第4話
主について調べていると、主には関係ないが無視出来ない情報があった。
『カレンダーで大体察しはついていたが、最初の人生で死んだ時と、三度目の転生でエゾモモンガなった時がそれほど違わない様だ。それなら元のおっさんで良いから人間に転生したかったよ』
魔龍だった三百年は長過ぎて、まだ魔龍としての記憶なら三百年でもしっかりと憶えているだろうが、人間の頃の記憶の強度が低いのだと思う。その為か我が死んだ時の正確な日時や状況はぼんやりとして思い出せない。だが分かる範囲で最後の仕事の状況から大まかにだが絞り込んでみると最大でも前後三日程度のズレしかないのは確かだと思う。
本来なら存在する三百年以上の時間のズレが最大で前後三日程度に圧縮されているなら、逆に時間のズレ自体が存在せず、我は死ぬのと同時に異世界からこの世界に転生したと考えた方が納得出来る気がした。
そのズレを突き詰める方法はある。前々世の自分の事を調べてみる事だ。
我が死後に墓に入れたかどうかは分からない。両親の骨を納めた墓はあるが、両親は身寄りのない人だったので我には兄弟も親戚が居なかった。だから我の遺骨を両親と同じ墓に入れる手続きがされたとは思わない。
会社がある程度の事はしてくれたかもしれないが、遺族でもないので出来る事は限られるし、今後の墓の維持をする人間が居ないので墓自体もその内取り壊されるだろう。
考えれば考える程、現状を知りたくないと思い、そんな状況を態々確認しようという気にはなれなかった。
だから、我は人間として死んだ直後、異世界で魔龍族に転生して、異世界での時間の経過を無視して、元の世界でエゾモモンガに転生した……うん、それで良いさ。
自分の事に納得したので改めて主の事を調べていく。
『主の年齢は二十歳で、誕生日は……あれっ? 我を拾った日じゃないか』
何か運命めいたものを感じるが、そもそも誕生日に夕暮れ迫る時間帯に、家から離れた円山周辺の公園まで地下鉄を乗り継いでまで来て、自分の胸の下の高さまで雪が積もった場所にある、小さな穴から我を拾う状況って何んだ? 聡明な我でもよく分からん。
しかし、そうせざるを得ない理由があったとして、それが主にとって望んだものでないのなら、その全ての問題を取り除くのが我の役目だ。雪よりもほんの少しだけ温かく、そして何よりも、その手で抱き上げてくれた。その恩に報いる事にエゾモモンガとしての今生の全てを使い尽くす事に、今も何の迷いもない。
『やりますよ主。貴女のペットが小さくて可愛いだけの存在ではない事を証明して見せます!』
『ネットで調べられる事には限界があるから、実際にこの目で確認する為には行動の自由を得る必要がある』
それに関して障害はない。ケージを脱出するのに使った【念動】を使えば、部屋の窓の鍵の開け閉めも可能で、そして移動に関してもエゾモモンガにはある程度の滑空能力があるが、魔龍の力を受け継いだこの身には完全な飛行能力が備わっている。
その能力は【飛行】というスキルであり、特に翼は必要ない。
実際、物理法則に則っ考えれば龍が空を飛べるはずがない。我も立派な翼を持っていたが、あんなものは飾りであり、とても我の巨体の質量を飛ばせる力などある訳もない。
一般的に生物の骨や皮膚等の強度で飛行に堪えうる質量は20kg程度で、その限界を超えて大きくなれば飛べなくなる。
飛行能力を持つ一番重い鳥と言われるアンデスコンドルでも最大で15kg程度。
これは、獲物を捕らえて飛んだり、気流などの影響の負荷などのマージンを含めると、それが限界に近い為だろう。
つまり異世界において龍種を含めて、体重が数百kgから千kgを超えるクラスの大型の魔獣などが飛行出来るのは全てスキル為せる業である。
そして我に至っては、仮に衝撃波を出しても良いならば、超音速どころか極超音速で、上空三万mを飛ぶSR-71をぶっち切り、米軍パイロット涙目にしてやろうではないか……うん、何て無駄なスペック。
更に【隠形】の魔法を使えば、ただでさえ見つけ難い小さな身体を、見つけるのが不可能なレベルにまでにすることが可能だ。そして身体の小ささは狭い場所に潜り込む事を可能とする。
つまり調査の成功は約束されたようなもので。もう何も怖くない!
『そうなると調査の為の活動費が欲しい』
必要なものは盗むという手段も考えられる。そして我の能力はそれを可能とする。
しかし真っ当な商売をしている店から物を盗むなんて不名誉な真似など、ペットとして主の名に懸けて出来ない。
つまり宝探しだ。この世には表に出せない金というものが存在する
そう、誰かに発見されても「それ私のお金です! 返して下さい」と名乗り出る事など決して出来ない金の事である。
そのほとんどは犯罪行為で入手した金か、納税逃れで税務署から隠している金で、ほとぼりが冷めるまで表に出すことの出来ないモノである。
そいつを頂いて使わせて貰うのだが、まあ表に出してはいけない金が表に出た事で、金を隠していた奴等にとって不都合な状況になっても、所詮は犯罪者の類だから、こちらが気にする必要などないだろう。
むしろ経済活動と言う名の金が流れる川からはぐれたお宝が、なんやかんやで川に合流し経済活動の一端を担う事になるのならば、それはこの国にとっても素晴らしい事だよ……という詭弁だよ。
『よし宝探しだ』
宝を探し出すのは得意だ。前に触れたように龍と言えば宝物というほど龍種は自分の巣穴に大量の金銀財宝を貯め込んでしまう習性を持つ。
その宝物をどうやって集めるのかというと【宝探し】という龍種のユニーク魔法があり、長期間使われずに死蔵されている宝物を発見する事が出来る。
そして龍種の子は巣立ち前には【飛翔】スキル等と一緒に【宝探し】を身に付け、他にも【インベントリ】【念動】等の必須な能力を身に付けるのだった。
逆に言うとそれらを含めたスキルや魔法を身に付ける事で初めて巣立ちが認められる。
そして我は、我が身を振り返ってみると龍種の中でもかなり宝物好きだったと思う。そのため【宝探し】魔法は磨き上げられ【宝探し・極み】に成長しているので、半径百㎞程度の範囲……実際はもっと広いのだが、異世界と現実世界の度量法の正確な換算方法を知らないのでかなり適当だ。何せ魔龍として全力全開の戦闘モードになると我の身体は多分百mは越えていたと思う。 これは異世界の人間の身長が現実世界と同じ程度という前提での話で、実際はどうなのかは知らない。
現実世界のメートル法は地球を前提としたもので、異世界で生活していた惑星とでは重力の大きさも違うだろうから、感覚から導いた一秒と重力加速度で大雑把に十mを割り出す方法も使えない。
何故なら我が肉体は人類とはかけ離れた強度を持っているので、もしも地球に比べてこの惑星の重力が倍だっとしても特に疑問を持つことなく受け入れると思う。
更に言うと魔龍族の寿命の長さからして時間感覚がどうなっているのかも分からないので、一秒と言う感覚もあてにはならないだろう。
同じ物理法則に依存する世界であるなら、時間と長さを求める共通の指標となるのは光の速さだが魔龍の超感覚をもってしても光の速さを捉える事は不可能であり、魔法文明によって支えられている異世界では、光の速さを測定出来る機器など存在しない。
『よし、主が帰ってくる前に一狩り済ませるか』
窓を開けて外に出て、外側から窓を閉めて【念動】で鍵を掛ける。
街の喧騒を避けて主の住む学生街から数百メートルほど離れた二十階越えの高層マンションの屋上に移動する。
『こうしてみると、札幌も空気は汚れているな』
魔法文明の異世界は、人口爆発を起こせる程の恩恵を全人類に与える事は出来なかったので、地球と比べると圧倒的に自然が豊かだ。
こうしてみると「自然環境がぁ~」と叫ぶ暇があれば先ずはお前がこの世からさっさと退場しろと言われても仕方がない程、人類文明こそが自然環境の敵だと分かる。
そんな感傷に浸りながらも早速、軽く南区の一部を除く札幌の全域と当別・江別・北広島の一部にかけて【宝探し】を発動した。
『うわっ! 表に出せない隠れたお宝が多過ぎ』
想像を超える数に驚くしかなかった。最低限一か所百万円だと考えても、札幌市の税収が爆上がりレベルの金額になるだろう。
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