第30話

『到着! 大勝利!』

 まあ、主がお喜びなら良いのですが、でも結局途中から我が運転しましたよね?

『モモちゃん、本当にありがとう!』

 主にも後ろめたさがあったのかどうかは分からないが、そんな風に言われたら何だって許してしまうじゃないですか!


 しかし今はそんな事を言ってる場合じゃない。

『それよりも予定から十五分程遅れています。早くチケットを買って並びましょう』


 駐車場から出ると少し離れた場所文化センターの建物が見えてくる。

 中々に趣のある建物だ。そしてプラネタリウムと展望台の二つのドーム屋根が格好良い。

 この北網圏北見文化センターは普通の科学館とプラネタリウムの組み合わせでは無く、美術館と博物館も一緒になった文字通り北見市民にとっての【文化】センターである……正直羨ましい。

 美術館はともかく博物館は見たかったが、プラネタリウムが終わる時刻が文化センターの閉館時刻なのでどうしようもない。


 まだ水族館も行ってないし、北きつね牧場もまた行きたいと主も思っているので、今度また来て、一日中北見を満喫すれば良い。

 自動車でここまで来るのは大変なので、深夜に札幌と北見の郊外と郊外を【飛行】を使いショートカットして、ネットカフェで一泊すれば良いだろう。北見には鍵付完全個室があるネットカフェがあるので、遅い時間に移動しても問題なく泊まることが出来る。


 車中泊? 車中泊が出来る様にN-BOXは改造されてないし、する気もない。 後部に折り畳みの出来るマットと掛布団、そして枕があれば最低限、一泊程度は我慢出来るだろうが、窓を塞ぐ手段も用意する必要がある。そして車中泊する度に、それらを家から車を停めている駐車場まで運ぶというのも手間が掛かるし、だからと言って車に常備しておくには大荷物になるし、我が【インベントリ】に入れていて、キャンプ場の駐車場に着いてから車の中に出すべきか?

 それで誰かに見られると困る。走行中に出すと、いきなりリアに荷重が掛かると、主の運転技量では無視出来ない確率で事故るだろう。

 そもそも一泊とはいえ主に我慢させる事など我にとっては許される事ではない。 車中泊を考えるなら、主が就職した後にキャンピングカーで街から離れた場所で快適な状態で楽しむべきだろう。


 何とか入場者の列の前の方に並ぶ事が出来たので、問題なく後方の左端の席に座れた。

 プログラムはステラヒーリングという全編生解説という、札幌青少年科学館のプラネタリウムでは廃止された。我の大好きだったプログラムだった。

 全編生解説を止めた後は、テーマを絞って生解説してくれるのも嫌いじゃなかったが、テーマの変更が二か月毎なので、前々世の我が生きていても訪館も二か月に一度になっただろう。そう思うとやはり残念だった。


 久しぶりの全編生解説は、女性解説者とおっさん解説者の間くらいの速さで、やっぱりおっさんに軍配が上がるかな~という感じだ。

 勿論、解説者は他にもいるだろうし一回だけで判断するのは早計だ。せめて十回くらいは観に来てから判断しないと我個人としても申し訳ない。

 だが残念な事に、主だって旭川の科学館サイパルとかリピートしたくなるだろうし、そんなに北見ばかりという訳にはいかないだろう。

 だとするなら、主が大学から直接バイトに行く日に、我一人で北見に行って、季節ごと変わっていくキタキツネとエゾタヌキの姿を満喫してからプラネタリウムで生解説を楽しめば良いだろう。完璧な計画だ……勿論主には内緒だ。絶対にだ。

 あれ? でもステラヒーリングって土曜日だけのプログラムじゃない? そして主は土曜日は大学には行かない…………完!


『ところでモモちゃんって、時間が無くてもその辺のフランチャイズ店で食べようとはあまり言わないよね?』

 夕飯のホタテの干し貝柱の餡掛け焼きそばを食べに行く道中で、いきなり聞いてくる。

『それは、知らない土地に来て、何処でも同じ味で食べられる大手フランチャイズ店で食べるのは何か負けたような気がしませんか?』

『うん、まあ言いたい事は分かるけど、土地鑑も無いのにネット情報だけで美味しいお店を当てるのは難しいよ』

『失敗しても、それはそれで人生の肥やしという事で話のネタにもなりますよ……』

 あぁぁぁっ、旅の思い出を語る相手の居ないボッチ様に我は何て事を言ってしまったんだ。

『……今、モモちゃんが考えた事、私にも分かったよ。とても分かり易かったんだけど?』

『そ、そ、そんな事は……』

『モモちゃんって、私に話せない事を考える時、この【念話】の魔道具の機能を切るよね。だからあのタイミングで切られると、ああ、私には言えない事を考えてるんだなって分かるし、考えてる内容も分かるよ』

 我ってうっかりさん……うっかりじゃ済まねえ! どうする? これは主から我への信用の失墜に関わる重大な問題だ。

 

『土下座した上で謝罪をさせて頂けますか?』

『モモちゃん普段から土下座状態じゃない』

 ……! エゾモモンガは普段は床の上で前後の脚を広げて顎も床に預けて寛いでいる。

 確かに土下座と大して違いの無い姿勢だ。

 それどころか前世の龍種だって巣穴に山ほどの宝物を積み上げて、その上に長い首を投げ出して寝転ぶ。これが日常の体勢で土下座を超える土下寝(どげね)暮らしだ。

 つまり我の土下座は罪の代償になる価値も無いという事である。大の男が土下座しても無意味という虚しさ。だがそんな事よりも他に主に謝罪する方法を考えないと。

『切腹してお詫びします』

『何でそこまで思い詰めてるの? もしかして私の想像の及ばないとんでもなく悪意に満ちたこと考えてたの?』

『いえ……そこまでは、普通にボッチだと』

『それくらいなら怒らないよ』

 いかん、ボッチ呼ばわりをそれ位と認めるのは駄目だ。

『主。ボッチを卒業しましょう?』

『……ねえモモちゃん、ボッチの卒業証書は何処で貰えるの?』

『そんな卒業式はありません』

『そうか……残念』

 残念だと思ってくれているなら、まだ希望があるかもしれない……無いかもしれない。

 今後は注意深く主の周辺を探る必要がある。特に主のアルバイト先の店長が連中と関わりがあるのなら、数少ない会話の出来るバイト仲間との交友関係にも影響が有りかねないから。

 ある意味、アルバイト先は主の生命線とも言える存在だ。

 そこでの人間関係を足掛かりに、多くの人と交友を結んび、やがて伴侶を得て家族として生活を送り、やがて子を生す。

 我が主よりも先に死ぬのならば、家族が主を支えてくれる存在になると信じる事で、安心してこの世を去ることが出来る。

 もしも主よりも我が長く生きるのならば、主の子孫達を見守り続ける事が我の生きる理由になってくれるだろう。



 その後、この旅行の予定を大きく狂わせることが起きた。

『……天気が悪くなっちゃたね』

 夕食を終えて店を出ると、そう長くもなかった時間で空模様は全く変わっていた。

 北から流れ込んで来た雲が雪を降らせている。

『そうですね。流石にこれだけ分厚い雲と雪だと天体観測は難しいと思います』

 主と共に肩を落としたが、今回の天文観望会のテーマは【南半球の星空&天文クイズ大会】で、望遠鏡での星を見足り撮影する事は出来なかったが、プラネタリウムでの投影でのクイズは良かった。

 主も子供達と一緒に、元気に答えていた……うん、無理なく小学生の中で馴染んでいて違和感を全く感じない。

 そこで気付いた。主がボッチなのは性格の問題だけじゃなく、容姿が同じ年頃が集まる学校という集団の中で、明らかに自分達よりずっと年下に見える主に対して、どう接したらいいのか分からなくなってしまっている可能性がある。

 これは大問題だ。主の見掛けを変える事は出来ない。今更身長は伸びないし、体形も太る以外に大きな変化は望めそうもないだろう。

 困った。本当に困った。何が困ったかと言うと、何とか出来ない事も無いのだ。

 だがその方法が良くない。


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>@bug_fish

上げて落とすの可哀想すぎるw ––


批評とは良い事にも悪い事にも触れるべきで、完全に好評だけとかそういうのは珍しいと思うので、普通批評をするなら上げて落とすか、落として上げるかの二通りだと思うよ


しかし上映開始から四日目となり、益々批判が凄すぎて笑える

2025年最低の映画とか叩かれてるけど、そんな事言ってる奴は今年の映画全部は観てるわけじゃないだろうw

多分、時をかける少女やサマーウォーズが好きで、細田守への期待が大き過ぎて、何故同じレベルの作品が作れないんだと裏切られた感が強く、可愛さ余って憎さ百倍的な気分で叩いているんだろうな……よく分かる!


だけど、そんなに叩かれても細田守は「海外で評価されれば良いんだも~ん」と思ってるよきっと

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