第6話

「モモちゃん、ごめんねバイト先は食べ物も扱うから、お店に迷惑が掛かるからもしれないから家に居てね」

 大学から一度家に戻り、我の為に水と餌を用意した主は、そう詫びると、足早に居間を出て、バイト先に向かった。

 謝られなくてもバイトにはご一緒しませんよ。我にはやる事がありますから。

 そう我の作戦はまだ終わってはいない。連中が今回の件で主に八つ当たりしないか確認をする必要がある。

 出来れば八つ当たりとか考えないで欲しいな。我の趣味は有頂天な奴を躓かせて、落ちる所まで落とす事で、もう落ちてしまった奴にはあまり興味がない。

 水に落ちた犬を打つのは面白くない。やっぱり上げて落とすのが、やられる方には落差が大きいので効果的かつサイコーだ。


 まあ、喜びの無い義務的な作業とはいえ、手を抜く気はなく、むしろ徹底的にやるよ。 連中の位置が分かる様に直径3㎜程の小さな屑魔石を講義室に居た連中の服や持ち物のポケットの中に幾つか放り込んでおいた。

 万物に魔力が宿っていた異世界の方では屑魔石では効果はかなり限定的だが、魔力が無いこちらの世界では、屑魔石程度の魔力でも半径数十㎞程度の範囲でも魔石の位置を特定可能だ。



『案の定。主犯の三人と、その取り巻きの五人。それから同調者の中の一人が一か所に集まっているな』

 場所は大学から500m位離れた場所にあるカラオケ屋だったので、躊躇うことなく侵入する。気付くまい。これほど我が傍にいる気付くまい。見つけたならば「キャー可愛い!」と喜ばずにはいられない我に気付けなくて残念だったな。

 そんな事を考えながら、連中がいる部屋の扉をドリンクを持って来た店員と共に通り抜けた。


 流石にカラオケで歌を唄う気分ではなく、かと言って冷静に声を抑えて話せる状況でもなかったのだろう。そういう意味ではカラオケを利用するのは良い考えだ。だから精々油断して本音で、これから行う悪事について、熱の籠った話し合いをしてくれよ。


「絶対におかしい。私達三人のスマホがいきなり同時に鳴り出すなんてありえない!」

 主犯の三人の一人がそう叫ぶ。

「おかしいよね。でもどうやって、そんな事が出来るの?」

「とにかく、私達がやってないという証拠を見つけなければ退学だわ」

「三人同時というのが問題だよ。そんな事をするはずが無いとも考えられるけど、逆に考えると三人が共謀したありえないくらいに悪質な行為とも考えられるよな」

 その通りだよ。我の作戦の目的は繰り返す事で講義を邪魔された教授が怒りを貯め込み、そして貯め込まれた怒りは冷静な判断力を失いさせて、自分の怒りに沿った判断をしたくなる様に仕向ける事だ。

 そもそも今時は、相手に迷惑をかけて、それに対して怒る相手を嘲笑して動画再生回数を稼ぐ配信者なんて幾らでも居るのだから、被害を受けた側が相手に悪意があったと判断してしまう材料に事欠かない。


「何よ! 私達がわざとやったと言いたいの?」

「そうは言ってない。ただ状況はかなり不利で逆転させるには、真犯人を見つける必要がある」

「見つけられるの?」

「いや、それは難しいんじゃない?」

「だったらなんだって言うのよ!」

「真犯人が居ないなら、真犯人を仕立て上げるってどう?」

 この糞っぷりに、仕掛けた我でさえ、こいつ中々才能があるなと思った。

「へぇ~、良いじゃない。それで真犯人にする相手は誰?」

「高坂が良いんじゃない?」

「それ良いわね」

「あいつは大学で孤立していて庇ってくれる奴もいないから、真犯人に仕立てるのは難しくないと思うよ」

 ……この場で我に殺されなかったことを必ず後悔させてやる。今後お前達が人生に少しでも幸せを感じたなら、必ず我が現れて不幸のどん底に突き落としてやるよ……何度でもな。


 奴等の発言等は全て先日手に入れたカメラで録画してあるので、編集してお前達の誰かのスマホから動画配信してやろう。

 お前達の立場のみならず、どん底の人生を送る仲間同士の絆も残らず全部破壊してやる。


 一度家に戻り、九時過ぎに帰ってきた主と食事をし、荒んだ心がモフられて少し落ち着いたが、連中に対する怒りは消える事はない。


 深夜になり主が寝ているのを確認すると家から脱出する。

 そのまま近場のネットカフェに侵入し、各ブースを確認して客が寝ている部屋を見つけ出すとパソコンにインストール済みの某無料動画編集ソフトを起動する。

 動画編集ソフトには詳しくはないが、単純にタイムライン上でカット編集するだけなら使用方法を検索した動画で見ながら作業してどうにかなった。

 その後、眠っている客の財布の中に迷惑料として3万円を入れて……良い夢見ろよと告げて立ち去った……日本語じゃないモモンガ語だけどな。


 次に例の九人の内の一人、同調者の部屋を訪ねたかったのだが、実を言うと講義室に居た全員に適当に屑魔石を仕込んだので、九人の家が何処なのか分からずに総当たり戦になってしまい、結局目的の部屋に辿り着く頃には朝方になっていた。

 スマホがベッドの枕の傍に置いてあったので、早速確認すると指紋認証タイプだったのでスマホのセンサー部分に人差し指の指紋部分を押し付けるとロックが解除された。

 どうやらSNSで書き込みしながら寝落ちしたようだったので、Bluetooth接続でカメラとペアリングして動画のデータをアップしてやった。

 夜行性の我が一日中動き回っていたので酷く眠たく、一秒でも早く家に帰りたかった。


------------------------------------------------------------------------------------------------

昨日投稿出来なかったので追加です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る