第7話 青空といらっしゃいませ
外に出ると空が真っ青な良い天気で、煩わしいくらいの歓迎を受けているような気持ちになる。
この前は、いつ出かけたっけ?
あぁ、お母さんたちの結婚記念日の時か。お母さんも、優しい旦那さんもらえてよかったよね。お母さんが幸せだと娘も嬉しいよ。
結婚記念日のお祝いに、自分の娘二人を強引に呼び寄せていちゃつかれるのはどうかと思うけど。
家から出たのはそのときだから、もう二ヶ月は経つよね。まじで外なんか出なくても生活できるな。
今の時代って便利。
あ、ゴミ捨てで外出るのはカウント無しで。
そんなことを思いながらプラプラと歩いていると、あっという間にコンビニの前まで来た。
道を渡るとコンビニのドアの前だ。
このコンビニもすごく近いけど、来たのはいつぶりだろうか。
息を吸って、吐きながら自動ドアの前に立つ。
自動ドアが開いて、
「いらっしゃいませ!」と、若い女性の声がした。
見ると、レジの前に髪をお団子にした、小柄な女の子が立っている。
あぁ、やっぱこの時間にはいないよな。そんな上手くいく訳ないし。そんぐらいわかってますから。
そう思いながら、コンビニの中を物色していると、品出しをしている男性の後ろ姿が目に入った。
背後にいる私に気づくと「いらっしゃいませ」と、こちらを振り返りながらハキハキした声を発した。
その瞬間、もう一度聞きたいとずっと求めていた声が、びっくりする位スムーズに自分の耳に入り込んできた。
この人だ。
この人「野菜ジュースの人」だ。
琴音は急に怖くなって、早歩きで別のコーナーに移動した。
どうしよう、あの人いる、あのジュースの人だ。帰りたい、なんできたんだろう、てかなんでいるの、急に困る。
顔ちゃんと見れなかった。
失敗したー。
琴音は、そわそわしながらも何もないようなフリをして、コンビニの中を物色しているフリをしている。
大丈夫だろうか。
私は挙動不審に見えてないだろうか。
ドキドキしながらカップラーメンの成分表を一生懸命見る。成分表は全く頭に入らなかったけど、少し落ち着いた。
琴音はさっきの声の主をまた探し始めた。
キョロキョロしながら、別のコーナーに行こうとしたとき、「あっ、ごめんなさい」と、聞きたかった声が聞こえて、目の前に声の持ち主がいた。
琴音はびっくりして、「あ、大丈夫です!」ととっさに答えた。
彼は短髪ではなかった。
サイドは、刈り上げていてウェーブのかかった髪を後ろに束ねていた。ピアスも開いている。
顔は涼やかな目元と端正な顔立ちで、明らかにモテそうだ。
こんな人がわざわざ木蓮の蕾を心配したの?全然重ならない。
あんなに植物と似合わない見た目なのに。
あんなチャラチャラしてるのに、お詫びに野菜ジュース2個の繊細な気遣いは何?
これこそがギャップってやつじゃないの?
ずる過ぎる。
琴音は、頭の中がパンクしそうになって、早く家に帰りたくなった。
早く帰ってとりあえず落ち着きたい。ここはダメだ。
早く頭の中を整理しなくちゃ。
何も買わずに出るのは申し訳なかったので、何を買っていいかもわからず、この前の野菜ジュースを1つ買った。
さっき、家から出てどれくらい時間が経ったのだろう。早歩きで家に帰り、時計を見る。
え?10時35分?
琴音は15分しか経ってないことにびっくりした。
体感は三時間、いや半日。
いや、それは言い過ぎだな。
とりあえず玄関に座って野菜ジュースを飲む。
熱くなった体にドクドクと入ってくる野菜ジュースは冷たくておいしかった。
甘過ぎず、優しくて、今までひからびていた心の中をみずみずしく変えてくれる気がした。
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