第11話 勇気と二度寝


 ──大学の食堂は、お昼時で賑わっている。葉山は大学で一番仲良くしている松本と一緒に食堂にいた。


「葉山は他の狙ってる会社はどうすんの?」


「うーん、どうしようかな、本命はなんとかなりそうだけど、一応他も押さえとく方がいいでしょ。

もうちょっとで内定出るだろうし、もうできることも無いけど」


 松本は田舎に戻りたくないらしく、それを優先して就職したい会社を決めている。魅力的な会社が二社あるらしく、それに頭が一杯で、一つ下の彼女の呑気さにイラついているらしかった。


「俺らって今が人生のターニングポイントだと思うのよ。

それを真剣に考えてるときに、パンケーキとかガレットとかうるせーの。

今が人生の大事なときだからとか言ったとするでしょ?

そしたら『寂しい』とか『私のこと大事じゃないの?』とか。

あいつもそろそろ考えないといけない時期だと思うけど、俺に頑張れって感じで、それなのに今の俺に協力的じゃないって、もう関係性としてダメでしょ。

別れようかなぁ」


「まあまあ、別れるにしても今は様子見とけばいいんじゃない?

僕ならこの時期に別れ話はしないかも」


 松本は眉間に皺を寄せて、考えている。勉強もできるし頭もキレる奴だけど、この素直なところが憎めないんだよなと、葉山は少し優しい顔になった。


 松本と別れ、事務所に用事があり向かう途中、葉山は昨日琴音の家に行ったことを考えていた。


 LINE、来ないなぁ。

 昨日行ったときはもう薄暗かったのに、電気も付いていなかった。


 葉山は今は午前中から昼過ぎまで、人が足りないからというので、バイトに入れるときだけ入っている。夕方になることは滅多にないが、たまの夕方、バイトが終わって琴音の家の前を通るとき、電気がついていると安心するような、温かみのような、よくわからない感情を味わっていた。


 昨日はバイトがなかったが、一昨日はバイトだった。

 一昨日、琴音が店に来なかったので、昨日は夕方に用事を見つけて大学の帰りにコンビニに立ち寄ったのだ。


 店長は琴音は昨日も来なかったと言い、まあたまには来ないこともあるだろうと言った。


 葉山は迷った。


 二日ぐらい来なかっただけで、家に行ったりしたら怖がるだろうか。毎日行かないと気にされるからと、余計に気にしてコンビニに来ることが重荷になるだろうか。


 でも気になるし、行ってしまおう。やれば気が済むし、もうそんなに長くバイトも続けていられないから、気まずくなったら辞めればいいや。

 そう思い、琴音の家に向かった──。


 思い切って琴音の家まで来たものの、玄関のチャイムの音も、こんばんはと呼びかけた声も、薄暗くベールを被ったような昼と夜の境目に消えていった。


 今までなら前を通るだけでも感じた、温かみのある光が今は無い。

 温度を感じない家の中に葉山は名残惜しさを感じながら、玄関にビニール袋を置き、少し気温の下がった灰色の町と共に家路へと向かった。


 朝起きてLINEを見ても、目新しいLINEのメッセージはなかった。今日は珍しく、バイトも学校もない。


 ──雨が降ってるのか。

 静かな中に微かにサーっという細雨が染み渡る音と、窓の向こうの水滴がゆっくり不定時に落ちる音。


 葉山は、ぼんやりと目覚めた意識の中、雨が降っている場合の大まかな予定を立てる。

 ──今日は休みだけど、雨降ってるなら家でゆっくりするか。なんかあったっけ?

 お腹空いたからなんか食べたい。まだ雨が強くなさそうだし、その間になんか買ってくるか───。


 考えながら今何時だ?とスマホを見ると14時半……あれ?これ誰だ?


 あ、あの子だ。

 LINE来た!


 葉山は一気に目が覚めた。




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