【番組名・本書く各人(特別編)】
【未使用映像】撮影機材・小型カムコーダー
画面半分の机表面、ピントが定まらずふわふわとしている。机奥には手を組む男性。
「はい…っと、本当にありがとうございました、すみません、機械に不慣れなもので!ほんとうにすみません!スムーズに収録出来なくて!」
机の手前から置かれる手、ピントが合う。赤いネイルをした女性の手。
「いえいえ、こちらこそすみません。急にOK出してしまったのはこちらですから」
「ほんとうに、本当にありがとうございます!…でも、ちょっとだけ聞きたい事があるのですが…撮影はしてないんで大丈夫です、オフレコって事で」
「ええ、無理をさせたのはこちらですから、何でも」
「ええ、では、まず個人的な話なんですが…そもそも先生は四国の人ではありませんよね?」
「ええ、東京に部屋を借りております」
「なるほど…で、今回は四国に遊びに来らしていると」
「はい、そうです」
「そこで急に思いついたように四国で大きな番組のインタビューを受ける気になったと?」
「はい、その通りです」
「…流石にそれは嘘というか本当のことがありますよね」
「…そうですね、本当にオフレコでお願いしますね」
「間違いなく!」
「…私の出版した本は知ってますよね?」
「青春モキュメンタリーホラー【青く爛れた春】、100万部突破の大ベストセラーですよね。男女の甘酸っぱい青春ストーリーをライン文面を用いた斬新な視点から描く前編!その裏に隠された爛れた性、そしてとあるからくりを紐解くと分かる後編!そこからのホラー展開はまさに神憑り!!!」
「ありがとうございます…実はこの作品にはモデルになった事件があるんです」
「そうなんですか?」
「ええ、アペラノで起きた殺人事件、覚えてます?」
「ああ…一年前?だっけかな?私、その時、中継にも駆り出されたんです!!」
「知ってます」
「え?」
「知ってるからあなたに取材をして欲しかったんです」
「あの、それは?」
「あなたはモキュメンタリーとは何だと思いますか?」
「モキュメンタリー?いや、まあ定義で言えばドキュメンタリー形式のフィクション…であってますか?」
「ええ、その認識で構いません。ですが、私のいる業界ではそうは言いません。我々が言うモキュメンタリーとは現実だと困るドキュメンタリーをそう呼んでいます」
「現実だと困る?ですか?」
「例えばある男を撮影している映像があるとします。それは隠し撮りでほぼ人権を無視したような個人情報をまるだしな代物だとします。それをドキュメンタリーとして放送出来ますか?」
「…無理ですね、昔でも無理ですよ」
「ですが、モキュメンタリーなら可能だ。なんならそこに面白いおまけが付いてたら更にウケる」
「おまけ?」
「ええ、おまけです、脚色と言ってもいい、例えばその男の映像にお化けが写ってたりしたらどうです、そしてそこから男の更なる不幸が続いたりしたら、そこに伏線や設定をつけるとどうなります?」
「青く爛れた春はドキュメンタリーなんですか?」
「…いえ、モキュメンタリーです、間違いなく」
「今の話から推測するとそう思えません、その…失礼ですが…あなたが何かしたんですか…事件を誘導したり…」
沈黙、そして笑い声。
「クク、いや、面白い、いや、すいません、確かにそう推理するのが一般的だ。すみません、話を省きすぎました。まあ、簡単に言えば私はとある真実を買い取ったんです」
「買い取った?もしかしてゴーストライターがいるってことですか?」
「はは、それだったらこんな風に話さないでしょ、私が買い取ったのは真実です、アペラノで起きた殺人事件、それに関する詳細な情報を私は多額の金を使って買いました、ビルが1本立つぐらい払いました、それでも安いものです」
「…やっぱり、どうしても、その人からアイデアを受け取ったとしか聞こえません」
「では現実のドキュメンタリーやノンフィクションはどうですか?現実を参考にしている。それは現実から模倣していると思いませんか?」
「それは…」
「貴方のしている放送の世界だってそうです、面白半分に現実を脚色している時があるでしょ?真実ではなく主観が混ざることもしばしばだ」
「ただ少なくとも多くの個人が発信する情報よりは客観性があると自負しております」
「素晴らしい、あなたのような女性が報道の世界にいるという事実が私の心を震わせる。あなたに会いたかったのはそういう姿勢が見えたからです」
男は深く椅子に座る。
「まあ、貴方達が下請けに危ない仕事をさせている事実に関してはここでは話さない物としましょう」
「…」
「話をもどしましょう。では私は何を買い取ったのか?それはシンプルです。全てです」
「全て?」
「アペラノで同棲していた男女の過去から始まり、間男の過去、事件が起きるまでの流れ、事件が起きた瞬間、それ以降の事件の広がり、そして今の取材、その全てを買い取りました」
「ありえない!!」
女の手が机に叩きつけられる。画面が揺れる。
「警察が来る前に事件現場を撮影する事例はあります!!」
「ナイトクローラーってやつですね、日本でも定着しつつある」
「ですが…ですが事件が起きる前から撮影する人なんて…そんなの理屈が合わない…事件が起きることを予感してないと出来ないじゃないですか!!!」
「ええ、出来る人が世の中にはいます」
「誰ですか?それは?」
沈黙。
「言えるはずがないでしょ?カメラも回ってますし」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます