入学式①



「お腹がすいたわね。今日朝ごはんを食べていないの。だって入学式なんだもの、緊張でご飯が喉を通らなくって」


「ほへ?」


 あまりに唐突だった為、マヌケな声をだしてしまった。

 だって今日は入学式。初めての学校、初めての教室、初めてのクラスメート。なのにまさか「おはよう」とか「よろしくね」とか、そういうありきたりな言葉を交わす前に、隣の席に座る女の子は「お腹がすいた」なんて予想外な事を言い始めるんだもの。

 しかも眉ひとつ動かさない無表情で、話し方も淡々としていて、肝が座っている。緊張とか絶対にしそうにない。

 さて、どう返そうか。突っ立ったまま悩んでいると、その子はポニーテールを揺らしながら首を傾げる。


「あら、もしかしてわたしのお腹の虫が鳴いた音……聞こえていなかった?」


「あ、うん。聞こえなかったよ」


「そうなの。慌てて言い訳をして墓穴を掘ったわ」


 慌てて? 慌てている様にはとても見えないけど? そんなツッコミを気軽に入れられる程の仲ではないので、私は曖昧に笑って椅子に座る。

 すると、その子は白くて柔らかそうな手を差し出してきた。


「わたし、長崎箕ながさきみ 矢い子っていうの。よろしくね」


「……私は四葉よつば 比女子ひめこ。よろしく」


 冷たいオーラを纏う長崎箕さんだが、握ったその手はとてもあたたかい。

 言葉を交わしてから握り合った手を解くと、彼女はやっぱり無表情のままで前方を見据えた。

 変わった子だなと思う。それと同時、彼女に対してを覚える。何だろう、何かがおかしい。

 机の天板を睨みつけながら違和感の正体について考え、ハッとする。





 この子、私を見て"大きい"と言わなかった。

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