
不義理についても、そういう意味では難しい。
残りは金の問題か……奴が若頭の地位にあるのなら北海道連合の金庫の中が空になり、その原因が一切分からないと言う状況……我がやるのだから必ずそうなる。
その場合はトップから見て責任を問うべき相手は、No.2の立場の人間だけど、金庫が空になっても今晩中にそんな状況になるはずが無い。連中が状況を理解するまで何日掛るんだよ?
こうなれば穏便だけではどうしようもない。多少は荒事になっても仕方ない……と主は分かってくれるはず……だと良いな。
トセイニンを今回の件とは一切関係の無い形で警察に捕まえさせる。
奴が北海道警察と太いパイプがあったとしても、奴を拉致して東京まで運び、拳銃と覚醒剤を持たせて、交番近くの公園にでも転がしておけば即逮捕だろう。
むしろこちらが犯罪者だが、我は最初からアウトローなので文句を言われる筋合いが無い。
法に裁かれるのは法に守られていながら法を破る奴等に課せられる罰であって、最初から法の外に居る我ならOKだ……OKなんだよ!
そうなると我の行動は速かった。
もう慣れてしまった手順で、北海道連合の本拠地のビルに潜入する。
一度中に入ってしまえばこっちのものである。我が家の様に中を自由に動き回り、金庫の中の現金や金塊を見つけ、金庫以上に警戒が厳しかった武器庫と、アタッシュケースや鞄に詰められた麻薬や覚醒剤……おっと日本でも流行しているエトミデートにフェンタニルまでありやがる。
それらが保管されている部屋を見つけ出し、その全てを掻っ攫い【インベントリ】の中に放り込む。
そして、ビルの中を移動しながらスプリンクラーを破壊しつつ四カ所ほどで、ボヤ程度の火を放つ、……ここに居るのは北海道連合の構成員と何らかの関係者なので容赦はしない。
煙に巻かれてパニックになり逃げ惑う連中を尻目に、火から離れていて、ちょっと見つかり難そうな場所に、麻薬と覚醒剤を、入ったアタッシュケースごと放置した。
明日の朝のニュースは楽しい事になりそうだ。
そして犯人は犯行現場を素早く離れるとトセイニンが組長をしている渡西組の事務所へと向かう。
事務所は北海道連合のビルとは比べる事も出来ない程度に小さい。若頭と言っても北海道連合の渡西支店の支店長兼本部の役員と言った状態なのだろう。
それにしても小さい。構成員と準構成員を合わせれば二千人のNo.2の組の割には百人どころか、五十人にでも全員集合するには無理な建物のキャパシティだと思う。
『さてと、こんな時間だからかもしれないが、事務所に詰めてる人間が少ないな』
簡単に侵入して、事務所の中を軽く一周したが八人しか人間がいない。
そういえば2024年の統計では暴力団の構成員の数が統計を始めてから初めて一万人を切ったとか言っていたな。実際、構成員と準構成員で四桁台に乗るのは、三大暴力団と北海道連合の四組織だけだ。
まあ準構成員も含めると二万人位になるそうだが、最大数を叩き出した1960年代初頭では二十万人を超えていたのからすると十分の一になった訳だ。
警察の取り締まりのおかげだ。司法の対暴力団の法律の制定だと言うかもしれないが、実際のところは暴力団と言う組織形態が時世に合わなくなり、新たな形態の犯罪組織へとシフトしているだけで、警察も司法もそれ等に対応する有効な手段もなく二手も三手も後手に回っている状況で、むしろ以前よりも悪くなっている部分さえある。
組長室……そう呼ぶのが正しいのかどうかは知らないが、部屋の中に一人寛ぐトセイニンを発見したので、即時に失神させて身柄を確保……もうただの作業だよ。
今回も金庫を荒らす。
組として規模が小さいだけに、金も薬も拳銃も全てが一つの金庫に入っていたので回収する。
ちなみに渡西組としての仕事関係の帳簿や書類等は金庫ではなく普通に机の袖の引き出しの中にあった。
その中には渡西組の準構成員でもあるアクトという連中の情報も。
やる事を終えた我は、窓を開け放ちトセイニンを【念動】で掴むと東京へと飛び立つ。
無論【風繭】なんて上等なものは使わない……そもそも我には必要ないので使う理由が無いので、【風防】のみを展開して、マッハ15のスピードで……何処かで聞いた事のあるようなフレーズなのでそうした。
到着までは減速を含めて4分間程度、トセイニンは減圧と氷点下30℃。しかも【風繭】とは違い密封状態ではなく、前方からの風だけを後方へと受け流すだけの【風防】では中は、吹き込む強風に晒されて体感温度は氷点下30度どころの騒ぎではないだろうが、我としてはもう少し遠回りしておけば良かったと思うが、その分、見つかりにくい所に転がしておけば良いだろう。
『放置プレイの現場はこの辺で良いとして服装はどうするべきだろう?』
衣服はそのままか、脱がせて周囲に捨て置くか? 下着は武士の情けで残しておくか、マッパにして恥ずかしいポーズに縛り上げておくか……実に悩ましい問題だ。
後の方がトセイニンが追うダメージは増えるが、おっさんに羞恥プレイ的な事をする我のダメージも大きい。
いや、そういう問題ではない。
奴が恥ずかしい格好で多くの人々に目撃される事で、いい歳したおっさんが深夜の公園で全裸で尚且つ口にするのも恥ずかしい格好で発見されてネットで拡散され、ヤクザの組長だと身バレし、しかも渡西組で回収した麻薬や覚醒剤、更には拳銃まで所持していた事で、全国放送の朝のニュースで報道されるだろう。発見時にどんな姿だったかを含めて。
組員だって、そんな恥ずかしい組長に見切りをつけて全員逃げるだろうし、北海道連合側もトセイニンは破門にして関係を否定し、この件の早期沈静化を図るだろう。ついでに渡西組がケツ持ちしているアクトとか言うハングレ連中も逃げるだろう。
つまり、一番厄介だと思っていたトセイニンへの対処が偶然にも終わらせる事が出来たのだ。
『我って天才かもしれない』
トセイニンへを恥辱の極みとしか言い様の無い格好にした後、明日の朝のニュースに間に合う様に、早く発見させる為に拳銃を奴の手に握らせ、地面に向けて全弾発砲させた。
結局、奴を寒い目に遭わせて肺炎でも起こさせてやる事は出来なかったが、今後の奴の生き恥だけの人生を思うと……まっいいかと晴れやかな気分で旭川に向かって飛び立てるというものである。
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