第13話 仲良しと不仲
琴音が葉山のLINEに、初めてメッセージを送って以来、二人は色々話をした。
今の二人の距離感がどの辺にあるか、相手の立ち位置と自分の立ち位置を確認するように、お互い、自分だけが前に出ることがないように、少しずつ仲良くなった。話す頻度は多かったので、少しずつと言っても期間でいうとあっという間だったが。
それは、毎日の野菜ジュースを買いに行くコンビニで少し話したり、葉山のバイト帰りに家の前で立ち話したり、夕方公園で話したり、夜に通話してみたりしながら、お互い自分からは深く踏み込まず、相手の話を聞いて、自分もここまで進もうと、お互いが遠慮がちに相手をたぐり寄せるように進んで、今では結構な距離まで近づいていた。
琴音は葉山との会話の中で、失恋して全て投げ出した状態で、今は時間が経って、手放したものを再び築き上げて行こうと思えるようになったことも話していた。
葉山は応援すると言ったし、自分は東京で就職するが、いずれは田舎に帰って家業を継がないといけないかもしれないと話した。
葉山も今月半ばでバイトは辞めることになり、お客と店員の関係も終わりに近づいた頃、その日、琴音は今日のお昼ごはんも買うつもりで、コンビニに向かった。今まで通り、慣れた店内の野菜ジュースを手に取り、昼ごはんは何にしようか、店内を物色しようとしていると、レジに入っている葉山と談笑している人物がいた。
琴音の頭にうまく取り込まれなかった人物。一生会いたくない、記憶から追い出そう追い出そうとしていた人物。
──拓海がいる。
何故いるのか、何故葉山と親しそうなのか、何故こちらを見ているのか──。
琴音は固まって動けないまま、葉山と拓海を凝視している。頭が空っぽになって、何を言えばいいのか、何をすればいいのか、何がわからないのかさえわからない。
拓海がこちらに歩いてきている。琴音は動けないまま、こっちに来るなと心では叫んでいる。
お願い、こっち来ないで、関わりたくない、見たくない、話したくない──。
──来た。
「琴音だよね。
元気?こんなところで会うってびっくりだな」
「そうなんですかね、元気です」
あんな別れ方をして、何故そんなにニコニコして話してるんだろうと、半ば不審に思いながら琴音はそっぽを向き、無表情で答えた。
「久しぶりだね。懐かしいなぁ。あのときは急にブロックされたからびっくりしたけど、バイトのときの友達から会社も辞めたって聞かされて、ほんと申し訳なかったって思ったんだ。
琴音は……なんか大人っぽくなったね……。」
「すみません、時間ないので」
話を遮り、琴音は早歩きでレジに向かい、支払いをし、そのまま足早に家に帰った。
玄関に戻ったとき、いつものように上がり框(かまち)に腰掛けた。動きはいつもと同じでも、様々な違和感に苛まれた。
コンビニでの、琴音が店を出るまで一連の行動を拓海はずっと目で追っていた。
それは何か嫌なものが、彼女の身体にまとわりつくような、とても不快な感覚だった。心臓がドキドキしたが、異物が身体を這い回っているような、嫌なドキドキだった。
早く今の状況から脱したいと、思えば思うほど、深みに落ちる気がした。
こんなときは深呼吸と、琴音は急いで深呼吸を繰り返す。
何度も何度も繰り返すと、自分の血が通い始め、無理矢理抜き去られた、自分の中身が返ってきた気がした。
──なんで拓海がいたの?
全く違う場所から、強引に瞬間移動させられたような、あのコンビニのレジ前に全く馴染まない人間──。馴染まないが、実際にあのコンビニにいた。
今まで琴音が少しずつ築いてきたものと、それに伴って築かれてきたものが、少しずつひび割れ、崩れていっている気がした。
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