第2話
為音は、山奥の閉鎖的な村に生まれたこと以外は、ごく普通の少女だった。
口がきけない自分と分かりあえるものなどいないと、心を閉ざして、インターネットの中に逃げている。幼いころから音楽が好きで、アーティストの配信や動画を見ているだけで、じゅうぶん幸せだった。
声が出るようになったら歌を歌いたいけど、果たしてそんな日は訪れるかどうか。儚い希望を抱きながら、いつものようにネットサーフィンをしていたら、ふいに、パソコンの画面が暗くなった。
(あれ、壊れた……?)
とりあえずマウスを動かしてみると、液晶画面が金色の光を放ち、和室全体を照らした。
驚いて後ずさる為音の前でゆっくりと、光の粒が集合し、尾の長い狐の姿を形作る。
「久しぶりだな、砂陽眼(すなひめ)。もうじゅうぶんに反省したころだろうから、あずかったものを返してやるように、神からお達しが出たぞ」
狐は、創作の世界の動物のように、ヒトの言葉で滑らかに話した。
為音は、何が何だか分からなくて、目を見開いたまま硬直している。よく見ると目の前の狐は、夢の中に出てきた、白金色の狐だった。
スナヒメ、というのは確か、声を奪われた巫女の名だが、なぜ為音をその名で呼ぶのだろう。
しゃべる動物と遭遇した話など、頻繁に聞かれる村だが、まさか本当にいるとは思わなかった。今朝見た夢は、何らかの事実を含んでいるのだろうか。
いろいろ尋ねたいことはあったのだが、声が出せない為音には、意志疎通の手段が、筆談くらいしかない。ノートとペンを探そうとしたら、狐が笑った。
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